#45 二日目・夕
血盟による暴力の嵐は休み無く降り注ぎ続けた。
左にも右にも。宗教者にも無法者にも。
とくにとある省庁と官僚は念入りに殺された。
ありとあらゆる権威と権力に対し平等に暴力が振るわれたのだ。
「新興宗教ごときが政権?政教分離の原則に喧嘩を売りやがって!
高値で買ってやるから喧嘩しようぜ!
宗教は毒だって言うが本当だな!死ね!
……毒にも薬にもならなくなっちまった宗教よりはマシかもだけどな」
宗教者に。
「お、俺はまじめに罪を償って……」
「知ったことか。女子供を1月に渡って拷問して殺した。
そこのお前も、お前も殺人鬼だ。
法が許した?知ったことか。
出所後にまた似たような事件を起こしたヤツが反省した?笑わせるな。
『人殺しの獣は狩る』
お前らは法の保護に値しない。獣だ!」
無法者に。
「バカな!私は左だ!まじめに教育を管轄してきただけだ!」
「だからこそだ。盲目的に戦争を否定し、護憲を金科玉条にした結果、信用を失った。
正論だからこそ、言い方は選ばねばならなかった。
少なくとも、教育方法が軍国教育のままではだめだった。
教員に払う金も払ってないしな。まあ端的に言って……無能だ。死ね」
そして、奪った金は各都市の中心部でばらまいた。
文字通りの札束のばらまきだ。
「ははは!拾え拾えー!銭撒きだ!浄財だ!
今さっき大臣の家からぶんどってきた金だ-!」
ひらひらと舞う札を拾う大衆。地獄絵図であった。
単純な手口であったが、支持を得るには手っ取り早い方法だ。
時には航空機による爆撃、時には重機や巨大外骨格による破壊、憎しみのこもった人手による地道な殺戮も行われた。
これだけの数の動員をどう達成したか。
飛び入り参加の者も多く、彼らに真字による霊的学習手術を行うことで即席の狩人を作り出した。
皆、家から持ってきたコートと帽子で思い思いに狩人となっている。
手には包丁や鉈、斧、草刈り鎌といった日用品。
列をなして並ぶ狩人志望者をロボットが登録していく。
そして彼らの身体と武器に「真字」をスタンプで押して刻んでいく。
「真字」は狩人たちの中から見いだされた彼らの本質を表した文様だ。
これにより群衆は狩人たちの技と信念を継承するのだ。
同様に武器も「真字」を刻まれ、わずかにではあるが神秘の力を帯びる。
ぞろぞろ、ぞろぞろと狩人達が町に増えていく。
帽子をかぶりコートを着込み、手には日用品の武器を持って。
大通りを狩人達となった群衆が埋め尽くすのは異様な光景だった。
「さぁて……いよいよ国盗りの総仕上げさね」
「ああ、待ちに待った瞬間だ。これで獅子吼に恩が返せるな」
そして、大混乱の中で首相官邸へとなだれ込む主力部隊。
しかしそこにはわずかなSP以外誰もいない。
「災害用シェルターか。どうするね「剣聖」の」
「そのために俺を連れてきたんだろう「梟」の」
目の前にそびえるのは分厚いシェルター。そこに竹光を穿いた「剣聖」の狩人、久根が立つ。
すう、と息を吸い居合い切り。
ごとん、ごとんと音を立ててシェルターは切り裂かれた。
しかしそこから飛び出てくる陰が!
「十二神将が一人、騰蛇。反徒共が。数を揃えればどうにかなると思ったか?古よりの名家には我らのような者がいる」
「十二神将が一人、六合。つまりはそういうことです。我ら尊き血筋の名の下に。さあ、死合いませう」
鎖帷子に袴に覆面。つまりは忍者だ。大柄な男が騰蛇。くのいちらしき女が六合。
権力にはそれを守る者が必ずいる。彼らがそうだ。
総理の家を平安の昔から守ってきた陰達が狩人の前に立ちふさがった!
「下がりな、新米共。こいつらはあたし達の獲物さね。
いるだけ邪魔だよ。死にたくなかったら、逃げることだね」
いよいよ、権力者が切り札を切ってきた。
これより先は蹂躙ではない。死闘だ。
「うふふふふ、おそらくいるだろうとは思ったが、まさか本当に国の暗部と戦えるとはな。
楽しみだ。ああ、楽しみだ!」
かくして、首相官邸にて異能と武の頂上決戦が行われる前代未聞の事態となった。
■
同時刻、京都某所。
世間の騒乱など無かったかのように穏やかな時間が流れる大きめの和風家屋。
上品で柔らかな灯りが灯されるそこは、呪術とトリックアートじみた錯覚構造、忍者屋敷めいたカラクリで武装した魔界である。
その鉄壁の守りの最奥部……上品な老婆が書物をめくっていた。
「神子守様、首相官邸より電話が……」
壁の中より声がする。彼らもまた、忍者なのだろう。
「承りました、と答えなさい。治安維持要請でしょう?」
「いかにも。どうにもならなくなり我らに頼ってきた様子です」
忍者は秘書的な立場にあるのか、それなりに采配を任せられている様子だ。
「保身と逃げ足の速い坊やにしては耐えた物、ただし、条件を一つ。
『特例退魔業法』は通すようにと。それができぬ場合ほんの少し遅くなるやもと言っておきなさい」
「よろしいのですか?遅くなれば総理は死ぬかと思いますが」
それに対し、「連合」東の長・神子守は静かに答える。
「どのみち二番手三番手までツバはつけてあります。あの坊やがいなくなったところで大勢に影響はありません」
「はっ。ではそのように取りはからっておきます」
「ですが、そうですね……用意はしておきなさい。八卦のうち五卦までを東京に。それから……」
神子守は的確に指示を出し、反撃体制を整えていく。
それはちょうど弓を引き絞るのに似ていた。
つまり、いつでも撃てるということだ。
「以上です。細かいところは二時間以内に詰めて私に報告なさい」
「ははっ」
壁の中を音も無く気配が消えていく。
神子守は茶を一口のみ、上品にほほえんだ。
「ふふ……これほどの戦いは久々という物。柄にもなく、血が騒ぎますね」
ついに日本の二大退魔勢力の反対側が牙をむく。
古き伝統と新しき力がぶつかり合うのは、まもなくだ。




