#39 血のクリスマスその1
それからわずか数日のうちに東京は白瀬の監視下に置かれた。
量産型アンドロイド警官「ヘリオス」は重武装して各地に配置され、いくばくかの権力者は軟禁状態だ。
名目上は先日の襲撃で逃亡したテロリストへの警戒であったが、
今や誰の目にもクーデターの前兆として写っていた。
そうして、政府が手をこまねいている間に運命のクリスマスが訪れる。
雪のちらほら降る昼下がり、東京ルルイエ。
数十万を超す大人数を前に白瀬は演説を行っていた。
「まず、ここに来れたのは様々な人々おかげだ。党の皆、それから退魔師、狩人、そしてここにいる皆に礼を言いたい
とても困難で、幸運なくしてはこれない道のりだった。ありがとう」
演説は最初はありがちな挨拶から始まった。
そして、あえてため息から本文に移っていく。
「30年……あまりにも長い期間が失われた。バブルの後に我々ははしごを外された。
それから政府が何をしたか?何もだ。我々の訴えは常に冷たくあしらわれてきた。
これは、平成という時代そのものが失われた時代であると言っても過言ではない」
演説のセオリー。最初はしっとりと始まるのだ。
「たった一人の政商の欲により人為的に作り出された不況で国民は多く苦しんだ。
格差を拡大させる政策は今や国民の中に明確な階級と分断を生み出している。
下層には無知を。上層にはデマを蔓延させ、我々を愚民化しようとしてきた」
静かに、ゆっくりと怒りの薪がくべられる。
「あまりにも、あまりにも長いこの30年間、霞ヶ関の一部の人間が政府から利益を得てきた。国民の税金でだ。
彼らは潤ったが、国民はその富を共有できなかった。おこぼれなど無かった。すべてはでたらめだった。
彼らは自分たちを守ったが、国民を守らなかった。その結果として自警団が発達することとなった」
そして、白瀬は高らかに宣言する。
「もう十分だろう。我々は十分に我慢した。彼らはツケを払うときだ!
すべての変化は今この場より始まる!いいやすでに始まっているのだ。
なぜなら、この瞬間はあなたたち民衆のものだからだ。
この瞬間は政府にも誰にも奪われない!」
うおお、と歓声が上がる。
「この国は霞ヶ関のどこかの一族たちのものではない。あなたたちのものだ!
我々を忘れ去ろうとしている老害どもをたたき起こそう。
我々は今まさに振り下ろされんとしている拳であると分からせよう!
さあ、あなたたちは何を望む!」
革命、革命、革命だ!と会場は揺れるほど歓声が響いた。
「よろしい、ならば革命だ!国に吠え立てるやり方という者を教授しよう。
これより先は吠え立てれば殴られ、それ故に吠えたてればさらに殴られる。
つまり意地の張り合いだ。だが、最後に立っているのは我々だ。
我々は彼らの搾取と妨害に今の今まで立っていたのだから!」
そこで、群衆は静まりかえる。
異様な魔力の圧に誰もが息をのんだ。
それは、白瀬の対面20m先に現れた黒い空間の裂け目からだった。
「おやおや……どうぞ、続けて?」
「鬼院楼蘭……!」
黒い裂け目から現れたのは妖怪の首魁、鬼院楼蘭であった。
白瀬はむしろ勇気に燃えた目で電磁警棒を抜き放ち、高らかに宣戦布告する。
「国を取った先にいるのがこの女、鬼院楼蘭だ。
ちょうどいい。私自ら困難の乗り越え方を教授しよう!」
ばしっ、と2mにも及ぶ長大な警棒は紫雷を発し、白瀬は演壇から空中の鬼院に飛びかかった!
対する鬼院はビットのように数千数万の光弾を展開し、優雅に浮遊する。
そして、誰か張ったか群衆たちとの間に結界が張られ、避難が始まる。
「人々の希望をその目の前で粉砕する……ええ、妖怪冥利に尽きるというものですわ」
美しい妖怪がせせら笑った。
これより先は神話の再現となる。




