#40 血のクリスマスその2
「問いましょう。大妖たる私が英雄たる人間に。
妖怪が問うということはこれは化かすということ。
つまり、これもまた命の取り合い。あなたにも、その方が都合がいいでしょう?
片手間に、魅せる戦いを行わなければいけない……英雄というのはそういうもの」
「応えよう。倒される側がなぜと問うならば故にと答えて殺すのが戦というものだからだ」
双方、アリーナの上空で浮かび、武器を手にしながら対峙して問い合う。
鬼院は扇子、白瀬は電磁警棒を光らせにらみ合う。
片手間の戦いとはつまり、お互いいきなりトップギアでやれば観客たる民衆を巻き込み、あげく血みどろの戦いでどん引きされる。
それは双方に利がないということだ。
「おつきあい、ありがとうございます……ふふ、では問いますわ。
まつろわぬ化外を滅ぼし、奸臣を滅ぼし、逆らう者を皆食らいつくした後、あなたは、あなたたちはどうするというのでしょう?
そうした熱狂は常に自らを食らい尽くして自滅するのが常というもの。
ロベスピエールのようにあなたが断頭台に消えますか?
それとも、ポルポトのように民を裁き尽くしますか?
いいえ、ヒトラーのように世界を敵に回す?
問いましょう。あなたは、振り上げた拳をどこに納めるというのです?」
先手を取る妖怪はつややかな声で揚々と問う。
「答えよう。私はいつも言うが、私はうまくやる。二の轍は踏まん。
奸臣を牢に、異端者を封じ、おまえたち化外を殺し……それを以て拳の納めどころとする。
有り体に言うならば、国内の浄化が終われば安定した統治に戻す。戻さねばならん」
英雄は雄々しく重々しくわかりきったことを言うようによどみなく答えた。
「ならば、と聞きましょう。それは我々の後ろにいる国と事を構えることにどうしてならないと思うのです?」
妖怪がつつき返す。
「故に、と答えよう。その国々は表立っておまえの国を支持できるほどおまえの国はまっとうか?
見捨てるさ。人は滅びに貧した味方を常に切り捨てる。それはあくまで後ろにいるだけであって、横に並んでいるわけではない。
我々があっさりとおまえたちを滅ぼしたとして、それを助けるとはとうてい思えん」
英雄が手ひどく答え返した。
妖怪は苦々しい顔で問いを続ける。
「たいした自信ですこと……では、聞きましょう。
あなたがその狩りの狂熱を以てして国を取り、治めるというならば……
我々は永劫その的として、敵として憎まれましょう。
その方が結局はあなた方の利益と安定につながるはず。
我々はそれでいいのです。それが妖怪というもの。それが結局は民の幸福につながるとなぜ分からないのです?」
呪詛めいたあるいはかすかな悲鳴のような問いを英雄は笑止とばかりに笑みを浮かべる。
「斬新な命乞いだ。それはイスラエルとアイルランドを見れば分かるだろう。
国の一部を奪われて敵と隣り合わせに暮らす。それが百年千年の遺恨になるのはわかりきったことだ。
そうなる前にここで断つ。それだけのことだ。
さあ、聞きたいことはそれだけか!私は答えた。故に倒す!」
問答の勝敗は明らかだった。英雄の優勢だ。
妖怪の呪いめいた問いは自らに跳ね返り、妖力を削る。
「いいえ、最後に一つだけ……
それで、首尾良く私たちを倒したとしてあなたは一体どんな国を作るというの?
この斜陽の国をどうやって富ませるというの?」
不可能にも思える問いに対し、英雄は切り札を魅せるにふさわしい気迫をもって答えた。
「経済政策をまともにするのは言うまでも無いが、そのための原動力に私は創界法を使うつもりだ。
ハルマンの創界法、私の創界法は実はすでに術者から切り離して運用が可能だ。
あらゆる病ももはや過去の物になり、無限の資源も手の内にある。
使い方を誤らねばこれでまともにならん方がおかしいのだ。
そして繰り返すぞ。私はうまくやる」
双方、問答から闘争へとギアを変えていく。
鬼院の体は後光のような光り輝く魔方陣に囲まれ球体のように。
白瀬の周囲には創界法によりいくつもの鉄塊が生み出され、やがてそれは巨大ロボットの組み立てへと姿を変える。
「結局は、あなたもハルマンと同じように進化の夢を見るというのね……
では妖として呪いを置いておきましょう。
あなたたち人間は常に誤ってきたと!」
光り輝く幾何学模様が無数の妖力弾を伴ってその神威を解き放つ。
「故に進化するのだ!さあ!どうした!」
巨大強化外骨格はブースターをふかし、レーザーブレードを輝きと共に抜き放つ。




