#37 暗闘の終わり
「そうさ!征服することより楽しいことなんかあるものか!
欺し裏切ってやった時の顔!策や罠にはめてやったときの爽快感!
君だってそれはわかってるんじゃあないかな?」
「ああ、そうだよ俺は悪党をぶちのめすのが楽しいよ。そんなもんしかないよ。
だけどな、闘えれば何でも良いってのはクソだろ。
何のために闘うかを忘れちゃ、そりゃただの獣だ。
獣を狩るのが狩人だ!百鬼に落ちたおめえらとは違うんだよボケナスがっ!」
氷の青と炎の赤が互いを塗りつぶし合う。
炎槌が氷刀とぶつかり合い砕き合う。
炎と氷、鉄槌と刀。相性は明らかにイルマの有利だった。
だがシンイチも刀の取り回しの良さと氷によるトリッキーな攻撃でイルマを苦しめる。
「ああそうだ……「獣」を狩るのが狩人なんだよ。兵士じゃねえ。
納得してきたぜ絶好調だ。ああ、そうだ。兵士じゃねえからこの先の戦争には行かねえ。
狩人だから獣のおまえを狩る。本能と血に負けたおまえが獣じゃなくって何だっつうんだ!
俺の中ですげーしっくりきたぜ!ありがとよ死ね!」
だが迷いを吹っ切ったイルマの勢いはまさに炎のごとし。
その火力でシンイチを追い詰めつつある。
「これは……しくじったかな?ぼくはそうは思わない、人間には……」
「やかましいわ!御託並べてんじゃねえ!」
そして、横薙ぎのハンマーがシンイチの腹に突き刺さる。
致命傷だ。
シンイチは動きを止め、氷のように体が割れ始める。
「あばよ。クソご先祖によろしくな」
「しょうがないなあ……まあ、楽しかったよ……」
シンイチは雪となって消えた。それも、やがて炎にとかされて消える。
「ふぅー……血の因縁か。精算できたのかねえ?」
イルマは珍しく胸ポケットからタバコを取り出して吸う。
彼が戦場でタバコを吸うのはあの世界内戦以来だった。
「まあ、できてないならできてないで、じっくりやるさ……この先の戦いで生き残れたらな」
黒いハットを被り直し、イルマはさらなる戦いに備えていた。
■
その頃、「連合」の若き符術士・符木津博光は、突如現れた要塞に驚きつつも用意された一室で額に汗を浮かべていた。
「これが創界術ね……バックアップしてくれるのはいいけど、妙な感じだ。いや、それよりも……」
彼の目の前には護摩壇。要するにかがり火と祭壇である。
そこにいくつもの宝玉が並ぶ。石からは並の術士が見れば目を回すほどの清浄な気が流れている。
「くそっ、いきなりモンスターマシンに乗せられたトラックの運ちゃんの気分だ」
これは博光の故郷から算出する特殊な石だ。
そんなものが算出されるのは百鬼の戦略兵器のおかげで空間がゆがんだせいなのは皮肉だった。
その特殊な石は白瀬の「人界」により解析され量産され、今や鬼院たちに一撃与えられるほどの量が積み重なっている。
「出力あげりゃいいってもんじゃねえっての……取り回しとかあるしさ……
でもまあ、俗世のしがらみもあるしなあ!やってやりますよ!」
博光は「連合」では新進気鋭で才覚ある方だ。上の下くらいである。
だがそれでも千年を生きる鬼院には及ばない。積み重ねた年月が違う。
しかし、桁外れの術である創界法によるバックアップがあり、さらにこの混乱の一瞬の不意をつけば……
「まるで一瞬ごとに道が変わる立体迷路だ……こいつが千年かけた大妖の本気か。ガラじゃないけど冷や汗が出る。
だけど、見つけた!ここだ!」
博光は素早く手で印を切り、符が立体的な曼荼羅を描く。
術が発動し、祭壇の上にあった小さな機械が「向こう側」すなわち百鬼領土内にテレポートした。
「……成功か。もうこんな冒険はこりごりだ。部長やごっちんといくような冒険がいい……」
博光はそれが何であるか知らない。
しかし相手を傷つけるためのろくでもない兵器であることは察せられた。
■
「チッ……どうやら、小石一つほど『門』を抜けられたわね。思ったよりも人間ども、やる……!」
ゲートの向こう側、寺院のような畳敷きの広大な部屋で鬼院はぎりりと歯ぎしりした。
しかし彼女は素早く魔法を唱えるとARのように多数の窓が開く。
「これ以上はこちらに被害がでますわ。皆さん、撤退を。予定回収ポイントより別の『門』を開きますわ。
残念ですが、ここはお退きなさい。白瀬は予定通りクリスマスに私自らが始末します」
今夜の作戦は失敗だ。
故にケジメとして鬼院自らが白瀬と戦う。
少なくともそれで派遣された兵たちは納得していた。
「御意」
「しょうがないですね……」
「わかったみゃう……」
残念そうな声とともに撤退が始まる。
この暗闘から、歴史もまた動き始める。
しかし鬼院はそれをわかっていない。自らの勝利を疑っていないからだ。
「さて、クリスマスにはどのドレスを着ていきましょうか?ウフフ……」




