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#35 暗闘その2

「警護対象に近づかせるな!」

「雑魚は黙ってるみゃう。発言権が欲しければ暴力を示すみゃう」


猫耳メイドが軽く宙を撫でると狩人たちの足下が強烈に爆発し、到底近寄れない。


「白瀬雷人!反権力というリベラル色を打ち出しながら、それでいてやるのは軍国化と粛正……ただの右傾化!

お前なんかただの独裁者候補みゃう!ただの!我々百鬼の敵の独裁者にすぎないのにゃう!」


爆炎を雷が切り裂く。


「そうだ。だがお前達百鬼をここで見逃せば今後数百年の問題となる。

今痛みを伴ってでも滅ぼし尽くすべきだ。

そして、奸臣の粛正は民意であり『悪いことをしたら罰せられる』というごく簡単な応報にすぎない」


しかし、猫耳メイドにスタンロッドが届く前に雷を受け止めるモノが一人。

カンフー少女だ。


「マオさん!あなたは群衆を押しとどめていてください!ここは、私が……!」

「わかったみゃう!リョウコもぶちかましてくるみゃう!」

「言われずとも!」


白瀬の雷を手で掴んで弾き、リョウコ言われたカンフー少女はついに白瀬のロッドそのものと打ち合いを行う。

驚くべき事に、打ち合いは拮抗し、わずかずつであるが白瀬が押されつつあった。


「痛みを伴ってでもやる……そう言ってまた日本人を騙すんですか。

そう言って世の中良くなった試しがありません!

ならば、私たち百鬼が日本を征服して幸せに統治してあげますよ。

それに、百鬼を滅ぼす?すでに世界を二分する勢力になったのに?

ここで戦火を上げると言うことは人間対妖怪の第三次世界大戦を引き起こすと言うことですよ?

あなたは……ただ功績を出したいだけの狂人です!」


白瀬はロッドから雷を出すが、しかしカンフー少女の拳は合気の要領で雷すら受け流してしまう。


「痛みを伴ってでもやると言って世の仲良くなったためしがない、か……

そうだな。

だがあえてこう言おう。私はうまくやる。必ずだ!」


カンフー少女は百鬼という立場も忘れ叫ぶ。


「こんな国のこんな政治家たちに交戦権なんて任せられるかッ!

またやるんですか!また第二次大戦をしなきゃわからないんですか!

いいでしょうだったら私たちが米軍になってあげますよ!だから滅べ!滅べ!落ちて滅べッ!」

「案ずるな、私は負けん!精神論ではなく、技術でも無く、物量でそちらの上を用意してみせよう!」

「だったらやってみせろッ!」


カンフー少女の拳が白瀬に届くかというその時!

白瀬に加勢する退魔師が一人。連合の退魔百家が一人、双眸護兵だ。


「ならば、だからこそ……彼の邪魔は今はさせられない。もうしばらく付き合ってもらいますよ……!」

「退魔百家の拳士!邪魔をするなァ!」

「こちらにも守るべきモノがあるんでね……!悪いが、押し切らせていただく!」


素手による格闘を主体とするスタイルの彼はリョウコとのカンフーを上手く処理していく。


「たしかにこの人の強引なやり方に疑問があるのはわかる。

でも、あなたはだからこそ日本を見限って百鬼に行ったのでしょう。

ならば、日本の行く末は貴方にはもはや関係の無いことだ。

とはいえ、敵国の要人暗殺は常套手段といえばそれまでですが」


護兵の目はまっすぐ相手を見、言葉はどこまでも対等で誠実だ。

その誠実さは、カンフー少女がついに日本で出会うことが無かったものだ。


「ちっ……そこまで解っていながら、結局は体制側にいることを選ぶんですね……」

「浅ましいのは自覚している。しかし生まれは選べないんです」


魔に落ちたモノと、退魔の血筋。

共に使うは拳法、人の業。

魔拳対退魔拳!

古来から続く、しかし最新の戦いが今宵も火花を散らす!



猫耳メイドの爆撃魔術により退魔師は数を減らし。

剣聖の狩人により百鬼の雑兵共は数を減らす。


「くふっ、くふふふ……そらどうした?いい加減に雑魚狩りにも飽きが来たぞ。

この俺の首を取って名を上げるモノはいないか!」


結果としてそれなり以上に強い少数が戦場を支配していた。

しかし、そこに一石を投じる展開が。

剣聖の狩人に挑む剣士がひとり!


「首を取って名を上げる……いいねえ、そうでなきゃあ。

奪えや闘え、これこそ男に生まれた醍醐味ぞ!ってね。

勝てば万歳、負ければおしまい。そうだ、これが生きるってものさ!」


ごく薄い、氷によって出来た日本刀が4mのパイプと刃をぶつけ合う。

鉄パイプはプリンのように切れ、しかし氷の刀も砕け散った。


「くふ、くふふ……!そうだ、そちらにもなかなか話のわかる御仁がいるようではないか?

ああ、主義主張などどうでもいい。我らはこんな合戦をこそ求めていた!

そうだ、これこそもっとも人間らしい姿ではないか!」


氷の刀は再生成され、鋭い斬撃を繰り出していく。

対する剣聖は標識を指で切り裂き、振う。

剣術の腕前では剣聖が上を行っている。実際に氷刀使いは何度か手足を切られている。

しかし、氷使いの傷は氷でふさがれ、妖怪化した体は戦いながらでも自己再生していく。


「かの剣聖はやはり噂通りの人だったようだね。武人らしい信念はやはり闘って楽しい。

なにより、相性が良い……!」

「そのようだな、そちらの技は私には相性が悪い。撃ち合うたびに、手先を冷やされてはな……」


そう、標識を伝って氷の冷気が手に伝わり、今や剣聖の指先はじわじわと凍傷になっていく。

剣聖も回復魔法は使っている。しかしそれもわずかな隙をついて戦いながら使う簡易的なモノだ。

完全に凍り付くのを防ぐので精一杯だった。

戦いは徐々に氷使いに傾いていた。


「さあ、どうする剣聖?きっと驚くような手を見せてくれるんだろう?」

「ハードルを上げてくれるな。元よりこの身は剣を振うしか能が無い。

奇抜な手段は望めんぞ。だが……こういうのはどうだ?」


剣聖は足下に手をやると、畳のように敷かれていた鉄板を手裏剣のように投げ始めた。

さらに、その隙をついて鉄パイプの山に手をやり、投げ槍の要領で鉄パイプを投げる。


「なるほど!引き打ちか。たしかに合理的ではある。

鉄板を投げられれば死ぬし、なによりあなたが投げればただの鉄板も魔剣となる。

だが、遠距離戦ならこっちに分があるんだなあ」


氷使いは息を大きく吸い込み、噴き出すと吹雪がすさまじい勢いでまき散らされる。


「ふむ……これは困った。じり貧というやつか」

「そうだろうそうだろう。その体になってから苦戦というのは初めてかな?」

「まあな」

「でも、実に楽しそうだよいい笑顔だ!」

「そうか?そちらも楽しそうで何よりだ!」

「ああ、まったく……たまらない夜だ!」


剣士達は血に酔い踊る。その先の死を名残惜しく思いながら。



そして、剣聖が雑魚を押しとどめられなくなったことにより、数の有利は妖怪側に傾くかと思われた。

しかし、実は意外と拮抗している。

その理由はこの一戦、猫耳少女と鉄槌のイルマの戦いにある。


「鉄槌のイルマ……お前の選択は本当にこれでいいのみゃう?

狩人は狩人、政治に関わるべきではない、それがお前のスタイルじゃなかったのみゃう?」

「ああそうだよガラじゃねえ。ただの護衛ってのも無理筋だ。俺には関係ない戦いだよ?」

「だったらさっさと退場するみゃう!」

「だけどまあ……通さなきゃいけねえ義理ってもんもあるし、何より今からはいそうですかと逃げられるかボケッ!」


猫耳少女の爆破がイルマに迫る。

しかし、イルマはだるそうに避けずにゆっくりと近づいていく。

当然のように爆破が当たるが、イルマには傷がない。

その理由は、彼の姿にある。


「その姿……炎と一体化した姿がお前の切り札かみゃう?たしか、世界内戦の時一度だけそれを見せたみゃう?」

「そうだよ。よく知ってんじゃん。これが俺の切り札『不動明王火生三昧』だ。生半可な爆発で炎は消せねえ」


燃えさかる炎と化したイルマは猫耳少女を押しとどめる。

他の狩人を攻撃する余裕など与えない。ゆっくりと、しかしそれ故に隙が無い。

故に戦線は何度目かの膠着をしていた。


「その割にはずいぶんとろ火みゃう。お前の炎はお前の怒りの強さと聞いたみゃう。そんな生半可な気持ちで私たちを止められるかっ!」

「ああ、気乗りしねえし。わかってんだろ?

こんなん意味ねえよ……でもあんたらが白瀬を殺したら、あんたらが腐った奴らをブッ殺して侵略する。

そうじゃなきゃ、俺らがあんたらを殺して、その後『同盟』は粛正をする。

どっちにしろ白瀬が今死んだらまた流血沙汰だ。うんざりしてんだよそんなん」

「じゃあ白瀬をほっといたらどうなるか言って見ろみゃう」

「ああ、『百鬼』に報復戦争しに行くね。詰んでるじゃんいやなんだよそんなん。

俺は戦いがしたいんであって、戦争がしてえわけじゃねえし、狩人になったんであって、革命戦士になったわけじゃねえ」


イルマは珍しく迷っている。組織の方針に反対しているが、しかしそれを行動に移せない。

自分らしくない、イルマらしくなく「かっこわるい」状況に戸惑っている。

それ故に猫耳少女を殺せずにいる。



「戦線は膠着、か……ならばそろそろこちらも手札を切ろう」


白瀬が返り血をぬぐい、静かに詠唱を始めた。

そう、この時代珍しい長い詠唱……それの意味するところは、白瀬もまたハルマンと同じ領域に立ったということだ。


「おお神よ! 両手は鎖で縛られ

頸木をはめられた我らが頭を垂れる

下劣なる暴君どもが

我らの運命の支配者になるなどありえない!」


それはかつて世界内戦で劣化版が振われ、多くの未調査領域を産み出し、世界を異界化させた技。


「戦慄せよ 暴君ども そして国賊どもよ

あらゆる徒党の名折れよ

戦慄せよ! 貴様らの親殺しの企ては

ついにその報いを受けるのだ!

すべての者が貴様らと戦う兵士

たとえ我らの若き英雄が倒れようとも

大地が再び英雄を生み出す

貴様らとの戦いの準備は 整っているぞ!」


それは、新たな物理法則を心からの渇望により作り上げ、世界を染め上げる技。


「武器を取れ 市民らよ

隊列を組め

進もう 進もう!

汚れた血が

我らの畑の畝を満たすまで!」


ぎし、と世界がきしむ。

雷と共に天から機械の軍勢が降りてきた。


「人道・豊葦原(とよあしはら)千五百秋(ちいおあきの)瑞穂国(みずほのくに)


機械の軍勢はロボット警官「タイタン」と同系列のデザインだ。

それは警官用ロボットではなく新たなる国の秩序のために、革命のために作られた世界初の量産型ロボット兵「ヘリオス」だ。


「大げさな……ただのロボット召喚程度で我らを抜けられると思うか!」


人形兵たちが応戦する。AKの弾丸ではその翼のついたターミネーターめいた金属のボディを傷つけられない。

魔法が炸裂し、対物ライフル弾が突き刺さりようやく動きを止められる。そんなものだ。


「魔法だ!この無粋で不細工な機械に我らの精緻なる魔法を食らわせてやれ!」


あるいは、空間を削り取る。あるいは金属を腐らせる魔の風。あるいは、時間を操る魔法。

そんなオーバーキルなものがぶち当てられてようやく何体かが倒れていく。


「やれる!やれるぞ!機械兵であるならば我らでも倒せる!

所詮、脳のないマイクロチップのがらくたよ!」


しかし、その威勢もわずかな間であった。

雷が落ちると、新たに何百という数のヘリオスが現われる。


「さて、この後の事もある。今のうちに「量産」しておかねばな」


白瀬がつぶやいた言葉の真意、それは彼の力が「コピー」であるということ。

まるで紙をコピーするかのように機械を無数にコピーし、量産する……それこそが彼の異能。

それは強力なロボット兵と組み合わせると凶悪な威力を発揮する。


「さあどうする?鬼院。こちらの手札は一つ目を切らせて貰った」


百鬼側の召喚ゲートからは相変わらず人形兵があふれ出ている。

しかし、人間側も同じように無数の機械兵を出せるようになった。

再び、戦場は動き出した。



召喚ゲートの向こう側、百鬼領土内において鬼院もまた眉をひそめていた。


「白瀬雷人……まさか「創界法」に至るとは。どうやら私と似たようなシロモノのようですわね。

物資を無限に産み出す技……ええ、この国土で国士が創造する法とはそういうもの。

でもだからこそ……ここで死んで貰わねばならない」


ぱちん、と鬼院が指を鳴らし現われる影が一つ。

笑顔の仮面をかぶり、手にはナイフ。


「スマイリークロウ、役に立ってもらうわよ」

「あははっ、状況がよくわからないけど……何だか楽しそうだね、僕もあそこに行くよ」

「ええ、あなたに『依頼』します。人間の英雄、白瀬雷人を殺してください。

そうすることで、あなたはより多くの希望を破壊できるでしょう」

「いいよ、今はつきあってあげる。あそこから現世に呼び戻してくれた恩もあるしね」


かくして、戦場にまた一つ駒が置かれる。

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