#33 クリスマス前の特攻装警
品川区、東京ルルイエ西口。
あのたった一日で全てが終わった世界内戦により浮上した海中遺跡。
それはかのルルイエともムーの一部とも言われる。
しかし異様であったのは浮上したその数秒後にはすでにあった、軍艦島のような現代的ビル群だ。
昭和の安アパートのようなそれは高く高くバベルの塔のようにそびえている。
水中部分には河童やダゴンのような水棲人類が多く住み、水上部分には安さを求めて来た不法入居者、
あるいは魔道の探求に来た魔法使い達といった奇矯な人々が暮らしている。
品川区にかかった橋からバイクに乗ってこの水上都市に入ってくるモノが一人。
機械の骨に人工の肉、熱い魂。アンドロイド警官センチュリーだ。
「一旦停止してください。検問です、免許証の提示を」
ラガーマンのようにごついロボットが検問をしている。
彼の後輩に当たる量産型ロボット警官「タイタン」だ。
「俺だよタイタン。忘れたか?」
ヘルメットを脱いだセンチュリーはワイルドだが整った人間の顔をしていた。
「おお、センチュリー先輩。今夜はプライベートですか?」
「まあな、そんな所だ。免許だったな、ほら」
「ありがとうございます。では、お気をつけて」
「ああ、お疲れさん」
フルカウルの都会的なバイクが大きな音を立てて夜の橋を走り抜ける。
妖しく光る水上都市に向かって……
■
バイクはビルの隙間を縫って、やがて飲み屋街に入っていく。
ジジ、とネオンから火花が散り、電球が淫靡に点滅する。
やがて一件の怪しいバーにセンチュリーは入った。
「マスター、ハイネケン頼む」
ドンッドンッと重低音が響き、現職のライトの下で人々が踊り狂う。
センチュリーが入ったのはその脇にあるカウンターだ。
「ああ、ついでに暖かいモンでも頼みな」
ビールがセンチュリーの前に置かれた。
「今日は何があるんだ」
「海鮮アラ鍋、クラーケンのフライ、ケルピーの筋煮込み……」
「クラーケンのフライを少なめで頼む」
「はいよ」
マスターが鮮やかに調理をするのを見ながらセンチュリーは尋ねる。
「なあマスター。今度のクリスマスの演説、どう思う?」
「よくやるね!演説参加する人、みんな『死んでも責任問わない』って書くんでしょ?
実際の所、演説聞きに行くって言うより『百鬼』と殺し合いしに行くやつらばっかりだよね!
イカれてるよ」
センチュリーはイカフライを囓りながら眉をひそめる。
「ああ、イカれてる。何が嫌かってそんな奴らにあっさりと上の方が騙されていることだ」
マスターは肩をすくめて水棲馬の筋煮込みを少しだけサービスで渡した。
「まあイケメンだしね。何かやってくれそうな感じがするしね。
そうして皆が信じだしたら、おかしいと思ってもその勢いに乗らざるを得ないしね!
とりあえず数年は止めようがないんじゃないかな!」
マスターはへっへっへ、とやけくそ気味に笑う。
「なんでだ?同じようなことを言ってたやつは他にもいた。
見た目っていうのはそこまで重要なのか?論理は気にならないものか?」
「はっはっはっ!そんなもんだよ人間って言うのは!
見た目が良ければ騙されてしまう!そういう生き物だからしょーがないね」
そう、見た目の優劣はアンドロイドであるセンチュリーにはあまり通じない。
だからこそ、見た目や口調であっさり信じてしまう人間の気持ちがわからなかった。
彼にとって大事なのは政策である。
「しかし……あいつのやっていることはむちゃくちゃだぞ?
退魔師を特別司法警察職員にして最終的には軍隊化して百鬼まで攻め入る気だ。
自衛隊を動かせないからと言って無茶しすぎだろ。事は戦争だぞ。
日本中がまたあの戦禍に包まれることになる。それでいいのか……?」
マスターは意外と政治的な目がある男だった。故にセンチュリーもこんな話が出来る。
「多分、みんな破滅願望あるね。軍隊を白瀬が持てば、きっと金持ち共を粛正してくれる。
そー思ってるから皆反対しないね。実際、金持ち連中が貧乏人にした事を思えばね……
その後どうなっても、と思っちゃうんじゃないか?」
センチュリーにはわからない。人の持つ悪しきサガは彼にないものだからだ。
「わからねえな。そこまでして金持ちを罰したいものか?
まあ確かに、労働法と税金はあまりにひどいけどな。
だがだからって何もかもめちゃくちゃにしていいはずがねえだろう」
「恨みってのはそーいうものね。だが、世の中捨てたモノじゃない。あんたみたいな人もいる」
「人か……まあいいさ。船は手配した。避難したいやつはできるだけ避難してくれ。こんな事に巻き込まれるな」
センチュリーは千円札と大量の船のチケットのデータが入ったUSBを渡す。
マスターのツテで女子供達だけでも逃がす手はずが整っていた。
「ありがとう、センチュリー。あんたからお代は受け取れない」
千円札をマスターはそっと返した。
センチュリーはフッと笑い、背中を返す。
「センチュリー!あんたはどうするんだ?」
それは、量産型が既に出て旧型となってしまった彼への問い。
「さあな。最後まで警官として出来ることをするさ」
軽く手を上げ店の外へと出る姿は、とても寂しかった。
クリスマス前の、ほんのちっぽけな話である。




