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#22 怪盗団VS特攻装警1

「警視庁にアンドロイド警官が採用されてから5年になりました」


電気店の立体テレビにニュースが投影される。

読み上げるのはハーピーの血を引いているのか、美しい声の翼人だ。


「深淵と呼ばれる巨大怪獣群や凶悪化するサイボーグ犯罪に対応してとの事ですが、

市民からはようやく治安が回復するという期待と共に、彼等「特攻装警」シリーズはわずか5体の先行試作型。

早急な量産配備が待ち望まれますー」


夜の街ではテレビのニュースを気にするものは少ない。

とくに、サイボーグや妖怪の入り乱れるこの東京では。


「5周年記念式典では1号機アトラス氏が出席し、市民達と触れ合いました」


画面が切り替わり、市民参加イベントで手を振るアンドロイドの姿が映る。

まるでターミネーターのような体型のいかにもロボット然としたものが妖怪の子供と笑顔で写真を撮る様子。

ほぼ機械の彼は、左目だけが人間的だった。

市民と触れ合う彼は力強くも暖かそうな印象を与える目つきをしていた。

インタビューに答えるアトラス。


『犯罪の凶悪化や組織的な自警団に対し特攻装警の量産が待ち望まれています。最初の一人としてはどうお考えですか?』


インタビュアーは尖った耳に美しい顔のエルフだ。


『市民の皆様からの強い期待に身が引き締まると同時に、強く励まされる思いです。

より一層任務に励むだけですね。量産化は私の一存では不可能ですが、

皆様のご声援があればより早く実装が期待できるかと』


よどみなく言葉を選んで答える様子はまさに市民の望む高性能なアンドロイド像だ。


『ありがとうございます。では次にー』


ニュースはロボット刑事だけではない。日々、怪獣が現われ暴れては、ヴィランじみた魔法使いが出てくる。

そんな世界と毎日だ。

不夜城・東京に静かな夜は訪れない。


「あーあ、兄貴のやつあんなリップサービスしちまって大丈夫か?

まあ、断言してはいねえが。またネットが荒れるぞ……」


黒髪をぽりぽりと掻いて立体モニタを眺める男が一人。

目元を覆うゴーグルと首から下を暗色のライダースーツで隠したガタイのいい人型。

彼こそがー


「コバンワ、No,2ミスター・センチュリー。こんな所で会うメズラシね」


そう、見たところ軽いサイボーグにしか見えない彼こそ特攻装警2号機「センチュリー」だ。

彼は捜査の一環で軽くパトロールしているところをアラブ系の妖精に話しかけられたのだ。


「おう、ヘイシャムか。メシ屋の景気はどうだ?」

「まあまあね。良いネタ、ある。どうね?」


いわゆるランプの妖精であるヘイシャムはにやにやとヒゲをいじりながら尋ねる。

彼も足を洗ってビリヤニを焼いて売っているはずなのだが、外国妖怪コミュニティの情報力は侮れない。


「タレコミか。オーケー、聞くぜ」

「グッド。さすがロボットポリス……オウ、失礼。あまり怖い顔しないでほしね」

「いいからネタを言え」


人間のようにため息を吐くとセンチュリーはヘイシャムの話を聞いていく。


「なるほど、また悪ガキ共が深淵を呼んだのか。

仮にも外宇宙の神だの怪獣だのそういうもんだろあれは?

そんな簡単に呼べるのか?」


ヒゲオヤジであるヘイシャムはワハハと怪しく笑う。

青肌がこれほど嬉しくない手合いも珍しい。


「ハッハッハ。アイドントノウ!わからないね。

ただ、呼べちゃったことは確かね。どうせ、ヤクザか深淵騎士でもバックにある違うか?」


忌み嫌う相手の名前を聞いてセンチュリーは舌打ちする。


「チッ、マッドサイエンティストが堅気にヤバいもん流してるかもってか。

相変わらず深淵騎士どもは胸糞悪いぜ」


深淵騎士。それは人の手に負えない化物を使って遊ぶ者達だ。

たとえば、一般人に危険なアイテムを渡す。怪物の呼び出し方を教える、などというのは序の口。

なによりタチが悪いのは堅気にやらせてじぶんたちは全く表に出ようとしない卑劣さで、裏社会でも忌み嫌われる。

ましてや、刑事としてその被害者を目の当たりにしてきたセンチュリーには実感として彼等への嫌悪があった。


「オーケー、解った。子供が関わってるなら少年犯罪課の俺の出番だ。

……これで今度うまいケバブでも食わせてくれよ」


センチュリーは投資という名目で情報料を渡した。

実際、それは施しの類いだろう。


「ハッハッハ!サンキューミスタ!さすが頼りになるね!

あなたの義理人情、さすが日本警察思うよ」


2号機であるセンチュリーは人間らしさを重点に設計されている。

それ故彼は義理人情を重視し、結果として多少ダーティーなものにも踏み込んでしまう。

その計算された欠陥であり誇りでもある面を指摘されて、センチュリーはまた微妙な顔をした。


「俺みたいな不良警官を基準にしてもらっちゃ困るんだがな……

まあいい、早めに手を打つ。じゃあな」

「ハッハッハ、グッドナイト!」


センチュリーはヘイシャムを見送り、そして内蔵されたプログラムに沿って警察のネットワークにアクセスする。


【 日本警察ネットワーク          】

【          データベースシステム 】

【                     】

【    ――アクセスエントリー――    】

【                     】

【 >所属:警視庁生活安全部、少年犯罪課  】

【 >階級:特攻装警第3号機        】

【 >ID:APO-XJ-C001     】

【 >氏名:センチュリー          】


「さて、今夜の仕事の始まりだ」


相手は怪獣の類い。

ロボット刑事VS宇宙怪獣。

そんな対決さえ実現するこの時代に思いをはせながら、センチュリーは夜の街を駆けていく。


■


夜の高速道路。それは都会であれ田舎であれ、どこかしらの魔性を放っているものだ。

とくに、このお台場芝浦パーキングエリアはそれが顕著だ。

ベイブリッジと港の光り。そして東京湾に浮上した都市群「東京ルルイエ」は怪しい光を放っている。


「どうにも、ここに来ちまうな……」


アンドロイド警官「センチュリー」は夜景を心の栄養としながら誰にともなくつぶやいた。

首都圏で主に活動する彼にはアクセスが良く、仕事帰りにくつろげる少ない場所だ。

そこにフルカスタマイズされたいかつい白バイが横付けされる。


「お前が先についたか。センチュリー、待たせたか?」

「いや、俺も5分前についた。今日は早くカタがついたんでな」

「相手は深淵だったか。きつかったろうに」


ヘルメットを脱ぐ相手はロボット刑事の『最初の一人』アトラスだ。

ターミネーターのような金属ボディをライダースーツで隠している。

左目だけはスキンが張られ、人間的な暖かい目が覗いていた。


「ああ、パワーは弱いが嫌なタイプさ。

またテロリスト共にそそのかされたガキ共が呼び出して……よくあるパターンだよ」

「裏にいたのは誰だ?深淵騎士か?それとも百鬼の可能性もなくはないな」

「いつもの深淵騎士だ。なかなか尻尾を出しやがらねえ。

堅気にやらせててめえは前に出てきやしねえ。薄汚い連中だよ。

それで?デカい案件って何だ?」

「ああ、それだが……」


ここでアトラスは秘匿回線に切り替えた。

センチュリーもうなずき、人にしか見えぬ彼の頭蓋に声が響く。


〔これだ。先日赤坂で撮影されたものだ〕

〔ん?こいつは……おいおいまさかだろ。鬼院の使ってる顔の一つじゃねえか!

なんで日本版IRAの頭目が赤坂に?〕


電子上でやりとりされているデータには鬼族の美しい女性が映っていた。

しかしそれは公安でマークされているテロリストの顔の一つだ。

妖怪である彼女は顔を変えるくらい造作もないが、それでもそこにパターンは検出される。

今映っている顔はそのテロリストの可能性の高いとされる被疑者の顔だ。


〔聞いて驚くな。なんとこの女、横山議員の私邸に入っていった。例の党の他の議員のヤサに出入りもしている〕

〔おいおい……議員様とあろうものがテロリストの顔も知らねえのかよ……。

一応部外秘だが、あの党ならそのくらい調べれば解るだろ!?〕

〔残念だが、真実だ。この程度で折れていてはこの先の真実で人間性を失うぞ。

この女、シャ・マーフェイと名乗っているがお前の予想通り『百鬼』のボス鬼院楼蘭だ。

だが、議員共は全く気づかず占い師として重用しているらしい〕


それは恐ろしい事実だった。

日本に敵対するテロリストがまさに日本の本丸である国会議員にそうと知られず手をかけている。

国防の要に関わる緊急案件である。


〔待て、待ってくれ。議員が占い?この時代に?国を背負っているヤツが占いなんて当てにしていいのか?〕


センチュリーは当惑した。国を背負うものがそんなあやふやなものに頼って良いのか。

それが普通の感覚だろう。

しかし、1号機アトラスは冷静だ。


〔そう驚いたものじゃあない。ほんの1世紀にも満たない間にナチスだってオカルトを取り入れていた。

日本の戦後でも影では占いだのこの手の連中に騙された政治家は後を絶たない。

まして、神秘がこれだけあからさまになる時代だ。あるいはとすがってみるヤツだっている。

……それが、国を動かす政治家であっても、スーパーマンであるとは限らない〕


ううむ、とセンチュリーは唸ってしまう。

そう、この時代だ。アンドロイドが刑事になり、魔法は日々当たり前に行われる。

今でさえ、海上を若者が魔女の箒で飛び回り、さらに海中では河童や人魚が泳ぎ回っている。

つまりは、そういうなんでもありな恐るべき未来の時代なのだ。


〔スーパーマンじゃなくても人が空を飛べる時代で言う言葉かよ……

まあいいさ。それで?何が起ってる?何をすればいい?

どうせ、ろくな企みじゃないんだろうが〕

〔どうも、鬼院は隣国と戦争を煽っている。その一方でヤツの『百鬼』は明らかにあの国から支援を受けている。

そして、今あの国と日本が開戦すればどっちが得をする?誰が得をする……?少し考えてみろ〕


アトラスはいくつかの仮説を考えてみる。クレア型電子頭脳の見せ所だ。


〔鬼院が裏であの国と繋がりながら開戦を煽ってるって事は……

ああ、あの国は日本と今戦争がしたいわけだな。

だから日本の政治家を煽って日本から開戦させる。

敗戦後は百鬼と分割統治で百鬼からだけは守ってやったと大義名分立てて。

そのままカネをじゃぶじゃぶ落として米軍がやったように日本人から感謝されてもいい。

何十年も前の戦争の復讐をやってもいい。ついでに台湾も手に入るわけだ……こんな所か?〕


センチュリーの立てた予想にアトラスがうなずく。


〔どうも鬼院はそんな絵図を書いてるらしい……色々と信じがたい話ではあるけどな〕

〔信じがたいというかバカな話だろ。政治家がスパイにまんまと騙されて家まで上げて戦争始めるなんて。

おまけにあの国がそんな色気を出したら冷戦だって再開しかねねえぞ?

バカの上にバカを重ねなきゃそもそも成立しねえよこんな話。小説だったらB級品だ〕


センチュリーの怒りに、金属ボディのアトラスが少し遠くを見て言った。


〔センチュリー、こんな言葉を知っているか。『事実は小説より雑なり』だ〕

〔小説より奇なり、だろ?〕

〔だが、的を射ている。事実というのはだいたいそんなものだ。

それよりもどうするかだが……いいか、馬鹿な展開はさらに続く。

この鬼院が出入りしている政治家だが、近々怪盗団が入るらしい。本人達が予告してきた〕


怪盗団と聞いて、センチュリーの眉がぴくりと上がった。

汚職議員や悪徳企業家の悪事を暴く怪盗団は今や巷のヒーローだ。

刑事としてはまるで面白くない。


〔そりゃこの議員、ブラック企業出身だからな。自宅にゃ見られて困るものしかねえだろ。怪盗団もそれを解ってやったのか?〕

〔おそらくはな。鬼院が出入りしている事実もバラすつもりだろう。

ブラック企業の悪事も含めてな。

だがそれでは面白くない……少なくとも、上と公安はそう考えた〕

〔なるほど、怪盗団が盗みに入ってきた所を全員まとめてパクるわけか。

だが罪状はどうする?いきなり外患誘致なんて伝家の宝刀抜けねえだろ〕

〔そこは公安といえばディアリオがいる。そもそもあいつからの話だったしな〕

〔まあ、ディアリオなら何かつかんでてもおかしくねえ。

余罪から攻めてとりあえず表舞台からは退場して貰う……そんな所か。相変わらずえげつねえな。

それで、俺は?〕


そこで電脳に送られるあたらな写真。


〔怪盗団の女だが、見た目は女子高生で通る。生活安全課のお前の分野だ。

背後にバックアップしている組織があるはずだ。

同盟か、ヤクザか。似たような類いの組織がな。つまり、広域犯罪として俺が出る理由になる。

そこで俺とお前、ディアリオとフィールで事に当たる〕

〔グラウザーは?〕

〔全員出張るわけにもいかない。いざというときの控えだ。

……というのは建前で、こんな茶番じみた政治劇なんぞ見せるのはまだ早い。

いずれ避けては通れんが、今はその時ではないということだ〕

〔スネるぜあいつ……〕

〔仕事とはそんなものだ。適材適所だろう〕

〔オーケー、解った。予定を開けとくぜ〕

〔ああ、市民の信頼を警察の手に取り戻す……これがその一歩になってくれることを祈る〕


芝浦パーキングエリアから二台の白パトが飛び出していく。

夜は長い、ダンスはこれからだ。

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