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#14 魔女と野獣のパーティーナイト

「たっだいま日本!あら、お迎えありがと、トラガール」

「おう、バビロン。出張おつかれさん。インドはどうだったよ?」


ここは関西空港。

派手なインドの民族衣装を着た褐色の女性型義体男性トラニーボーグを虎柄ロリータ服女が出迎えた。


「最高だったわ!やっぱりあの国は刺激に満ちあふれてるわよ。

タクシーに8人乗ってその中でゲロ吐かれるのよ!笑っちゃうでしょ?

あと路上にはジャンキーなストリートキッズがいて、一晩買わない?って、ね!

もちろん買ったわ男女合わせて20人くらいかしら。ホットな夜だったわ」


にこやかにブッちぎりにアウトな犯罪告白をしているバビロンにトラガールは引きつった笑顔でうなずく。


「お、おう。で、情報は?」

「そっちもばっちりよ!ベッドで聞いたわ。

例の「ドゥルガー」ってヤクだけど、やっぱり日本に入ってきてるわね。

どうも、バックパッカー崩れが向こうで大量生産してるみたいね」


空港で堂々と麻薬の情報を言い出すバビロンにトラガールはさすがインド帰りは違うな……と唸る。


「オッケー、後で報告書にまとめてくれ。

つーか、その手の話題を表で言うなよ!?

あたしまで犯罪者みたいに見られるからやめてくれる?」

「あらごめんなさい。お昼にパンケーキ食べたものだから」


一見つながりがなさそうなパンケーキだが、解る人には解る単語である。


「それって、ハッピーなやつ?」

「ウルトラハッピーなやつよ」


トラガールはoh、と天を仰ぐ。食べるとハッピーに物理的になれるパンケーキ。

つまり、そういうハッパ入りである。ハーブをやっていらっしゃるのだ。


「良く空港の審査通ったな……遵法意識ってものがねえのかよ」

「そりゃそうよ。だって私、脳以外全部サイボーグだからハッピーなやつキメても効果ないのよ」

「頭おかしいんじゃねえの?!じゃあなんでわざわざ食うわけ?」

「ノリよ。味はわかるしね。ところで麻婆が食べたいわ。カレーの辛さもいいけど、中華も恋しくなったのよ」


彼女たちは喋りながら異様な速さで歩いて行く。

人混みには今の時代珍しくない妖怪や妖精、そのほかわけのわからない異種族が大勢いた。


「インドのカレーって死ぬほど辛いって聞くじゃん。なんでさらに辛みを求めるわけ……?」

「人生には、刺激が必要なのよ。あと恋もね。じゃないと退屈で死んじゃうわ」


カートを引きずりながら、バビロンは良い事言った、という笑顔でトラガールを見た。

バビロンはその名の通りクソビッチであった。



90年代に「魔術師ハルマン」により魔法と異種族の存在が公表され早30年。

おおくの戦争、科学と魔法のフュージョンの生み出す爆発的発展により、

いまや魔法はカルチャースクールで習うモノで、妖怪は外国人並みによく見かける存在となった。

混沌の時代において退魔師は自警団を組織。

魔法を使う犯罪者や犯罪妖怪を狩る「狩人」となった。



バビロンがさらっと洒落にならないことを口にするので、トラガールが個室を取った中華料理屋。

もう見た目だけで口が腫れそうな激辛麻婆をぱくぱくバビロンが食べる。


「ねえ、一つ聞いていい?」

「なにかしら」

「なんで麻婆にさらにデスソースと蜂蜜と三倍酢かけるの……?料理への冒涜かよ」

「私ははっきりした味が好きなのよ。この口の中で味が殺し合いするのがたまらなく刺激的なわけ。わかる?」

「わかりたくもねえ。なんかもう見てるだけで、青椒肉絲の味がわかんないんだけど」


見た目は綺麗な女性二人なのに、香辛料だけでうんざりするほど暑苦しい空間である。

そして早々に青椒肉絲を食い終わったトラガールはスマホを録音モードにして尋ねる。


「で、どうだったわけ。例のヤクの件」

「ああ、ドゥルガーね。あれは元々はずっと前に流行ったシャクティって妖怪化麻薬の亜種よ。

シャクティの化学合成を知ってるドラッグデザイナーがインドに持ち込んで現地で大流行。

いくつも亜種がでて、そのうちの一つが日本に逆輸入。そんな感じね」


現在、妖怪化薬は合法から違法まで巷にあふれかえっている。

合法なものは妖怪化を望む人が適切な医療機関で処方される、副作用のすくないものだ。

違法なものはそれに強い快楽と凶暴性を付加しているものが大半だ。


「で、どんな感じのブツなんだ?」

「そうね、最初の投与で強烈な快楽と共に妖怪化。その後回数を重ねるごとに快楽は据え置きでじわじわ妖怪度が上がっていくわ。

副作用が「原材料」との記憶の混交、理性の消失、最終的には乗っ取られるわね。

自己嫌悪してる人がほしがる類いのモノよ」


バビロンもスマホを取り出してジャンキーたちの「末路」を見せる。

食事時には見たくないシロモノだ。


「オーケー、そんだけ解りゃ上出来だ。

ルートについては長くなるだろうし、後々聴くわ。

どーせ百鬼テロリスト経由なんだろ。っていうか、これ忘れてた、今返す」


トラガールがキャリーバッグを開けて中から細長い袋を取り出す。

バビロンは箸を置いて袋を抱きしめる。


「ああ、おかえりなさい。やっぱりこれがないと落ち着かないわね」

「おう、あんたの相棒だ」


袋を開けると中には銃斧があった。

ショットガンの銃口近くに斧の刃をくっつけて、手斧と銃を兼ねた武器とした品である。


「さてと……そろそろそれ使うことになるだろうから、準備はいいか?」


トラガールは背中からホッケースティックを取り出した。

鞄から応援用ミニバットを腰に何本も取り付ける。内部にダイナマイトを内蔵した爆弾だ。


「ええ、もちろん!やっぱり飽きない生活って言うのは素敵ね!」


バビロンは聖母のような笑みで右手に銃斧を、左腰にチャクラムの大量に入ったホルスターをつける。


「そこんところだけは解るわ。あー、まったく刺激的だな。メシくらいゆっくり食わせろよクズ共が!死ねよ。

何がテロリストだヤクの売人風情がよ!不用意にキレ散らかしちまいそうで困っちまうぜ!最高だな!死ね!」


トラガールの流派「CCT罵倒短棒術」の戦意高揚メソッドである。

彼らは戦場に「怒り」を見いだし、その高揚と快楽に身を任せる。

彼らの罵倒とは敵に対する挑発であり、さらなる力と快楽を引き出す祈りなのだ。

つまり彼女もまたクソビッチである。


「なんだかんだで、あなたも大概な刺激好きだと思うけど?」

「うん、知ってた」


その言葉と共にサイバネで武装したマフィアたちが料理店の個室に殺到する!



「狩人、トラガール、バビロンか?」


覆面をしたサイバネマフィア集団が青龍刀や拳銃を手に問いかける。


「そうだけど?で、あんたらはあたしらを殺りに来たって認識でOK?」


返答は弾丸だった。

一斉に鳴り響く弾丸のドラム。

サイバネの正確無比な射撃をトラガールは気功で強化した感覚のみで巧みに避ける。

片や一瞬で魔術防壁を組み上げ、弾丸を受け止めるバビロン。

かつてでは考えられない化け物じみた双方の攻防はいまや一般的なものだ。


「オーケーオーケー、パーティーらしくなってきたじゃん?

呼んでねえよどんなサプライズだぶっ殺すぞ」


トラガールが片手にビール瓶を持ち一口飲んでからその辺のチンピラの頭を叩く。

更に回転するようにホッケースティックを振り回し次から次に次に敵の骨を折り、頭蓋をへこませる。


「あらそう?刺激的でいいじゃない!私は好きよ」


バビロンも負けてはいない。

銃斧振り回し、避けようがない至近距離でショットガンをぶっぱなす。

このサイバネと魔術による超人化した戦いであっても、経験値は絶対的な差として有効だ。


「そりゃあんたはな!で、もう終わりか?

なんかあんだろ切り札がよ。さっさと出さねえと皆死ぬぞ?

ドサンピンがよ!気合見せろ!」


トラガールがガツンとスティックをついて威圧する。

チンピラたちが慌てて後ろに下がり誰かを呼ぶ。

助っ人だろうか?


「し、先生!先生!」


雑魚達の囲いをかき分けて大柄な男が出てくる。


「遅くなったな……ほう、狩人か……悪くない。

お前は俺の死に場所に足る相手か?死ぬに足る何かなのか?」


出てきたのは2mはある狼男だ。

黒い毛皮に中華風の出立ち。


「あ?いきなり出てきて何ポエムかましてんだこのワンちゃんはよ!」


殴りかからんとしたトラガールをバビロンが止める。

ここは自分の出番だと。

トラガールもそれを理解し、雑魚たちに向かっていく。


「ああ、あなたは死に場所を求めてる類いなのね。

そういう愛し方をしてもいいってことよね。

素晴らしいわ、私は全力であなたを狩り、あなたの死に場所となる事で愛を証明する。

それでは不足?」


同じノリの女がいた、バビロンだ。

彼女は一目でこの詩的な野獣を気に入ったようだ。


「いや、悪くない・・・それで倒されるならば、それでいいだろう」


意外に野獣もまた乗り気であった。とんだ美女と野獣である。


「じゃあ決まりね。とことんまで愛し合いましょう!」


狼男が咆吼と共に爪で攻撃を仕掛ける。バビロンは寸前で見切って逆に懐に飛び込みショットガンをぶっ放した。


「さあ、あなたはどうやって葬送(おく)られたいの?

死闘の果てなのはもちろんだけど、焼くのが好き?それとも食べられるのがお好み?

いえいえ、散骨も悪くないし、剥製にして飾っても良いわ」


早口で喋るバビロンに狼男は距離を開ける。だが、それはバビロンにとって絶好の好機だ。

今までまき散らした散弾一個一個が爆裂する。

バビロンは弾丸一個一個に爆裂術式を刻んでいたのだ。


「骸など好きにするがいい。勝てればな、それが勝者の特権だ」


しかし狼男もやるもので、無理矢理再生してバビロンのサイボーグボディに抜き手を突き刺した。


「ああ、深い・・・殺意が伝わって、気持ちいいの!」

「救えぬ淫売だな、だが、だからこそ良い狩りだ!」


バビロンの長い黒髪が狼男に突き刺さり浸食する。


「ええ、だから・・・・・・もっと楽しみましょう?」


そして再度の爆裂術式が作動した。

それは狼男の体内からナノサイズの爆弾を送り込み、血中から臓腑まで爆発させ尽くす。


「ナノサイズ爆裂術式に、その目は邪眼か!視界内全ての物体の任意爆発・・・・・・!

なんという・・・・・・まったくなんという女だ!人の身でそこまで成り果てるとは!

ああ、たしかにいい女だ・・・・・・ゆえに、こちらも遠慮せず貪らせて貰おう。それが敬意だ!」


狼男も大概に化け物で、そこから再生してみせる。


「ええ、そうよ。遠慮しなくて良いの。もっと、もっと近くに!愛し合いましょう!」

「そうだ、確かにこれは睦言だ!いいぞ、抱いてやる!」


今度は狼男のターンだ。爪で切り裂き、殴り、蹴り、抜き手で貫く。


「ああ、あああっ!そうよ、まるで抱きしめられてるみたい・・・・・・あなたの命を感じるわ!

さあ、共に果てるまで、高めあいましょう!」


しかしバビロンもただのサイボーグではない。金をかけたサイボーグだ。

液体金属ボディはスライムのように傷つけ散らしてもすぐに粘土のように元に戻る。


「ああ、そして・・・・・・これをぶちこんでやる!先に逝けぇ!」

「いいえ、あなたの死に場所となったのだから・・・・・・!

まだ果てるわけにはいかない。あなたに満足の行く死を!愛を!」


狼男が脳があると推測した眼孔に抜き手を突き刺す。

しかしバビロンは再び狼男を抱きしめ、黒髪で拘束し、狼男にキスをした。


そして大爆発と爆炎が店を覆った。


「ああ・・・・・・最高だったわ。あなたは、どう・・・・・・?」


燃えさかる料理店の床に上半身だけとなった二人が転がる。


「悪くない、いいや、死に損ないには上等すぎる死に場所だ。良い酒に、いい女・・・・・・満足だ」


キスの瞬間、流れ込んできた爆薬は酒の味が確かにした。

全身爆薬女バビロンの粋なこだわりである。


「そう、ゆっくりお休みなさい。私も満足よ・・・・・・」


二人の違いと勝敗は明らかだ。

いかな仕掛けによってか、バビロンは頭蓋を貫通されたにもかかわらず再生し。

狼男は再生限界らしく、どんどん灰になり朽ちてゆく。


「・・・・・・手向けだ、食ってくれるか?」

「もちろん。素直でないのだから・・・・・・ふふ、うふふ・・・・・・」


しばし、生臭い音が響いた。

おぞましくも美しき退廃の宴である。


「うわなにこれ。どんな恋愛上級者だよ!?

命がけすぎてちょっと引くわ。っていうかずらかるぞ!」


トラガールが虎柄バイクでドアを蹴破って燃え墜ちるレストランに乱入してきた。

雑魚を片付け、バイクで迎えに来たのだ。


「はいはい、もうちょっと余韻を感じていたかったのに」


バビロンは口に血をつけて五体満足全裸で立ち上がる。


「そいつはクソマフィア共に言えよ!?早く逃げるぞ!?

こりゃ今晩はオールでパーティーナイトだな!楽しくて泣けてくるわ」

「まあ!それは刺激的で素敵な夜ね!今夜もとことん騒ぎましょう!」


バイクが爆音と共に夜を切り裂く。今夜は、騒がしく熱い夜となりそうだ。

これもまた、宵闇の時代の日常的な一コマである。

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