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『明日の遺跡を掘る者たち』  作者: asnt2026


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第4話 八番目の紋章

削られたものほど、見たくなる。


それは発掘を仕事にする人間の悪い癖だと、トルヴは言った。


だから彼自身が誰より先に工具を取り出したことについて、リゼは何も言わなかった。


「削った上から別の石粉を塗ってある」


トルヴは石碑の中央へ顔を寄せた。


「消したあと、目立たなくしてるな」


「誰が?」


ダインが訊く。


「六百年後の誰かだろ。俺に聞くな」


「もっともらしく言ったから知ってるのかと思った」


「お前は俺を何だと思ってる」


「口の悪い穴掘り」


トルヴが振り返った。


ダインはもう広場の警戒へ戻っている。


いつもの調子だ。


けれどリゼには、彼が少し頻繁に墓所の方角を見ているのが分かった。


自分の名前が刻まれた棺。


中にあった骨。


誰も口にはしない。


それでもあの墓室から持ち出したものは、全員の間に薄く残っていた。


「剥がせる?」


リゼが訊く。


「時間はかかる」


「壊さないで」


「俺が何年この仕事やってると思ってんだ」


十一年。


その数字が頭へ浮かんで、リゼは口にする前に飲み込んだ。


父が死んだ事故の頃には、トルヴはもう発掘士だった。


一度だけ父と同じ現場にいたと聞いたことがある。


詳しく訊いたことはなかった。


トルヴが薄い刃を差し込み、後世に塗られた石粉を少しずつ剥がしていく。


マレルはその横で碑文を写していた。


リゼは広場の端へ移動した。


そこから見る街は静かだった。


未来。


自分が生きているうちには訪れないほど遠い時間。


その言葉から想像していたものと、この街は違う。


もっと異様な建物があり、理解できない乗り物が走り、人間そのものも変わっていると思っていた。


けれど階段は今と同じ高さだった。


窓は人間の目の高さにある。


墓に眠る骨も、自分と変わらない。


遠いのは時間だけで、そこにいた人間は思ったより近い。


そのことが、リゼにはかえって不気味だった。


「出たぞ」


トルヴの声がした。


急いで戻る。


石碑の中央。


白っぽい塗膜の下から黒い線が現れていた。


最初は弧だった。


さらに剥がす。


円。


いや、完全な円ではない。


右上の一部が切れている。


輪の途中が、意図的に開いていた。


「これだけ?」


ダインが覗き込む。


トルヴは残った石粉を払った。


他には何もない。


動物も。


植物も。


王冠も。


七王国の紋章には必ず、王家を示す印が含まれている。


鷲。


塔。


剣。


雪花。


それぞれ意味を持つ図柄が組み合わされ、一目でどの国か分かる。


中央にあるのは、ただの開いた円だった。


「第八王国の紋章にしては地味ですね」


マレルが言った。


「国じゃないとか?」


リゼは呟いた。


「じゃあ何だ」


ダインに訊かれ、首を振る。


分からない。


ただ、王家の印には見えなかった。


マレルが碑文を指した。


「もう一つ変なところがある」


七つの紋章の下には、それぞれ国名らしき文字が刻まれている。


現在の国名と少し違うものもあるが、読める。


中央の開いた円。


その下には何もない。


正確には、空白ではなかった。


そこだけ浅く横線が引かれている。


「削られた?」


リゼが訊く。


「違う。最初から文字を入れていない」


マレルが答えた。


「名前のない国?」


ダインが言う。


「だから国と決めるなって」


リゼは返しながら、墓所のことを思い出していた。


八つの棺。


七王国の紋章。


そして八番目。


《最後の発掘者》


リゼ・アシュレイ。


偶然かもしれない。


そう思おうとすると、石棺の左肩の骨が頭に浮かぶ。


「墓へ戻ろう」


リゼは言った。


「何か気づいたか?」


トルヴが立ち上がる。


「八つの棺をもう一度見たい」


四人は広場を離れた。


戻る途中、リゼは何度も建物の壁を見た。


七王国の意匠が混ざっている。


けれど開いた円の印はどこにもない。


墓所へ入り、ランタンを高く上げる。


最初の石棺。


側面にルヴェルの鷲。


二つ目にはネフラ。


順に確認していく。


七つ。


そして最後。


自分の名が刻まれた石棺。


リゼは側面へ回った。


昨日までなら何の意味も持たなかった浅い彫刻がある。


埃を払う。


線が現れた。


円。


右上だけが開いている。


広場で見つけたものと同じだった。


「リゼ」


ダインの呼び方が変わった。


護衛が依頼人へ向ける声ではない。


リゼは答えなかった。


自分の墓に刻まれた印へ、指を当てる。


七つの国の中央に置かれながら、国名を持たない紋章。


王冠もない。


そしてなぜか、自分の墓に刻まれている。


第八王国。


その考えは、たぶん間違っている。


なぜならこの印は、王を示していなかった。


では何を示しているのか。


開いた円の切れ目を見ていると、閉じかけた何かをわざと閉じずに残したように見えた。


その意味を、リゼはまだ知らなかった。

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