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『明日の遺跡を掘る者たち』  作者: asnt2026


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第3話 七つの国が消えた街

墓室を出ても、自分の骨の白さが目の奥に残っていた。


リゼは何度か瞬きをした。


消えなかった。


地上へ戻れば、もっと詳しい鑑定ができる。


棺の記録も調べられる。


それまでは決めつけるべきではない。


頭では分かっているのに、左肩が妙に重かった。


痛みはない。


それでも歩くたび、古傷の場所を意識してしまう。


「戻るか」


ダインが隣に来た。


「何が?」


「調査だ。今日はもう十分だろ」


彼がそういう提案をするのは珍しい。


危険がなければ進む。


時間があるなら調べる。


普段ならその二つで話は終わる男だ。


リゼは少しだけ考えて首を振った。


「戻ったら、ずっと棺のことを考える」


「ここにいても考えてるだろ」


「他に見るものがあった方がいい」


ダインは納得していない顔をした。


ただ、止めはしなかった。


四人は墓所の反対側へ向かった。


街の中心には、大きな建物が集まっている。


役所か宮殿か。


未来の用途を今の言葉へ当てはめること自体、危険だった。


通りを一本曲がったところで、トルヴが立ち止まった。


「見ろ」


建物の壁面が途中から変わっている。


下部はルヴェルでよく使われる白灰石。


二階部分は赤みのある石材で、山岳側の建築に似ている。


その上には細長い窓が並び、窓枠の彫刻は北のヴェルネ地方で見かける様式だった。


「混ざってる」


リゼが呟く。


一つの建物だけではない。


周囲を見渡すと、街全体がそうだった。


七王国それぞれの建築様式が、境目なく組み合わされている。


交易都市なら珍しくはない。


ただ、ここには「他国の文化を取り入れた」という感じがなかった。


最初から一つの様式だったように馴染んでいる。


「戦争で全部取られたとか?」


ダインが言った。


「誰に?」


「強い国に」


「雑ね」


「お前ら研究屋は何でも難しく考えすぎる」


「侵略で六百年後まで七王国の様式が同じ割合で残るなら、その方が難しいと思うけど」


ダインが黙る。


トルヴが笑った。


「リゼの勝ちだな」


「勝負してない」


街の奥で階段を見つけた。


十数段を上がると広場に出る。


そこだけ周囲より高くなっていて、六百年後の街並みを見渡せた。


人がいない。


煙もない。


風もない。


なのに空間だけが広い。


地下にいることを忘れそうになる。


天井は遥か上にあるはずだが、薄い青白い光に満たされ、輪郭が見えなかった。


未来遺跡にはこうした場所がある。


どうして明るいのか、今の技術では説明できないものも多い。


トルヴが広場の中央へ歩いていく。


そこには高さ三メートルほどの石碑が立っていた。


半分ほどが土に埋もれている。


「文字があります」


マレルが表面を払う。


上部には大きな図柄。


その下に文章が続いていた。


リゼは図柄の方を見た。


一つ目。


ルヴェル王国の鷲。


二つ目。


ネフラの双塔。


三つ目。


ヴェルネの雪花。


残りも知っている。


子どもでも分かる七王国の紋章だった。


ただ、配置がおかしかった。


横並びではない。


一つの大きな輪の中に七つが収められている。


「同盟か?」


ダインが言った。


「そう見えるけど」


マレルが下の文字を読む。


「《七地の境を廃し》……その後が削れてる」


「廃し?」


リゼは石碑へ近づいた。


指で文字の溝をなぞる。


そこだけ傷が深い。


自然に欠けたのではない。


誰かが削っている。


その下には、


《ひとつの地として》


という文字が残っていた。


「国境がなくなった?」


ダインが呟く。


「そう読める」


「六百年後には七王国が一つになるってことか」


トルヴの声に、先ほどまでの軽さはなかった。


リゼは答えなかった。


未来遺跡を調査していて怖いのは、恐ろしいものを見つけることではない。


もっともらしいものを見つけることだ。


人は意味の分からないものには慎重になれる。


意味が分かった気になったものほど、疑わなくなる。


石碑の周りを歩いた。


七つの紋章。


すべてが一つの輪の内側。


ただし、中央部に妙な空白があった。


石の色が違う。


「ここ」


リゼが呼んだ。


三人が集まる。


七つの紋章の中央。


そこだけ表面が荒れている。


何かを削り落とした跡だった。


「文字じゃないな」


トルヴが爪で傷を確かめる。


「もう少し大きい」


「紋章?」


マレルが言った。


リゼは少し離れて全体を見た。


七つの王国の紋章が、中央を囲んでいる。


もしそこにも同じ大きさの印があったなら。


七ではない。


八。


墓所にあった石棺の数も八つだった。


背中に冷たいものが触れたような気がした。


「八番目がある」


リゼが言った。


ダインが中央の削り跡を見る。


「何の?」


それには誰も答えられなかった。


七王国が消えた六百四十二年後の街。


一つになった七つの紋章。


そして、その中心から意図的に消された何か。


リゼは削られた石面へ手を伸ばした。


指先に引っかかった小さな溝だけが、まだ完全には消えていなかった。

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