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『明日の遺跡を掘る者たち』  作者: asnt2026


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第13話 未来の枝

調査から戻った七日後、深層院は一つの仮説を公表した。


《分岐未来説》


名前を付けたのは理論院の学者たちだった。


人間の選択によって未来は枝分かれし、それぞれ異なる歴史を作る。地下に見つかる複数の都市は、その枝分かれした未来が何らかの理由で残ったものではないか。


発表を聞いた瞬間、リゼは肩の力が抜けた。


会議室には何十人もの研究者がいた。


壁には二つのエリナの身体記録。


六百四十二年後の二都市。


英雄王と暴君。


死んだリゼと生きたリゼ。


これまでの発見が順番に並べられている。


全部に一本の説明がついた。


未来は一つではない。


枝分かれしている。


それなら分かる。


少なくとも、分かったような気にはなれる。


「やっぱりそうなんじゃない?」


会議のあと、リゼは廊下でマレルに言った。


「何がです?」


「未来が枝分かれしてる」


「可能性は高いですね」


「もっと嬉しそうに言ってよ」


「嬉しいんですか?」


言われて考えた。


たぶん。


少なくとも、自分の墓が未来の確定ではないと説明できる。


どこかの枝では死ぬ。


別の枝では生きる。


なら今の自分がどちらへ進むかは、まだ決まっていない。


それだけで呼吸が少し楽になる。


「リゼ」


後ろから声がした。


ネマだった。


会議中、彼女は一番後ろの席に座っていた。


一度も発言していない。


「あなたはどう思う?」


リゼが訊いた。


「何をでしょう」


「分岐未来説」


「興味深いと思います」


「それだけ?」


「学者ではありませんから」


「文献官でしょ」


「文献を読む仕事と、世界の構造を決める仕事は違います」


また逃げた。


そう感じた。


リゼは廊下の窓へ寄った。


外では雨が降っている。


石畳を歩く人々が外套を頭へ被り、小走りで通り過ぎていく。


あの人たちの未来も枝分かれしているのだろうか。


右へ曲がる未来。


左へ曲がる未来。


転ぶ未来。


誰かと出会う未来。


そう考えると、世界が急に細かく砕けていくようだった。


「枝って、どこまで増えるんだろう」


リゼが呟く。


マレルが隣へ来る。


「選択ごとなら無数でしょうね」


「私が今、窓を開けるか開けないかでも?」


「理屈だけなら」


「それ全部が地下にあるの?」


誰も答えなかった。


リゼは振り返る。


ネマも黙っている。


「それ、おかしくない?」


会議では誰も言っていなかった。


未来が分岐する。


聞けば納得できる。


けれどすべての選択で未来が分かれるなら、地下は無限の歴史で埋まる。


今この瞬間にも。


「重要な分岐だけ残るとか?」


マレルが言う。


「誰が重要って決めるの」


また答えがない。


そこへダインがやってきた。


濡れた外套を片手に持っている。


「まだいたのか」


「未来について考えてた」


「暇だな」


「護衛には難しい話だから」


「喧嘩売ってる?」


「半分くらい」


ダインは鼻で笑った。


彼は未来が一つでも百でも気にしていないように見える。


ただ、リゼには分かっていた。


墓の話が出ると、彼は以前より先に出口を確認するようになった。


気にしていない人間はそんなことをしない。


「次の調査が決まった」


ダインが紙を差し出す。


リゼが受け取る。


山岳地帯の浅層。


グラン=ヴェインとの国境近く。


小規模な遺跡群が新しく開いたらしい。


「早いね」


「休みたいなら俺が言ってやる」


「誰が」


「そう言うと思った」


ダインは歩き出した。


ネマも同行することになっている。


彼女が去りかけたところで、リゼは呼び止めた。


「ネマ」


「はい」


「さっきの発表、本当に納得してる?」


しばらく沈黙があった。


雨音が窓の外から届く。


「納得という言葉は便利です」


ネマが言った。


「説明できることと、正しいことを同じにできますから」


それだけ残して歩いていく。


リゼは背中を見送った。


「感じ悪いですね」


マレルが珍しく言った。


「そう?」


「答えを知ってる人の言い方です」


リゼもそう思った。


けれど同時に、別の引っかかりがあった。


会議で《分岐未来説》が発表されたとき。


学者たちは笑っていた。


長く答えのなかった問題へ名前が付いたからだ。


ネマだけは笑わなかった。


反対もしなかった。


まるで間違いを聞いたのではなく、


まだ途中の答えを聞いているような顔をしていた。

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