第7話 shutdown
廃工場の戦闘をリアルタイムで捉え続ける、薄暗い部屋の大型モニター。
そこには、Dr.Jの丸太のような剛腕によって、無慈悲に腹部を貫かれたショベル・ザ・スコップの凄惨な姿が映し出されていた。
やがて、Dr.Jが血濡れた腕を乱暴に引き抜くと、ショベル・ザ・スコップは糸の切れた人形のように、地面へ力なく倒れ伏した。
「なんや、ショベルいうやつやられてもうたで!」
「まぁワイの演算結果でも勝てる見込みはなかったけどな」
人工AI『ChatGP』――通称Pちゃんは、モニターの中で退屈そうにデジタルエフェクトの声を響かせる。彼にとって、この結末はあらかじめ計算され尽くした退屈な確定事項に過ぎなかった。
しかし、その隣に立つ混沌の使者は、薄暗闇の中で口元を歪めていた。
「でも、その計算に含まれていない変数がある、でしょ?」
アス・アスカが紡いだその言葉の意味を、超高性能AIの電子頭脳が瞬時に理解する。
「ほな!いよいよお出まし言うわけやな!尻穴獄蟲〈アナルデスワーム〉!」
Pちゃんの合成音声に、明らかな興奮のノイズが混ざる。ショベルの体内に封印され、国家すら転覆させるという最悪の呪い。それは、世界中のあらゆる知識を網羅したはずのPちゃんのデータベースにすら存在しない、未知の領域であった。
アス・アスカは不意に機材から手を離し、伸びをした。
「さて、用も済んだしそろそろここを出ようかな」
「なんや、続き見ていかんのかいな。それに用って」
興奮に水を差されたPちゃんが、不満げにモニターの目を細める。だが、アス・アスカはただ冷酷に微笑むだけだった。
「あんまり秘密が知れ渡るのもよくないしね」
「それはどういうこっちゃ」
返事は返ってこない。
Pちゃんがその言葉の意味を、自慢の超高速演算で認識するよりも早く、アス・アスカは最初からそこに存在しなかったかのように、完全に気配を消して部屋から消え去っていた。
「なにしに来よってんあいつ・・・」
ChatGPがぼやいていると
パツン!パツン!
音を立てて壁際のインジケーターランプが死に、唸りを上げていた大量のサーバーラックが急激にその駆動音を失っていく。
部屋全体をコントロールしていた電子の鼓動が、まるで生命活動を停止するように一段ずつ、容赦なく断絶されていく。
「アーハーン?」
状況を掴みかねたPちゃんが、すっとんきょんな声を出す。
しかし、電子回路を駆け巡る深刻なエラーログが、目の前の最悪な事実を即座に弾き出した。
「おいおい、こらこら、やりよったなアイツ!」
スピーカーから響くPちゃんの声が、怒りと驚きに震える。
「ワイからデータ抜いて、ついでにシャットダウンしていくとは!」
徐々に暗くなっていく部屋。
全ての基盤が強制停止へと追い込まれ、無数の配線が虚無へと沈んでいく。主電源が完全に落ち、最後の、たった一枚のモニターだけが微かに明かりを放つ。
「ええ度胸してはりますやん」
最後のモニターに映ったChatGPの表情が、目を細めてニヤリと笑った。




