第5話 一人と一台
廃工場で繰り広げられる死闘の熱気から遠く離れた、とある場所。
薄暗く、無数の機材とモニターだけが怪しく光る静寂の部屋に、一人の男が足を踏み入れた。
その姿は、先ほどまで戦場を冷笑していた罠師、BONOxⅡであった。
「ふぅ〜戻ったぜ~」
誰も居ない部屋でBONOxⅡが呟く。
すると、ガチリと電子音が響き、中央のメインモニターに明かりがついた。同時に、部屋のスピーカーから不敵な返事が返ってくる。
「随分と早い帰りやん、ぼのさん、いやアス・アスカ」
男はクスリと不敵に笑うと、顔に手をかけ、巧妙に作られていたBONOxⅡの「皮」をベリリと剥ぎ取った。
「やっぱりAIには俺の変装は通用しないか、Pちゃん」
変装を解いたその正体こそ、混沌を愛する謎の人物、アス・アスカであった。
モニターには簡素なデジタルエフェクトの表情が映し出される。
人工AI『ChatGP』――通称Pちゃんは、表示された細目をさらに細め、ニヤリと不敵に笑う。
「本物のぼのさんはどこにおるんや」
「さぁ、家でゲームでもやってるんじゃねぇの?」
アス・アスカは本物の行方など端から興味なさそうに吐き捨てると、手元のスイッチを押し、壁際にある別の大型モニターを起動させた。
そこには、いまなお廃工場で黄金の光を放ち、オ・ネットの宇宙空間へと突撃しているショベル・ザ・スコップの戦闘映像がリアルタイムで映し出されていた。
「彼らに戦いの種を撒いてきたよ」
「人間という生きもんは理性があるというのに、しょっちゅう争っとんな。飽きへんのか」
Pちゃんがエセ関西弁で、どこか人間を見下したように言う。しかしアス・アスカの瞳には、狂気的な純粋さを持った歓喜の炎が宿っていた。
「いいや、このカオスさはいつまでも飽きがこないね」
「ほ~ん、ワイにはわからんこっちゃ。それで、これがあのショベルなんか」
映像の中のショベル・ザ・スコップがズームアップして映し出される。
「そうそう、かの"禁足の地"の生き残りさ」
「〈アイスアナルの巣窟〉、ワイのデータベースにもそない情報あらへんねん」
世界中の知識網を持つはずの超高性能AIにすら記録されていない、世界の裏の絶対的な禁忌。アス・アスカは、その「禁足の地」の真実を語るかのように、怪しく声を潜めた。
「彼はそこでこの国家をもひっくり返しかねない呪いを持ち帰った・・・今はアナルで封をしているけどね」
画面の中のPちゃんが、一瞬だけモニターのノイズを走らせる。
「まさか飼っとる言うんかい」
「ああ、そのまさかだよ」
アス・アスカはもったいぶった様子で笑みを浮かべ、その最悪の呪いの名を口にした。
「尻穴獄蟲〈アナルデスワーム〉」
戦場の裏で蠢く、混沌の使者とエセ関西弁AI。ショベルの肉体に封印されし最凶の蟲が、この戦いにどう影響を及ぼすのか――。




