第9話 ダンジョン配信、大成功!
□:うわあああ!ルミナちゃん!!
□:うそでしょ!?
□:あああ、あかりんがまた倒れたー!
もわもわと立ち上がる噴煙が晴れると、そこには切り離されたゴーレムの腕が地面に落ちていた。
その横でライトセーバーを構えるルミナの姿。
「あっぶね! うっかりロマンを感じてる暇もないなこりゃ」
□:ルミナ無事だったあああ!
□:避けてなおかつ腕も切り付けてるとか凄くね?
□:急なおっさんみヤメレwww
「あ、あはは! 私は大丈夫! 心配かけてごめんねっ!」
ルミナは姿勢を正すと地面を蹴り、ゴーレムの股の間を滑り込む。
――ズザザザザァァ
背中側に回ったルミナは間髪入れずに『emeth』のeの部分めがけてライトセーバーを振り上げた。
――ブゥン
「あ、あれ?」
eの文字を削ったと思ったルミナだったが、あまりの手応えのなさに思わず声を上げた。
ゴーレムはeの文字ごと胴体が真っ二つに斬られ、そのまま倒れていく。
――ズズゥゥゥゥン
そのままバラバラの岩に戻り、二度と起き上がってくることはなかった。
□:なんだその威力www
□:岩を斬る剣とか半端ねぇw
「あ、あはは……一応倒せたみたい、あー、よかった」
リスナーにはただの剣で岩を斬ったように見えたのだろう、しばらくはその話題で持ちきりだった。
ルミナは転がった岩を横目に、奥の壁にある二つの扉に近づく。
「ラスボスを倒しても転送ゲートが開かないってことは、たぶん、この先にあるってことだよね」
ルミナが壁に近づくと、リスナーのコメントがにわかに活気だった。
□:ルミナちゃん!また壁に何か書いてあるよ!
□:さっきみたいな暗号か?
□:もうちょっと右に寄って!
「え、あ、こっち?」
ルミナが移動すると壁際に文字が現れた。
『左なる扉は、陽光が差す“見晴らしの間”へ至る 右なる扉は、我が友ガランの墓所へ通ず。ガランは多くの罠を避けし知者なれど、最後は遥か地の底へ消えたり』
「え、どういう意味だろう……」
ルミナにとってもこの謎かけは初めてだった。
兄からは何も聞いていない。
□:うーん、また二択かぁ
□:ガランって誰だ?
「また、みんなに頼っていいですか?」
ルミナは困ったような表情でカメラを見た。
実際、少し困っていた。
□:よし!さっきの汚名返上だぞお前ら
□:ネット考察班いるか?出番だぞ!
□:みんな頑張れ、ちょっとトイレ行ってくる
モニターの上部に選択肢のテキストが表示される。
『ルミナが進むべき道は? A:左の扉(見晴らしの間) B:右の扉(ガランの墓所)』
□:“陽光が差す”=出口の可能性?
□:“墓所”ってことは死んだ=罠?
□:でも罠を避けし知者って書いてあるぞ
□:最後が地の底に消えた=生き埋め? 墓所だし危険では?
□:ガランは怪しいし、普通は陽光が指すほうが出口だよね
様々な意見がコメント欄に飛び交う。
おおむねAの『見晴らしの間』の意見にまとまりそうな流れだった。
しかし、そんな流れを切ったのは、意外にも《あかりん》のコメントだった。
□:《あかりん》『陽光が差す』って良さそうに聞こえるけど、天井が崩落して大穴が開くって意味にも取れるわよね
□:!!!!!!
□:そ、それだああああ!
□:なるほど!天井崩壊からの生き埋めで”地の底”なのか!
□:え、あかりん鋭すぎん?
□:あかりん部屋の実況コメ有能だな
この一言でガラリとBを選択する者が増えていった。
結果、Aが16%、Bが84%という結果になった。
「みんなありがと~っ! それじゃルミナはBの扉に入るね」
ゆっくりとBの扉を開けると、その奥は静まり返った薄暗い回廊が続いていた。
見た目は荒れておらず、崩落の兆候もない。
ルミナは慎重に歩みを進めると、回廊の先に土が盛り上がった広い空間に出た。
うっすらと草が生え、盛り上がった土の一番上には木の棒が縦に刺さっている。
「これが……お墓、なのかな」
その木の棒には、煤けた銀のペンダントが掛けられていた。
ペンダントの中央には崩れかけた家紋のような紋様……恐らく、かつての探索者「ガラン」の形見だろう。
「……ここが、ガランの墓所――最深部、なんだね」
静かに呟くルミナの視線の先には、淡く輝く転送ゲートがぽっかりと口を開けている。
やがてルミナはドローンのほうへ向き直り、少し潤んだ目で笑顔を作った
「こっちの道で正解でしたね! ここが《古代鉱都リュミエール》のゴール地点みたいっ!」
□:よっしゃあああ!
□:ルミナたんの役に立てたぁぁ!
□:お疲れ様ルミナァァァァ!
ルミナは改めて墓標に目を落とし、静かに言った。
「たぶん、このお墓……《ガラン》って人のなんだと思う。すごく古くて、誰も足を踏み入れてなかったみたい。でも、だからこそ……ちゃんと見つけて、ここにたどり着けてよかったなって思う」
そして振り返ると、画面に向かって深々と一礼をした。
「初めてのダンジョン配信……本当に緊張してて、でもみんなが見ててくれたから、ここまで来れたんだよ。ありがとう……!」
□:よく頑張った!生きてるのすご
□:泣いた。ガランの墓とかエモすぎる
□:《あかりん》ゴールおめでとう!!最高だったよぉぉぉ!
「あかりさんも最後まで観てくれてありがとう! どうだったかな、そっちの実況も盛り上がってくれてたかなぁ?」
□:あかりん全然しゃべってなかったぞwww
□:ほとんどあかりんのリアクションを見るだけの部屋だったなw
□:《あかりん》だってだって、仕方ないじゃん!ずっとハラハラしっぱなしだったんだもん!
「あはは、ありがとね。あかりさんとは……迷惑じゃなかったら、今度コラボしてほしいなぁ」
□:あああ、あかりんがまたぶっ倒れたww
□:ルミナの一撃が見事に決まったなw
ルミナは流れるコメントを愛おしそうに眺めると、ふと後ろにある転送ゲートを見つめ、小さく息を吐いた。
「みんな、見守っててくれてありがとう……こうやって観に来てくれたみんなが助けてくれたから、この階層もクリアできました! じゃあ……名残惜しいけど、ここで一旦、ダンジョン配信は終了です! ちゃんと入り口まで戻れるみたいだから、今日はここでセーブってことで!」
□:うわぁぁ、名残惜しいよぉぉ!
□:めっちゃ楽しかった!!また一緒に連れてってくれー!
□:冒険っていいなって思った、ガチで
「みんなと一緒に冒険できて、ほんとうに、ほんとうに楽しかったよ……! また一緒に、次の階層も行こうね――絶対! それじゃばいば~い!☆」
画面は手を振るルミナの姿を残し、フェードアウトしていった。
コメント欄は余韻を感じているリスナーでしばらくは賑わったままだった。
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「ふぅ、緊張した……大丈夫かな、リスナーは盛り上がってくれてたみたいだけど」
俺は撮影ドローンの録画ランプが消えたことを確認すると、そう独り言ちた。
撮影開始からもうすぐ2時間が経つ……ってことは今は23時近いってことだ。
「やべ、急がないと電車がなくなる。さっさと帰って風呂入って寝よう」
俺は転送ゲートからリンクブリッジに戻ると、備え付けられた更衣室で帰り支度をした。
丁寧にマーカーを取り外し、契約していた所定のロッカーに武器を格納、脱いでいたジャケットを羽織る。
そして『Dターミナルセンター』を出て最寄り駅に向かっていると、かおる子から連絡が入った。
「もしもし、悠真くん? 悪いけど今から会社に来れる? 緊急事態よ」
「……は?」
俺は思わずその場で立ち尽くした。




