第5話 話題沸騰の新人Vtuber!!
「えーと、4万2千人……? この動画だけで登録者がこんなに!? 凄いですね!」
「42万人よ。桁が一つ違うわ」
その言葉を聞いて俺はのけ反った。
デビュー初日でチャンネル登録者数が42万人なんて、これまで聞いたことがない。
「トップVtuberの『花影 セレスティア』でもデビュー初日は5万人くらいだったわ。それだけ、世間が注目しているってことね」
「は、はぁ……」
俺は開いた口が塞がらなかった。
「何はともあれ、ルミナのデビューは大成功よ! おめでとう! これからもよろしくね!」
「あ、は、はい、頑張ります……」
注目を集めるのは嬉しいが、規模が大きくなればそれだけ正体がバレるリスクも高くなるんじゃないか?
あまりに現実感のない数字に俺は戸惑うばかりだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
_/ _/ _/SIDE:緋乃原あかり ―人気Vtuber〈ほろきゅーぶ 3期生〉―_/ _/ _/
「な、なによこの登録者数……おかしいんじゃないのっ!?」
『天乃瀬ルミナ』のデビュー動画が終わり、ふとチャンネル登録者数が凄い勢いで増えていくのを見て、あかりは思わず声を上げた。
デビュー動画でここまで伸びる新人は今まで見たことがない。
「う、うん……まぁ、たしかに……可愛いかったけどね! でも、まだ内容勝負だから!? 配信の中身で評価決めるんだから!」
必死に笑顔を作るが、表情はすでに引き攣っている。
□:あかりん、悪い部分が出てるよ!
□:負けず嫌いw
□:人気Vの余裕見せてけー!
「とりあえず、もう一回最初から見てみよっか!」
そう言ってあかりは再生ボタンを押した。
さっきまで流れていた動画が再びモニターに映る。
聞こえてくるのは動画の音声ばかりで、あかりは静かにモニターを見つめていた。
□:あかりちゃん!?声出てる!?
□:ルミナがかわいすぎてあかりちゃん固まったw
□:あかりちゃん!?正気に戻ってー!
「あ、ごめんっ! なんか呆けてた! もう歳かな……あははっ」
改めて最後まで動画を見ると、あかりは気持ちのいい笑顔を見せた。
「すごかったね、あたし、こんなにデビュー動画で震えたの、初めてかも……」
しかし、目を細めた彼女の口元は、ニヤリと笑っていた。
「でもね、ルミナちゃん。あなたがどれだけ人気者になろうと、あかりは、絶対負ける気はないんだからね!」
□:キタァァァ!!宣戦布告!!
□:これライバル同士からの百合あるやつじゃん
□:あかり×ルミナてぇてぇ
「というわけで! 次の配信、ルミナちゃんのダンジョン初配信も追っていくから! 絶対見逃すなよーっ!」
こうして『あかりんと見る新人Vtuber観測★生配信部屋』の配信は大盛り上がりのまま終了した。
あかりは配信が切れていることをもう一度確認すると、そのまま後ろのベッドに倒れこんだ。
――ボフッ
『私の名前は、あ・ま・の・せ、ルミナだよっ!』
頭の中でルミナの声を反芻する。
「こんな声、反則だよぉ……あーもう! 可愛すぎるぅぅ!」
あかりはベッドの上で抱き枕を抱えて悶絶した。
かつてないほど興奮し、顔が高揚して真っ赤になっている。
「どうしよう……お近づきになりたい……事務所に連絡すればわかるのかな? まさか個人勢じゃないよね……」
あかりはまだ気付いていなかった。
これが生まれて初めての禁断の恋になってしまうことを。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
_/_/_/ SIDE:白鷺ユリ ―底辺Vtuber〈個人勢〉― _/_/_/
「おっはよー! ユリ! 今日も早いね! まだ8時前だよ?」
「おはよ! 芽衣も早いじゃん」
「私はほら、HR委員だから」
ルミナの挨拶動画が公開された次の日、ユリが都内の『私立みたか学園高等学校』へ登校すると、教室にはすでに親友の芽衣の姿があった。
「先週、ゆりりんがアップしたダンジョン配信動画、やっと見れたよ~、遅くなってごめんね」
「観てくれたんだ……ありがとう。テスト前だから無理しなくてよかったのに」
「へっへ~、私はVtuber『白鷺ユリ』の一番のファンだからね!」
そう言うと芽衣は人差し指をビシッと立てた。
ユリは自身がVtuberであることは周りに秘密にしており、打ち明けたのは親友の芽衣、ただ一人だけだった。
「でも、結構危なくなかった? ゴブリンとか、オオカミっぽいモンスターとか……」
「ガルムね、1匹なら大丈夫なんだけど、3匹いたから……ね、まぁ本気を出せば倒せるけど」
「でもでも、ラスボスで颯爽とゆりりんのピンチを救ったのが、まさかルミナ様だったなんて!!」
芽衣は恍惚の表情を浮かべた。
「え、ルミナ様って? 誰?」
「あ、昨日のルミナ様のデビュー動画、見なかった? これ、これ!」
そう言って芽衣は自分のスマホでルミナのデビュー挨拶動画を再生する。
ユリは席に座る芽衣の肩越しにその動画を観た。
そこには会ったこともない可憐な少女の3Dアバターがぴょこぴょこと動いていた。
「なんか、デビュー前の流出動画で一気に有名になったらしいの。最初の剣の舞とか、喋り方とか、私もファンになっちゃった!」
芽衣が嬉しそうにそう言った。
「え……こんなキャラ、知らないかも」
「そうなの? ゆりりんのダンジョン配信動画に映ってたよ?」
そう言って芽衣は、ユリのチャンネルへ移動してダンジョン配信動画を再生する。
再生数はまだたったの38だった。
「ほら、ここ!」
画面は第1階層の最後、ストーンビーストの石像に対峙するユリが映っていた。
ユリが不用意にその石像に触れようとすると、突然ミシミシと石像が動き出し、振り回した尻尾にユリは壁際まで吹き飛ばされた。
──ドゴッ
「いったぁぁっ!」
辺りに粉塵が巻き起こる。
壁に背中を打ち、尻もちをついたユリのアバターが映し出される中、画面の端をスッと何かが横切った。
『あれ、おかしいな……ストーンビーストは侵入者がいて初めて石から実体化するもんなんだけど……』
可愛らしい少女の声が部屋に響く。
隣にいた芽衣が興奮して画面を寄せてきた。
「ほら、ほら! ルミナ様キター! もうここからがカッコいいの!」
画面の中では、ユリの背中越しに華麗に舞いながらストーンビーストをあっという間に倒すルミナの姿があった。
そしてユリに気付かないまま、足早にその場を去っていく。
「ほんとカッコいいなぁ……ユリもVtuberだし、もしかしたらルミナ様とコラボとか! いいなぁ、羨ましいっ!」
芽衣が舞い上がる中、幾人かのクラスメートが教室に入ってきた。
「あ、HR委員の仕事しなきゃ! それじゃユリ、また後でね」
パタパタとその場を離れる芽衣を見ながら、ユリは混乱する頭を必死に整理していた。
動画に映ったルミナという可憐な少女に関する圧倒的な違和感──。
「あれ、私が見たのって……男の人……だったよね?」




