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正体バレたら人生終了!? 陰キャのゲームオタクが「バ美肉VTuber」になってダンジョン配信を始めたら世界中のアイドルになった件  作者: はむかつ


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第26話 緋乃原あかりの本気

「サマーフェス以来ね!」

「そう、ですね……って、なんであかりさんがこんな山奥の村にいるんですか?」

「ちょ、なんで敬語なのよ……距離感おかしいでしょw」


 バーカウンターの右隣に座り、グラスの中の氷を指で転がしながら、あかりは言った。

 メインストリートですれ違ったのは、人気Vtuberの『緋乃原あかり』だった。

 あまりの偶然の出会いに言葉が出なかった俺を、あかりが半ば強引に飲みに連れ出し、今に至る。

 ユリは旅館の部屋でお留守番だ。


「で、あかりさんは、なぜ湯川村に?」

「日々の疲れを癒しに来たの」


 そう言って、あかりはグラスに注がれた液体を一口含むと、観察するような目で俺を見た。


「え……偶然……ってこと?」

「ふ、ふふふ……」


 耐えきれなくなったあかりは俯いて失笑した。


「あはは、ごめんなさい、そんな偶然あるはずないよね。もちろん、白石さんがここにきていることを知って追っかけてきたの」

「え、ど、どこでその情報を……」

「私ってこの業界に知り合いが多いのよね、本気を出せば……ね」

「そ、そうですか……」


 俺が少しを身を引いているのを見て、あかりは慌てて口を開いた。


「あ、もちろん誰にも言わないわ。私って口が堅いんだから。それに、今日はルミナ様じゃなくて、あなたに用があって来たの」

「え、俺?」

「うん、前に手帳を拾ってくれたお礼、まだしてなかったと思って」

「そんな、気にしないでくださいよ……」


 あかりはむっとした表情で、下から俺の顔を覗き込んだ。


「そんな他人行儀はやめてよ。もっと楽しく飲みましょ♪ それにしても、人里離れた温泉街にこんなお洒落なバーがあるなんて思わなかった~」

「ここは先代から受け継いだ二代目若手社長の趣味で始めたみたいですよ。まぁ今のところはあまり繁盛していないみたいですけど」


 店内には俺たち二人以外に客はいなかった。

 バーテンダーも気を使ってか、俺たちの話が耳に入らないよう遠くでグラスを拭いている。


「ふふ、今ならどんな秘め事でも話せそう」


 あかりは首をかしげて嬉しそうに言った。

 下から見上げるその視線に少し鼓動が速くなってしまう。


「せっかくの週末なのに……配信の予定は入ってないの?」

「今日は、朝のおはよう配信でリスナーとおしゃべりできたから、夜はもういいかな。白石さんとゆっくり話できる機会なんて滅多にないんだし、こっちを優先するでしょ」

「そ、そっか……」


 照れている俺を見て、あかりは笑みをこぼした。


「実はね、白石さんとタクシーで帰ったあの日、ミミちゃんに見られてたみたいで、凄い質問攻めにあったのよね。それで、わからなくなっちゃって……」

「わからなくなったって、何が?」

「マネージャーのあなたに相談することじゃないのは分かってるけど、私ね、ルミナ様はとにかく全部が刺さりまくってるの! あんなに可愛いのにダンジョンの中では俊敏で頭も良くて、それでいて健気で素直で優しくて──でも……」


 あかりは一呼吸置くと、真正面を見据えていった。


「私が好きなのって、Vtuberのルミナ様なのかな? それとも中の人が好きなのかな……? 正直会いたい気持ちが強いのは間違いないんだけど、もうわけわかんなくなっちゃって、それで少し怖くて……」


 ──ズビッ


「わひゃぁ!」


 俺はあかりの脇腹に手刀をお見舞いした。


「確かに、俺に相談する内容じゃないな」

「んもうっ、でも相談する人がいないんだもん。ミミやナナセは無条件で応援してくれるに決まってるし、親や友達にはこんなこと言えないし……」

「会社の人は? マネージャーが付いてるんだろ?」


 あかりはグラスに残った茶色い液体を一口で飲み干した。


「あの人は私になんか興味ないし。相談するだけ無駄」

「……そうか」


 急に周りの空気が冷えた気がした。


「すごいシステマチックに業務のスケジュールだけを管理してるのよ。精神的なケアなんてされたことないわ。もう鉄仮面みたいな女なんだから」

「それは……すごいな」

「だからルミナ様が本当に羨ましくて……あなたみたいな人がマネージャーだったらよかったのに」


 あかりの目が座っている。


「前、カフェで言ってくれたよね? キツかったら誰かに相談しなよって。だから、白石さんに相談したくて来たの」


 俺は以前、カフェであかりに話したことを思い出していた。

 確かにそんなことを言った覚えがある。

 しかし彼女のマネージャーがそんな対応をしていたとは想定外だった。


「そっか、辛かったな。これからは何かあったら俺に相談しな。話し相手くらいにはなってやれるから」

「ほんと?」

「ああ、男に二言はない。でもルミナの件はパスな」

「えぇ~、それがメインなのにぃ……」


 昔から見ていた『あかりん』が、俺を頼ってくれている事実が素直に嬉しかった。

 出来ることなら力になってやりたい。


「じゃあさ、LIME、交換してくれる? すぐ相談できるように」

「ああ、いいぞ。1回の相談につき100円な」

「なによそれw しかもやっすw」


 俺たちはLIMEを交換すると、バーテンダーを呼んでお代わりを注文した。

 あかりのグラスに茶色い液体が注がれ、俺のグラスにはオレンジ色の液体が注がれる。

 贅沢なことにつぶつぶ入りだ。


「白石さんもお酒、飲めばいいのに……」

「この後もまだ仕事が残ってるからな、酔っぱらうわけにはいかないよ」


 以前、21歳と偽った手前、なんとかお酒を飲まないよう誤魔化さなくては。


 グラスに入った丸い氷が小気味良い音を立てながらクルクルと回る。

 その様子を見ていたあかりの腕が、そっと俺の腕に絡み、火照った頬を俺の肩に乗せた。


「あぁ、気持ちいい……今日は気分よく酔えそう……」

「そ、そうですか」

「急な敬語はやめてw こんな良い雰囲気のバーに男と女が二人でいるのよ? もう少し、距離が縮まってもいいと思うんだけど……」

「え、えーと、こう……かな?」


 俺は不意に後ろからあかりの右肩に手をまわし、そのまま抱き寄せた。

 子ども扱いされたと思った俺の、ささやかな仕返しのつもりだった。


「っっ!?」


 驚いたあかりは俺の首筋に顔をうずめる形で硬直している。

 正直、すぐに笑い飛ばしてくれると思っていた俺は、首筋に彼女の吐息を感じ、いやがおうにも鼓動が高鳴ってしまった。

 その状態のまま時が止まる。

 ──実際は10秒ほどだったが、不意に自分がいけないことをしていると思い、そっと身体を離した。


「ご、ごめん……」

「……ううん」


 二人とも顔を赤くしたまま黙ってしまう。

 まるで子どもの恋愛のような純情さに、次第に俺は笑いを堪えることができなくなった。


「な、なによ、そんなに笑うことないでしょ?」

「あはは、いや、あまりにも慣れないことをしたなと思って……」


 それを聞いてあかりもぷっと噴き出した。


「そっか……私もこんなこと今までされたことないしなぁ」

「え、あかりさんって、結構純情なんだ、意外……」

「意外って何よっ、まぁ正直、生まれてこの方、彼氏なんていたことないけど……」

「…………………すいません」

「謝らないでよ! なんか悲しくなってくるじゃない!」


 俺たちは二人で腹を抱えて笑った。

 これまでVtuberとしての『あかりん』しか知らなかった俺は、彼女の意外な一面を知って、少し距離が縮まったと感じた。


「ねぇ、今日は龍水楼旅館に泊まるんでしょ?」

「……そこまで調べられてるんですか」

「違うわよ、この温泉街で一番立派な旅館だから、きっとそこかと思って。私もそこに予約してるのよ」

「なるほど……他は民泊施設がいくつかあるだけですしね」

「ね、温泉に入ったら……後で私の部屋にこない?」


 俺は持ったグラスを落としそうになった。

 正面を向いたまま目を見開いている俺を見て、あかりはおかしそうに笑った。


「え、ちょっと、何か勘違いしてる? 良かったら他にも相談したいことがあって……」

「あ、ああ、そういうこと……でもこの後、まだ仕事が残ってるから」

「まぁそうだよね、もっと白石さんのこと、知りたかったのにな」


 俺は何気ない素振りで腕時計を見た。

 時計の針は19時過ぎを指し示している。


「……そろそろ出ようか」

「そうね、ユリちゃんも待たせてると思うし」

 

 あかりが立ち上がり、あたふたと身支度を整えているうちに俺は会計を済ませておく。

 バーの入口から外に出ると、心地よい風が頬を撫でた。

 振り返るとあかりは自分のスマホ画面を凝視している。


「白石さん、これちょっと……まずいかも」


 そう言ってスマホの画面をこちらに向ける。

 そこにはTwittのとある投稿が表示されていた。


 『「龍水楼旅館」今日は大大大好きなVtuber、ルミ×ユリが撮影のためうちに宿泊予定!!一目でも会えないかな~!』

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