第22話 『音無村』の秘密
ルミナは耳喰らいのボスが気付かないよう、食糧庫に戻った。
そしてその場にあった竹筒と米を手にする。
(これで奴を翻弄できるといいんだけどな……)
ルミナは竹筒の中に米を入れて密閉したものをいくつか作ると、それを持って食糧庫を出た。
まだ耳喰らいのボスはグラウンドの中央付近でうろうろしている。
ダッシュブーツを使うと音に反応されるため、ゆっくりと足音を立てないよう移動し、等間隔に設置されている松明の中に竹筒を一つずつ放り込んでいった。
□:ルミナたんは何をしてるんだろう
□:お腹空いたからご飯を炊くんじゃないか?
□:そんなわけないだろwww
(よし、これで準備完了っと)
ルミナは最後の一本を入れた松明のそばでしゃがみ、その時が来るのを待った。
それから5分ほどの時間が経っただろうか。
一本目に入れた松明から突然、小気味良い破裂音が鳴り響いた。
──パァァァァァンッ! パラパラパラ パンッ パンッ
耳喰らいのボスは突然の音に驚き、猛然と音のした方向へ向かった。
しかし程なく90度左手の方向からも破裂音が聞こえてくる。
──パァァァンッ! パパパンッ! パラパラパラ……
そこから連鎖するように、四方八方の松明から破裂音が鳴り響いた。
これは竹爆ぜという現象だ。
竹の節の内部にある水分が蒸気になり、密閉空間で内圧が高まって破裂し大きな音を発する。
中に入れた米も熱を加えれば膨らんで爆ぜる……いわゆるポン菓子の要領だ。
「グゥォォォォォ!」
耳喰らいのボスは四方の破裂音に合わせてその場で右往左往している。
そろそろ頃合いだろう。
ルミナはそばの松明に入れた竹筒を取り出して、耳喰らいのボスの足元に向けて転がした。
──スパアァァァァン!! パチパチパチッ!
足元で破裂音がした耳喰らいのボスは、咄嗟に竹筒目掛けて両腕を振り下ろした。
──ズドォォォン!!
前屈みの体制で地面に両手を付けた奴の遥か頭上に、いつの間にかルミナの姿があった。
この賑やかな状況なら彼女の出すわずかな移動音はまぎれる……ルミナの思惑通りだ。
「たぁーーっ!!」
ルミナは身体を回転させながら、その勢いのまま耳喰らいのボスの無防備なうなじを両手の剣で切り裂いた。
弾力性のある肉を斬った確かな手応えを感じる。
──ブシュウゥゥゥゥッ ドサッ
首の断面から血しぶきがほとばしり、切り離された耳喰らいのボスの頭部が地面に転がった。
身体もうずくまるように倒れ、その動きを停止する。
地面に着地したルミナは動かなくなった亡骸を確認すると、カメラに振り返ってピースした。
「へへ、計算どぉーり!」
□:うおおお!やってくれた!
□:ルミナたん半端ねぇぇぇ
□:すげえ!なんか今の技アニメで見たことある!
「あ、バレてる……何かのアニメで、巨人はうなじが弱点って言ってたから真似してみたんだぁ。なんとか倒せてよかったっ!」
コメント欄が大いに盛り上がる中、ルミナがあることに気付いた。
「そういえば……転送ゲートが出ないね。まだクリア扱いじゃないのかな」
そう言ってルミナは学校の敷地内をくまなく見て回ると、校舎の裏手にお堂が建っているのを見つけた。
古い木造の建物で、お堂の中央には先ほど倒した"耳喰らいのボス"そっくりの石像が祭られている。
その脇に建てられた石碑には、掠れた字でこう刻まれていた。
『村人は“嘆き”を音に封じ、沈黙をもって神隠しを鎮めたり』
そっと石碑に触れると、儚げな村の記憶が脳裏に浮かんでくる。
──度重なる神隠しの恐怖に、彼らは霧を纏う異形のものを“救い主”として祭り上げた。
──だが嘆きの声が上がるたびに神隠しは繰り返される……無音を好む救い主が原因とも知らずに。
──村は静かになっていき、やがて村人はいなくなる。異形のものを残して。
「この村の人は、音を出すことで神隠しにあっていたんだ……救い主として祀っていた"耳喰らいのボス"が原因とも知らずに」
□:なにそれ、ひでぇ……
□:間違った神を祀ったことによる悲劇か
□:だから村人がひとりもいなかったのか
「戦って、勝つだけじゃダメなんだね。この村の“記憶”を解いてやらないと……」
そう言ってルミナは中央にある巨大な石像に向き直った。
目と鼻がなく、耳の位置に大きな穴が開いている奇妙な石像。
ルミナは5m近くある石像の頭部めがけて軽く跳躍し、腰に付けていたライトセーバーで思いのまま切り刻んだ。
──ヒュンッ ヒュンッ ヒュンッ ズズズズゥゥゥンッ
粉々に砕け散る石像。
その直後、村中の霧がふわっと揺れたかと思うと、徐々にほどけ、緩やかに消えていった。
そして厚い雲間を裂いて、一筋の光が差し込む。
長く色を失っていた村の廃墟が、柔らかな陽光に照らされた。
「……すごい……こんな美しい村だったんだ」
振り返ったルミナが言った。
山の中腹から村全体が一望できる。
茅葺屋根が陽光を浴びて光り輝き、澄んだ小川は緩やかに流れ、それでいて人の存在を感じない幻想的な光景だ。
ルミナは眩しそうに目を細め、その風景を瞳に焼き付けた。
□:なんて美しい景色……
□:なんか、心にくる風景だな
□:《あかりん》ルミたんはやっぱすごい!!!
だが霧はまたすぐに戻ってくることを、ルミナは知っていた。
このダンジョンは循環する迷宮。
霧はまた積み重なり、やがて新たな「異形のもの」を形作るのだろう。
それでも今だけは、確かに攻略の証がこの村に刻まれたのだ。
──その時、遠く離れた村の入り口付近で、引き返してきたユリが村に陽光が差していることに気づいた。
ユリは遥か先の山の中腹を眺めて笑みを浮かべた。
「霧が……晴れていく……せんぱい、クリア出来たんだ、やったねっ!」
ユリは緊張が解けたのか、その場にペタンと座り込んだ。
今まで感じなかったそよ風が、ユリの頬を優しくなでていった。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽




