第18話 身バレ不可避!
「え、うっそ! ユリちゃんって現役の女子高生!?」
ミミも自分で言って、しまった!という顔をした。
□:現役女子高生Vtuberキタァァァ!
□:マジか!未成年でここまで歌が上手いとか神過ぎる!!
□:考察班、急げ!!
「えーと、ごめんなさい……」
ミミが自分の失言に頭を下げる。
ユリはそれを見て慌てて首を横にぶんぶんと振った。
「あ、いえいえ、今のは私が悪かったです……これから気を付けます」
「でも凄くない? シオンの特徴、完璧に掴んでたよ? しかも音程にブレが一切ないなんて……」
「マネちゃん、ちょっとシオン呼んできて」
ナナセの言葉から数分後、画面の中にシオンのアバターが現れた。
「呼んだ~?」
「お、来た来た! ひとつ前のカラオケ企画で活躍した、星降シオンちゃんで~すっ!」
ミミがリスナー向けにシオンの紹介をする。
突発的なハプニングに、コメント欄は大いに盛り上がっている。
「ちょっとユリちゃんと一緒に『星灯りメロウ』歌ってくれない? 彼女めっちゃ上手いんよ!」
「い、いえいえ、そんな……」
「ぜんっぜんいいよ! 歌お歌お!」
番組内に曲のイントロが流れる。
シオンは楽しそうにユリのほうに手を振り、スッと表情を抑えると透き通るような声で歌いだした。
その声に圧倒されたユリは思わず歌うのを忘れて聴き入ってしまう。
しかしサビに入る前で我に返り、ユリはシオンの歌声に合わせて3度上の音程で参戦した。
『♪星の灯り そっと包むよ きみの涙も 夢も全部 この夜を越えて 未来まで♪』
『♪星の灯り そっと包むよ きみの涙も 夢も全部 この夜を越えて 未来まで♪』
奇麗なハモりにシオンが一瞬ぎょっとするが、音程は崩さない。
『ずっと手を離さないよ 星灯りメロウ──きみと』
『ずっと手を離さないよ 星灯りメロウ──きみと』
「え!? うそ、すごくない? 今のハモり、録音じゃないの!?」
シオンがユリの歌声に驚いてはしゃぐ。
「そ、それは褒めすぎですっ! ずっと好きで聴いてたから……覚えちゃっただけで……」
「な? な? 凄いやろ? 星降シオンを脅かす驚異の新人の誕生や!」
興奮するシオンとミミを見て、あかりがユリのもとへ駆け寄った。
「ユリちゃん、すごいよ! これはもうシオンとコラボ配信しかないっしょ!」
「え、やるやる! ユリちゃん、今度一緒に歌の生配信しようよ!」
「え、え、え……」
戸惑うユリを見てルミナは柔らかな笑顔を見せた。
これで今回のオファーを受けた目的の一つ、ユリのチャンネル登録者数アップは達成できるだろう。
「それじゃ、前半戦はここまでにしてちょっと休憩を挟もうか。星降シオンちゃんでした~っ! またあとでね~」
シオンが笑顔で去った後、5分ほどのCMを挟んで後半戦が始まった。
「あー、まだ顔が熱いよぉ……」
ユリが火照った顔に手でパタパタ風を送っている。
しかしこの場の雰囲気に慣れたのか、少しずつ遠慮がなくなってきているようだ。
後半戦も前半とやることは大して変わらないが、打ち解けてきた今、質問に答えるよりも5人の雑談がメインになってきている。
「いやでも、『ほろきゅーぶ』って熱意があれば誰でも入れるんよ」
「えー、そんなことないでしょ? だって1年で5人ほどしかデビューしてないじゃないですかぁ」
ミミの言葉にユリが疑問を投げかける。
確かに大手Vtuber事務所にそんなに簡単に所属できるなら、もっとタレントで溢れかえっているはずだ。
「んー、昨年の応募は8,000件だったかな……?」
「倍率は1,600倍じゃないですか! 全然簡単じゃないですよっ!」
「あっはは、でもウチは何も特技がないのに受かったんやで? 趣味は他人の秘密を暴露することです!って。なんで受かったのかいまだにわからへん」
ミミは腕組みをしながら首をかしげる。
「ボクもおなじ。ゲームしかやってないのに、なぜか受かった」
「ナナセは可愛いから受かって当然だよ~、私もゲーム企画ではお世話になってるしね」
「へぇ~、みんなもっとすごい苦労して『ほろきゅーぶ』に入ったと思ってた……」
ユリがあかりとナナセを交互に見ながらそう言った。
「で、ユリちゃんはどうやってルミナちゃんの会社に入ったの? 新しい会社で募集もしてなかったと思うけど……」
ユリが少し困った顔でルミナのほうを見た。
「えっと、この娘はわたしが拾ってきたんです」
「はぁ? こんな可愛い娘が道端に落ちてたん!?」
「なにそれ……ナナセも拾いたい」
ルミナの言葉にほろメンたちが一斉に反応する。
「あ、いやいや、違うんですっ! ダンジョン配信のテストの最中に、個人勢で配信してたユリちゃんを助けることになって……」
「あー! あの伝説のポロリ動画ね」
ミミの楽しそうに言う顔を見ながら、ルミナは続けた。
「今ではダンジョンの立ち回りなんかを教えていますけど、配信者としてはユリちゃんのほうが先輩ですよ」
「いえいえ! 私は超底辺Vtuberの地の底を這ってただけですからっ!!」
ユリの言葉にみんなの笑い声が響いた。
「いやぁ、人生何があるかわからんよねぇ……あ、リスナーから新しいリクエストが着たみたいよ。なになに? 『ボクの考えたさいきょうの早口言葉を言ってください』だって、可愛い~!」
ミミが両手をぶんぶんと振りながら悶絶する。
「それじゃ順番にモニターに出すから、左から順に言っていこうか。じゃあ最初はナナセへのお題ね、せーの、じゃんっ!」
『泣き笑いのナナセ七色何気ない並木道』
「えーと……なきわらいのななせなないろなにげないなみきみち、全然よゆう」
ナナセは躓くこともなく一気に言った。
表情からは感じ取れないが、ドヤ顔をしているように見える。
「さすがナナセやね! それじゃ次はあかりんかな? あ、言っておくけど、噛んだら罰ゲームだから」
「そ、そういうこと言うな! 緊張するでしょっ!」
「へっへー、はいこれ!」
『赤髪あかり、朝から赤唐辛子を食べる』
「あかがみあかりあさからあかとうがらしをたべる、え、なんか文章怖くない?」
「あはは、早口言葉にしてはちょっと簡単だったかな~。それじゃ次は、ユリちゃんの番!」
ユリが少し緊張気味に腰を浮かした。
「ユリちゃんにはこの早口言葉だよ。せーの、はい!」
『猫耳巫女の猫耳も猫耳なら、ルミナ耳も猫耳』
「『ね、ねこみみみこのねこみみもねこみみならるみなみみもねこみみ。あ、あぶなっ、言えてたかな?」
「いいよいいよ~! これは難しかったのに、ユリちゃんは活舌がいいね~! それじゃ最後はルミナちゃんだよ、準備はいい?」
ルミナはあえて自信のある表情でミミを見た。
この程度の早口言葉なら、普通に言えるだろうと心の準備はできていた。
「言える自信はあります!」
「すごい自信満々じゃんっ! それじゃ最後の早口言葉はこれだ! はい!」
『配信者新春初配信、視聴者出席者招集中』
「はいっ! 配信者しんしゅんはつは……はいしん、しちょ、しゅっしょ……しょしゅ……あ”っ!!」
あまりの大崩れに、ルミナ以外の4人が腹を抱えて笑い出す。
コメント欄も瞬く間に祭り状態だ。
□:かわいすぎて草www
□:今日の神回ポイントいただきましたw
□:噛みすぎて逆に好きwww
ルミナは顔を真っ赤にして両手で頬を押さえた。
「うぅ〜……や、やり直しっ! 今のなし!」
「だめやで。これはもう罰ゲーム確定や〜♪」
「えぇ~、っていうか、わたしのだけすごく難しくないですかっ!?」
ぎりぎりまで粘ってみたが判定は覆らず、ルミナが一発芸を披露する流れになってしまった。
とは言っても、もともと陰キャ体質のルミナには何をしていいのか皆目見当もつかない。
□:困っちゃってるじゃんw
□:ルミナちゃんの地声が聴きたい!
□:なんかカッコイイ声出してー!
「おーっと、リスナーからはイケボのおねだりが来てるぞぉ! ルミナちゃん、ファンサも兼ねてイケボ出してあげれば?」
「あ、うん、それくらいなら……」
その流れを見て、ナナセが目立たないようにミミに視線を送る。
それに気付いたのか、ミミが意地悪そうに笑った。
「ルミナちゃん、あかりんの後ろから耳元で囁いてみてくれる?」
「ほぁぁっ!?」
あかりが目を見開いて固まった。
「ぷぷ、あかりんにとってはご褒美やろ? ほら、時間ないから早く早く!」
ミミに促されてルミナは撮影スタジオの中を数歩、壁際に移動した。
モニター上ではあかりの後ろにルミナが立っているように見える。
あかりはまっすぐ前のモニター見ながらも、後ろに意識を集中しているせいか、顔を真っ赤にしながら目がうつろになっている。
ハッハッハッと吐く息も短く、過度に興奮しているようだ。
「それじゃルミナちゃんの罰ゲーム! イケボで愛のささやき! どうぞ!」
勝手に要素が追加されているが、ルミナは意を決して目の前に設置したバイノーラルマイクをあかりに見立てて囁いた。
「……今夜、責任取ってもらうからな」
「あ゛ぁぁあああああっ!!!」
あかりは白目をむいて、その場でぐらりと倒れ込んだ。
□:あかりんww大丈夫かwww
□:とんでもねえハプニングきたこれw
□:ってかルミナちゃんのイケボ最高すぎん?
□:ルミナこんな低い声出せるの凄すぎぃぃ!
*。゜:*+.:.。.☆.──配信終了──.☆.。.:.+*:。゜*
結局、あかりが目を覚ます前に時計の針が18時を回り、『マシュマロ座談会X』の番組は終了した。
ちなみにこの配信内容は後日、切り抜き動画により世界中に拡散、伝説回として歴史に残ることになる。
「あの……なんか、すいませんっ」
俺は配信が終わった後、モニター越しにミミとナナセに謝罪した。
自分の一言でまさかあかりが卒倒してしまうとは思わなかったのだ。
そんな俺をミミは笑い飛ばした。
「あはは、気にせんでいいって。あかりんもすぐ目を覚ますだろうし、番組も盛り上がったから結果オーライや」
「あかりんはルミナに会えてうれしさがばくはつしたんだと思う。ちょっと様子みてくる」
そう言ってナナセはモニターから姿を消した。
俺ももう一度ミミに別れのあいさつをし、カメラとマイクの音声を切った。
モニター内のスタジオからルミナの姿が消える。
「ふぅぅ、なんとかやり切ったか……」
一息ついて俺は側面にあったソファに倒れこむ。
ユリも機材の電源を切ったのだろう、すでにモニターの中に白鷺ユリの姿はなかった。
「あかりさん、大丈夫かな……でもこんなにルミナのことを気に入ってくれてるのは素直に嬉しいな」
帰り際にあかりの様子を見ていこうと考えていた矢先、まだつけっぱなしだったモニターからナナセとミミの会話が聞こえてきた。
「ミミ、あかりんがいなくなった」
「はぁ???」
「あかりんのブースに誰もいない……機材はそのままだった」
「──まさかとは思うけど……」
俺は嫌な予感がした。
撮影中のあかりの興奮状態は普通じゃなかった。
最後のイケボが引き金となり、ルミナへの感情が爆発して見境がなくなっているとしたら──。
俺は先日、深夜にあかりが会社へ凸してきたことを思い出した。
「まずい……!」
俺は慌ててソファから立ち上がった……が、このピンチは既に避けられないところまで来ていた。
──ガチャッ
唐突に入り口の扉が勢い良く開かれれ、目をハートにしたあかりが有無を言わさずに入ってきた。
「ルミナさんっ!!」
その場に立ちすくんだ俺を見て、あかりは目を見開いた。




