第14話 可愛い後輩へサプライズ!
ユリは座布団に正座したまま少し怯えた表情で俺を見た。
「明日で全てが決まるってわけじゃないんだぞ? これから長い時間をかけて、お前の成長していく姿を見せていけばいいんだ」
「う、うん……でも……」
「それにな、誰もお前に責任を押し付けようなんて思ってないぞ。勘違いするなよ? お前がやるべきことは、責任を果たすことじゃない。みんなの期待に応えることだ」
「期待に……応える?」
「そうだ、社長も言ってたぞ? お前には凄いポテンシャルがあるって。かわいそうだからスカウトしたんじゃないって。その言葉を信じればいいだろ?」
「私に、そんなポテンシャルなんて……本当にあるのかな」
ユリの緊張が少し和らいだのを見て、俺はパソコンの電源を入れた。
そしてユリをモニターの前に手招きをし、席に座らせる。
「それじゃVtuberの先輩たちを見て、ユリちゃんの足りないところ、学ぶべきところを勉強しようか」
そう言って俺は、チャンネル登録者数138万人の人気Vtuber『風見ミミ』のデビュー動画を表示させた。
『おっつみみみ~! みんな元気してるかぁ~? Vtuberの風見ミミだぞ~っ!』
元気爆発な第一声に始まり、手作り感満載の自己紹介。
失敗も含めて笑いに変えるテンポ感に、ユリはクスクス笑いながらも、目を細めた。
「ミミちゃんって、ほんとすごいなぁ……なんであんなに自然に話せるんだろ」
「自然に見せるために、どれだけ練習したと思う?」
「……あ」
続いて俺は、チャンネル登録者数262万人、『緋乃原あかり』のデビュー動画を再生する。
この二人を含め、俺はルミナの演技の参考にあらゆるVtuberの動画を研究し尽くしていた。
『みんなお待たせっ! あかりんだよぉ~! やっとみんなに会えた~っ!』
少しはしゃいだ後は柔らかなトーンで落ち着いた自己紹介。
時折見せる照れた笑顔がコメント欄を一気に埋め尽くす。
「あかりんは距離感がうまいんだ。ファンが“自分に話しかけてる”って錯覚するんだよ」
「なるほど、距離感……」
「ユリちゃんはどちらかというと、あかりんの傾向が合うのかもな」
「……そうなの?」
「ユリちゃんはリアクションが素直だし、話す内容も面白い。何より頭の回転が速いから、リスナーのコメントに即座に返せるだろ? それは俺には出来ないことだからな」
「そっか……ルミナでも出来ないことがあるんだ」
ユリの瞳に、ほんの少しだけ光が戻った。
「Vtuberとは違うけど、このチャンネルは知ってる?」
「えーと……『ゆきみんチャンネル』? ちょっと知らないかも」
適当な動画を再生すると、高校生の女の子が商店街でスイーツを紹介していた。
「あれ、この人、どこかで見たことあるかも」
「『ユッキー』って名乗ってるけど、この人、うちの学校の3年生だよ。|四ノ宮≪しのみや≫|沙雪≪さゆき≫さん」
「え、そうなんだ……!」
ユリは美味しそうにふわふわなかき氷を食べる沙雪を眺めた。
「前、誰もいない教室で真剣な顔でバラエティ番組を観る沙雪さんを見かけたことがあるんだ。手元でメモを取りながら全然笑ってないんだよ。人を楽しませるために陰で努力してるんだなって感銘を受けたよ」
そう言って俺は真剣な顔で画面を見つめるユリを見た。
「ユリちゃんも人一倍、陰で努力してるのを俺は知ってるよ」
「え、あ……あぅ……」
ユリが俺の視線に気付き、恥ずかしそうに目を伏せた。
「努力するっていうのは一種の才能だよ。ユリちゃんはその才能があるんだから大丈夫だ。まぁ、学校の勉強はイマイチみたいだけどな」
「な、なんで知ってるのっ!?」
俺は少し嫌らしい笑みを浮かべる。
「ぷ……が、学校の勉強なんて出来なくてもいいんだよ。それさえも『白鷺ユリ』の武器にしちゃえばいいんだから。ユリちゃんならそれができるよ」
「笑ってんじゃん、もう……でも……そうだね、努力するのは嫌いじゃないし、なんでも私の強みに変えていかなきゃ」
ユリは晴れ晴れとした笑顔になった。
「なんか頭の中の靄が晴れた気がする」
「そっか、ならよかった。あんま無理だけはするなよ」
ユリは席を立って俺のほうを向き、少し俯いた表情で上目遣いをする。
「ありがとう、先輩」
俺の服の裾をぎゅっと握りしめ、少し照れた表情で満面の笑みを浮かべた彼女に、不覚にもドキッとしてしまった。
「お……おう、その仕草はいいぞ、カメラに向けてやったらリスナーはメロメロだな。お前の武器にしろよ」
俺は照れ隠しにそう言った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そして配信当日――。
「ねぇ見て見て、使ってなかった狭い会議室を二つ、配信用の小部屋に改造しちゃった」
かおる子に案内され、俺とユリはまだ足を踏み入れてなかった奥の会議室に案内された。中を覗くと、6畳ほどの室内にモニターと複数のカメラ、壁一面に緑の幕が設置されている。
「わぁ、思ったより広い……」
「ちなみにここは汎用的に使う撮影部屋でね、今日のユリちゃんが使うのはこっち」
隣の部屋を見ると、これまでユリの配信で使用していた背景画像を模したセットが組まれていた。
「あ、すごい……椅子とサイドテーブルがある……」
「背景CGに合わせて配置してるから自由に使って。今日はここで生配信をしてもらうからね」
「わ、わかりました」
まだ若干緊張しているのか、ユリの反応が固い。
俺は軽くユリの頭を小突いた。
「緊張しすぎ、もっと気楽にいこうぜ」
「むぅ~、わかってるんだけど……」
そんな俺とユリのやり取りを見て、かおる子はニンマリと笑った。
「な、なんですか?」
「ううん、べっつに~。さぁ配信まであと30分よ、準備準備!」
そんなかおる子の思惑には気付かず、慌てて準備を始めるユリ。
そしてその時はすぐにやってきた。
「あと1分よ。配信アプリの操作は大丈夫よね、ユリちゃん」
「はい、問題ありません!」
「結構、いつも通りに気楽にやってね。スケジュールはさっき渡した通り進めてくれればいいから」
社長室のモニターに映る配信部屋のユリの姿を見て、かおる子が言った。
配信待ちのリスナー数は28人……この数字が『白鷺ユリ』の成り上がりのスタート地点だ。
時計の針が19時を回ると、BGMがフェードアウトしつつ待機画面が切り替わり、これまで通りのしょぼいユリの姿が現れた。
*。゜:*+.:.。.☆.──配信開始──.☆.。.:.+*:。゜*
『こんばんわぁ~っ! 白鷺ユリです! 観に来てくれたみんな、ありがとぉ~!』
ユリはいつも通り自己紹介を終えると、慣れた様子でコメントに返答していく。
『今日はね、みんなに見せたいとっておきがあるんだ! 楽しみにしててね☆』
□:え、なんだろ……楽しみなんだが
□:無理しないでいいよユリちゃん!
今生配信を見ている人は、心からユリを応援してくれている人たちなんだろう。
数は少ないがコメント欄は想像以上に賑やかだ。
それから40分ほど、リスナーとの会話を楽しんだユリは、一息ついたタイミングでおもむろに立ち上がった。
『それじゃ、そろそろ見せちゃおっかな~! 前にさ、一見のお客さんに容姿がひどいってバカにされて……みんなが庇ってくれたことがあったじゃない? あれからずっと気にしてたんだよね。でね、今日、新しい容姿に生まれ変わろうと思って!』
□:え!!新しいアバター作ったの!?
□:ゆりりん、お金大丈夫?
『あはは、お金はちょっとね、借金しちゃったからこれからも頑張らないと! それじゃみんな見ててね! いっくよ~!』
画面が切り替わり、古いアバターがくるくると華麗に舞う。
その要所要所がアップになり、煌びやかなエフェクトとともに少しずつ新しいアバターのパーツに切り替わっていく。
まさに魔法少女の変身シーンのようなイメージだ。
ある程度切り替わったところで、ユリの姿は逆光に包まれ見えなくなった。
『ぴょんっ!』
背景が奥行きのある3Dの可愛い部屋に切り替わり、壁際の扉から新しい容姿となったユリが跳ねながら現れた。
赤と白の巫女装束に包まれた黒髪、黒猫耳の少女。
『えへへ~、こんな感じだけど、どうかな?』
□:うおおおおおお!!
□:か、可愛いでござる……
□:これはヤバイヤバイヤバイ
『ね、ね、ね、すごく可愛いでしょ? もう私もほんとに嬉しくて……』
ユリは見せびらかすように、その場でくるくると回った。
──ガッ
『いたっ!』
興奮しすぎてサイドテーブルに膝を打ち付けてしまうユリ。
□:あああ、ゆりりん!大丈夫でござるか!?
□:興奮するのはわかるけど、身体大事に!
『えへへ、ありがと! これからみんなにユリの可愛いところ、もっともっと見てもらうからね☆ あ、そうそう、今日はもうひとつ見せたいものがあるんだ!』
そう言ってきょろきょろと周りを見出すユリ。
『えーと、このボタンでいいのかな? 押してみよーっと。ポチ!』
するとユリの後方で花びらが舞ったかと思うと、その中心にふわりと何かが降ってきた。
ピンクと白のドレスにミルキーブロンドの髪が緩やかになびく。
『ユリちゃん、こんばんわ~☆』
『え、え……うえぇぇぇぇっ!???』
ユリの悲鳴が生配信に乗り、全国に響き渡った。




