「テンペイ様、王都の裏庭で秘密の話?〜なんか、知らない人増えてきた〜」
王都の裏庭で花を咲かせた夜。
その場にいたのは、ほんの数人――のはずでした。
しかし翌日、その噂は静かに、けれど確実に広がりはじめます。
テンペイ様はいつものようにスライムと散歩しますが、
昨日よりも“見られている”気がして――。
どうぞ、ゆっくり読んでいってください。
王都の裏庭で、月明かりにひとつ咲いた花。
それを見た者は、ほんの数人――のはずでした。
月明かりに照らされて淡く光った、その小さな花は、
風に揺れながら静かに夜へと溶けていった。
朝の迎賓館。
食堂の窓から差し込む光が、
白いテーブルクロスを
やわらかく染めていた。
テンペイはスライムを膝にのせ、
焼きたてのパンをちぎっては与えている。
「ん〜、パンさんもおいしいね〜」
“ぷるんっ”
スライムは幸せそうに揺れた。
向かいに座るレオネルが、静かに口を開く。
「……昨日の夜、どこへ行っていた?」
「え〜? ちょっと木さんとお話してただけ〜」
レオネルは眉をひそめたが、それ以上は何も言わなかった。
食後、テンペイはスライムと散歩に出る。
石畳を歩くと、すれ違う人々がちらちらと視線を送ってくる。
「……あれがそうか」
「本当に咲かせるのかしら」
小声が背中に残っていく。
昨日までは、ただの通りすがりだった視線が、
今日は重く、長く、肌にまとわりつくようだった。
「ん〜、なんでみんな見てくるんだろ〜」
スライムが“ぷるんっ”と揺れ、
まるで「知らないよ」と言っているみたいだった。
市場の果物屋では、店主が戸惑いながら声をかけてきた。
「……あなたに会いたがってる人がいるんだ」
「え〜? 誰〜?」
返事を待たずに、店主は視線をそらし、
「気をつけな」とだけ残して店の奥に引っ込んだ。
午後、迎賓館の門前に、一人の使者が現れる。
手にしているのは、王室の紋章が刻まれた封筒。
「王の弟君からの招待状です。
ぜひ、直接お話をとのこと」
レオネルが封筒を受け取ると、その表情はさらに険しくなった。
その頃、裏通りの酒場では――。
「癒やす力がある」
「いや、花だけじゃない。奇跡だ」
「空白ID……本当に存在するとはな」
暗がりの中で交わされる声。
商人、情報屋、そして見知らぬ武装した者たち。
テンペイの名が、確かにそこに混ざっていた。
夕暮れ。
レオネルはテンペイに向かって告げる。
「……明日からしばらく、勝手な外出は控えてもらう」
「え〜? でも木さんや花さんとお話したいのに〜」
「状況が変わった。今は私の言うことを聞け」
テンペイは首をかしげ、
スライムは“ぷるんっ”と小さく跳ねた。
夜。
王城の塔の上階で、王の弟君が窓辺に立っていた。
「花を咲かせる者……あれは、きっと鍵になる」
その声は、月明かりよりも冷たく、
しかしどこか楽しげでもあった――。
テンペイ様は今日も特別なことをしたわけではありません。
けれど、夜の廃墟で咲いた花の出来事は、
確実に人々の心に種をまきました。
そしてその種は、噂となって、
“善意”だけではない手に触れようとしています。
次回――王の弟君との直接の対面が、
テンペイ様の周囲の空気をまた一段と変えていきます。
読んでくださって、ありがとうございます。
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