「テンペイ様、市場で大騒ぎ?〜なんか、みんな寄ってくる〜」
王都で広がる「花を咲かせるテンペイ様」の噂。
それは市場にも波紋を広げていました。
そんな中、耳に入ったのは――
他国からの商隊が魔物に襲われたという不穏な話。
「えぇー、お菓子がなくなるなんて、いやだよ〜」
テンペイ様のゆるっとした嘆きと、
静かに動き出す王都の影――
どうぞ、ゆっくり読んでいってください。
朝の迎賓館。
食堂の窓から差し込む光が、
白いテーブルクロスをやわらかく染めていた。
テンペイはスライムを膝にのせ、
焼きたてのパンをちぎっては与えている。
「ん〜、パンさんもおいしいね〜」
“ぷるんっ”
スライムは幸せそうに揺れた。
向かいに座るレオネルが、静かに言う。
「今日は市場へ行く。
……人目に気をつけろ」
「え〜? 見るのは自由でしょ〜」
レオネルはため息をつく。
その時、食堂の端で聞こえてきた商人の会話が耳に入る。
「他国からの商隊が、道中で魔物に襲われたらしい」
近くにいた子ども達が顔を見合わせ、
「え、お菓子が入ってこなくなるの?」と小声で嘆く。
テンペイはパンをかじりながら、
「えぇー、お菓子がなくなるなんて、いやだよ〜」と真剣な顔をする。
レオネルはじろりと睨み、
「くれぐれも勝手な行動はするな」と釘を刺した。
焼きたてのパンの香りや、香辛料の刺激的な匂いが入り混じり、
通りは色とりどりの布や果物で鮮やかに彩られていた。
人々の声や笑い声が絶え間なく重なり合い、
市場はまるで生きているように脈打っていた。
通りの端で、見知らぬ子どもがスライムをじっと見つめ、
ぷるんっと揺れるたびに小さく笑っていた。
市場は朝から賑やかだったが、
今日はやけに人々の視線が熱い。
子ども達が駆け寄ってきて、
「昨日の木の話、本当?」「花、見たい!」と口々に言う。
商人や店主が好意的に笑顔を見せる一方、
遠巻きにじっと観察する者もいた。
通りすがりの声が聞こえる。
「魔物被害が続けば、他国の物資は減るだろうな」
「今年は市場の品が減るかもしれん」
テンペイは首をかしげ、
「減るとお菓子もなくなる……やっぱりいやだな〜」とつぶやく。
果物屋でリンゴを選んでいると、
近くの荷車がぐらりと傾いた。
「危ない!」
スライムが“ぷるんっ”と飛び出し、
荷車を押し戻す。
周囲がどよめいた。
「今、スライムが……!」
「やっぱり特別な力があるんだ」
レオネルがすぐにテンペイを人混みから引き離す。
「お前は……本当に目立つな」
「え〜? スライムさん、いい働きだったでしょ〜」
その頃、市場の片隅では――
弟君の部下がテンペイの行動を見守りながら、
「……予想以上だ」と小声でつぶやき、紙に記録を書き込んでいた。
市場の裏で交わされる小声は、昼間の賑わいとは別の温度を帯びていた。
一方、裏路地では情報屋と武装した商人達が、
「空白ID……妙に魔物に好かれるらしい」
「あれ、ただの旅人じゃないな」
と、曖昧な噂を物々しく語っていた。
帰り道、老女がテンペイに花束を差し出した。
「あなたの笑顔、春みたいだよ」
テンペイは照れたように笑い、
スライムが“ぷるんっ”と花束を抱えた。
レオネルは横で「……ますます目立つ」と小声でため息をついた。
遠くからその様子を見ていた弟君の部下は、
「明日、殿下と会わせる」
と小さくつぶやいた。
その声には、わずかな楽しげな響きと、
獲物を前にした時のような静かな熱が混じっていた。
テンペイ様は今日も、特別なことをしたわけではありません。
けれど、ちょっとした行動やスライムの働きが、
また一つ、王都の中に新しい噂を作っていきます。
そして、魔物被害の話はやがて――
思わぬ形でテンペイ様と繋がることに。
次回はいよいよ、王の弟君との直接対面。
水面下で動いていた思惑が、テンペイ様の目の前に姿を現します。
読んでくださって、ありがとうございます。
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