「テンペイ様、夜のおさんぽでひと騒動?〜なんか、待ってた人がいた〜」
王都で広がる「花を咲かせるテンペイ様」の噂。
その波は、昼の街だけでは終わらず、夜の旧市街にまで届いていました。
ある夜、テンペイ様のもとに届く、差出人不明の招待状。
スライムと一緒に向かった先で、待っていたのは――。
ふわっと笑顔のまま、またひとつ、王都の空気が揺れはじめます。
どうぞ、ゆっくり読んでいってください。
夜の迎賓館。
テンペイは、机の上に置かれた白い封筒をじっと見ていた。
封蝋も紋章もなく、紙は少し古びている。
中の手紙には、短くこう書かれていた。
――あなたに会いたい者がいる。
……今夜、旧市街の裏庭まで来てほしい。
「なんだろ〜? 夜のおさんぽかな〜」
スライムが“ぷるんっ”と揺れる。
レオネルには、まだ内緒にしておこう――。
石畳の道を歩くと、夜の旧市街は昼とは別の顔を見せる。
小さな屋台から香る甘い焼き菓子。
路地裏にたむろする猫たちの視線。
時おり聞こえる、楽師の笛の音。
スライムはきょろきょろとあたりを見回しながら、
“ぷるんっ”と何度も跳ねていた。
やがて、薄暗い裏庭にたどり着く。
そこに立っていたのは、フードを深くかぶった人物だった。
「来てくれて、感謝します」
低く落ち着いた声。
その視線は、テンペイを値踏みするようでもあった。
「花を咲かせたと聞きました。
偶然ではない……そう思っております」
人物は周囲を見回し、小声で続ける。
「王の弟君が、あなたを“確かめたい”と。
この先の廃墟の庭に、長年咲かない木があります。
そこで――試させていただきたい」
テンペイは首をかしげる。
「咲きたいなら咲けばいいよ〜って言うだけだけど〜」
スライムも“ぷるんっ”と同意するように揺れた。
廃墟の庭は、月明かりの下でしんと静まり返っていた。
枯れ木は長い年月を耐え抜いたように、枝を空に伸ばしている。
テンペイはそっと近づき、木の幹に手を添えた。
「無理しなくてもいいけど〜、咲きたいなら、咲いてみよ〜」
次の瞬間――
月明かりに照らされた枝先で、かすかに風が揺れた。
夜の空気に、やわらかな香りがふっと混じる。
淡い光をまとった花がひとつ、ぽつりと咲いた。
その場にいた誰もが、息をのんだ。
スライムが“ぷるんっ”と跳ね、夜の空気がやさしく変わる。
その様子を、離れた影の中から数人が見つめていた。
「……やはり、本物だ」
王の弟君が、ゆっくりと笑みを浮かべる。
「さて……どう使おうか」
テンペイは何も知らず、夜のおさんぽを満喫しながら迎賓館へ戻る。
玄関先では、腕を組んだレオネルが待っていた。
「……どこへ行っていた」
「ちょっと木さんとお話してた〜」
レオネルは何かを言いかけ、結局ため息に変えた。
その吐息が、夜風に溶けて消えていった。
テンペイ様は、特別なことをしたわけではありません。
ただ、咲きたい木に
「咲けばいいよ〜」と声をかけただけ。
でも、その瞬間を見た者たちは、
彼をますます「特別な存在」として王都の中に刻み込みます。
次回――
王都の水面下で動き出す思惑が、
テンペイ様の周りに少しずつ近づいてきます。
読んでくれてありがとう〜
ブクマや評価、“ぷるんっ”と大よろこび中〜!




