のだぁああああ!?追いかけないでなのだぁあああ!!
その日、宮殿の外は異常に静かだった。
空は青白く、風もなく、雪原がまるで時間を止めたような白い鏡のように広がっていた。
雪の女王が執務に集中している間、問題児レイは宮殿の外で“芸術的雪玉”を量産していた。
「のだっ♡完璧なのだぁ♡
この雪玉はミイラにも応用できるのだぁ♡
これをシロップ漬けにすればかき氷トラップになるのだぁ♡」
――そのとき。
遠く、森の縁から現れた。
白く、美しい雌の狼。
毛並みは月光のように輝き、
氷のような青い目をこちらに向けていた。
「…………の、のだっ……?」
レイは固まった。
(な、な、なにあれ……う、美しすぎるのだぁ……♡)
(ちょっぴり冷たそうで……でも優雅で……耳がピンとしてて……)
(なによりも……足が長いのだぁ♡♡♡)
「の、ののののだっ!?
吾輩、恋をしたのだぁあああああ♡♡♡」
⸻
第一接触:心は恋、体は逃走
レイは雪の塊を抱えたまま、震えながら微笑んだ。
「こ、こんにちはなのだぁ……♡
う、吾輩はこの宮殿に住まう高貴な……雪だるまのレイなのだぁ……♡」
狼は、音もなく歩を進めてきた。
一歩。
また一歩。
「……のだっ♡……えへ……♡」
三歩目――狼、走り出す。
「…………のっっっっののののののだぁああああああ!?!?!?!?
追いかけないでなのだぁあああああ!!
吾輩、足短いのだぁあああああああ!!!!」
⸻
全力逃走(※30cmごとに転ぶ)
「のだっ!のだっ!のだっ!まってなのだぁああ!!
そ、そういうアプローチは予想外なのだぁああああ!!
心の準備ができてないのだぁあああ!!」
狼、美しいまま無言で追いかけてくる。
牙も出していない。舌も出していない。
ただ、レイが興奮して暴れていたのを面白がっているだけらしい。
しかし、レイには分からない。
「ち、ちがうのだぁ!好きだけど!
今は!この距離感は近すぎるのだぁ!!
初デートはまず雪の女王に紹介してからなのだぁ!!」
(※すでに汗のような霜が浮いている)
⸻
スノレイナと雪の女王の視点
窓辺に立つ、スノレイナ。
「……ママ、お兄ちゃんが……また転んだ……」
「ええ、ええ。今日は七回目ね」
「……狼さん、すごく綺麗……」
「でも、あの様子だと……今日は“恋”というより“捕食される側”ですね」
「……でも、お兄ちゃん……がんばってる、の」
女王は目を細めた。
「……あれでも、必死に“愛の逃走”をしているのね。ご立派なことです」
⸻
レイ、限界
レイは雪原に腹ばいになって倒れていた。
「のだぁああ……く、苦しいのだぁ……
足が短いと……恋すら……叶わぬのだぁ……
スノレイナと比べても……胴体比率が異常なのだぁ……」
狼は目の前に座り込んで、首を傾げていた。
その目は、なぜか――ほんの少し、優しかった。
「……の、のだ……?」
狼、ぺろりとレイのほっぺを舐めた。
「…………!?」
レイ、真っ赤になる(※白いから見えないが)
「のだぁああああああ!?!?」
⸻
エピローグ
その後――
レイは“白狼の彼女ができたらしい”と地下牢の囚人たちに自慢したが、誰も信じてくれなかった。
「のだっ!?本当なのだぁ!?狼の美人なのだぁ!?
ぺろってされたのだぞぉ!?興奮しすぎて脳の氷がとけたのだぁ!!」
囚人A「……夢だな」
囚人B「うん」
スノレイナだけは、そっと微笑んだ。
「……たしかに、お兄ちゃん……舐められてた、の」




