黙れたら人参
「雪の女王、あまりの騒がしさに疲弊しきり、レイに“1日静かにしていたらお小遣い増額”を提案する話」です。
お小遣い=月に人参1本という悲惨な現実に生きるレイが、ついに“交渉のテーブル”に立った伝説の一日です。
朝、宮殿にて。
雪の女王は、机にひじをつき、静かに額を押さえていた。
「……頭が……痛い……」
原因は、もちろん――
「のだぁああああああ!!!!!
ママああああああ!!!かき氷のシロップがピンクじゃなかったのだぁあああ!!!
吾輩のテンションが下がるのだぁああああ!!!世界が終わるのだぁああ!!!」
という早朝4時から絶叫する雪だるまである。
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スノレイナは、女王の横でそっと震えていた。
「……ママ……お兄ちゃん、今日も……すごい……」
「……ええ、ええ、そうね……」
(※遠い目)
「……昨日は“廊下に芸術的うんち(雪)”を設置してたし……」
「ええ、ええ……把握してるわ……」
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女王は決意した。
交渉の時である。
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提案:静かにすれば人参2本
「レイ」
「のだっ!?なんなのだぁ!?また妹が泣いたのは吾輩のせいではないのだぁ!?あれは床が滑っただけなのだぁあああああ!!」
「違います。提案があります」
「のだっ!?」
「今日1日――静かにしていたら、来月のお小遣いを倍にします」
「…………」
「……人参が、2本になります」
「のだっっっっ!?!?!?!?!?!?」
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レイ、震える。
「……ま、ま、マジなのだぁ!?
本当に!?この吾輩が!?
月に人参2本になるのだぁあああ!?」
「本当です。ただし――1日、本当に静かにできたら、です」
「吾輩……人参1本で雪うさぎにバカにされ続けてたのだぁ……
“また1本なの?”って顔で見られてたのだぁ……
ついに、ついにっ……うさぎ界でマウントが取れるのだぁ!!」
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チャレンジ:サイレントレイ
レイはその日、己の声帯と全知性を封印する覚悟を決めた。
――が、
挑戦1時間目:
かき氷を持って来られた瞬間、うっかり「のだぁ♡」と漏れかける → 口を押さえて地面を転げまわる
挑戦3時間目:
スノレイナのリボンが曲がっていた → 全力で「直したいのだぁぁぁぁ!!!」と叫びかけ寸前で雪玉を口に詰める
挑戦6時間目:
雪うさぎと目が合う → 無言で“2本の指”を立ててドヤ顔マウント(大成功)
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スノレイナ「……お兄ちゃん、がんばってる……」
女王「……奇跡ね……」
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夕食:限界ギリギリ
夕食時。
レイの席の前に、静かに置かれた人参2本。
レイ、無言で震える。
「…………っ……」
スノレイナがそっと訊く。
「……お兄ちゃん、大丈夫……?」
レイ、こくり。
……が、涙目である。
「…………っっっ」
スノレイナは、手紙を渡す。
「お兄ちゃん、すごいよ。1日、がんばったね」
レイ、感極まって泣く。
「っ……っ……のだああああああああ!!!!!!」
――終了。
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結果報告
女王「……最後の最後でアウトです」
レイ「うわあああああん!!!でも泣いたのは音じゃないのだぁああ!!感動の無音涙だったのだぁああ!!」
女王「“のだぁあああ”と言ってました」
レイ「それは反射なのだぁああああ!!!」
スノレイナ「……お兄ちゃん、でも……ちょっと、かっこよかった、の」
レイ、鼻をぴくぴくさせる。
「の……のだっ♡♡♡」
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エピローグ
翌月。
レイのお小遣いは――
人参1.5本に微増された。
(※静かチャレンジ「惜しかった賞」)
「えっへん!えっへん!
ついに!吾輩は雪うさぎ界の中堅ランクに昇格したのだぁああ♡」
……レイは、今日も元気にうるさかった。




