スノレイナ、びっくりしすぎて泣きそうになる日々
スノレイナは、生まれた時から驚いていた。
白銀の宮殿の一角、雪の女王の手によってふわふわと形作られ、
目の氷粒が初めて光を宿した瞬間――
「のだっ♡はじめまして妹よっ!!
兄上様の登場なのだぁあああああ!!!」
――壁が吹き飛ぶかと思った。
まだ言葉を発してもいないうちに、
スノレイナの小さな身体に雪だるま兄の豪快な自己紹介が降り注いだ。
「のだっ♡妹っ♡兄である吾輩に感謝するのだっ♡
お兄ちゃんと呼んでよいのだっ♡もしくは“陛下”でも可っ♡」
あまりの音量と距離感のなさに、
スノレイナは初めての涙目となった。
⸻
兄の騒音は、朝から始まる
「のだぁあああっっ!?
ママァ!!スノレイナが今日も“吾輩を見てくれない目”をしているのだぁあああ!!」
スノレイナ(静かに日記を書いていた)
「のだっ!?
聞いてないのだぁ!?
無視されたのだぁ!?この兄上を無視したのだぁ!?
世紀の悲劇なのだぁ!!!」
スノレイナ(こくりと首を振って「無視してないよ」と小声)
「ぷぷぷ……小声すぎて聞こえぬのだぁああ!!
声が弱すぎてこの宮殿の氷すら溶けそうなのだぁあああ!!」
(※溶けません)
⸻
昼食時の災難
「かき氷タイムなのだぁ♡今日もダブル盛りなのだぁ♡
スノレイナは……小さいから一口だけで良いのだぁ♡」
「……うん、ありがとう」
(かき氷を一口食べた瞬間)
「のだっ!?ま、まさかその一口だけで満足なのかっ!?
控えめっ……控えめすぎるのだぁあああ!!!
そこは“もっと欲しいですぅ♡”とおねだりする場面なのだぁああ!!」
「……そんなにいらない」
「のだっ!?妹よ、欲望は尊いのだっ!?
なぜ欲を隠すのだっ!?この兄を前にして欲を出さぬとは失礼極まりないのだぁあああ!!!」
「……(また涙目)」
⸻
兄の“教育”とやら
「さあ、吾輩が兄としてマナー教育を施してあげるのだっ♡」
(※まだ歩き方もおぼつかない妹に)
「礼儀とはまず“兄上様に三回お辞儀”なのだっ!」
「次に“兄の鼻を褒める”のだっ!」
「最後に“かき氷を一口差し出して”兄にご奉仕なのだっ!」
スノレイナ(じっと見つめる)
「の、ののののだっ!?その目は“この人やばい”って目なのだぁ!?!?」
「……(こくり)」
「アーハッハッハッハッハ!!
素直でよろしいのだぁ!!!」
(※レイは褒められたと勘違いしていた)
⸻
夜になると──
スノレイナは、今日一日で六回びっくりし、三回涙目になり、一度だけ氷の壁の影に隠れた。
そのすべてが、兄の音量・テンション・動きの激しさに由来する。
雪の女王は、就寝前のスノレイナにそっと毛布をかけながら尋ねた。
「……少し、疲れましたか?」
スノレイナは、ほんのりと涙をためた目で、こくんと頷いた。
「でも……お兄ちゃん、楽しそうだったから……いいの」
雪の女王はその小さな言葉に、ほんの少しだけ表情を緩めた。
廊下の向こうからは、まだ「のだぁ♡夢の中でも吾輩の方が美形なのだぁ♡」という寝言が響いている。
スノレイナは、それを聞きながら、静かに目を閉じた。
世界で最も騒がしい兄を持つ、最も大人しい妹。
その日々は、まだ始まったばかりである。




