極寒地下牢のかき氷マウント
雪の女王の氷の宮殿――その地下深くには、
王国の歴史上、数々の罪を犯した者たちが幽閉されている。
冷気と沈黙が支配する氷の地下牢。
その空間は、罪人たちを裁くためではなく、忘れるために存在していた。
囚人たちはほとんど声を発さず、
何年、何十年と時間の感覚を失っていた。
そんな空間に、今日も――
ズリッ、ズリッ、ズリッという不可解な足音が響く。
「………………」
白い小さな影が、牢の奥へと現れた。
「のだっ♡」
それは雪だるま・レイだった。
身長90cm。手足短し。脳の温度は高し。
しかし身体は氷そのもので、寒さには滅法強い。
そして――
手には、山盛りのかき氷が載った金の盆。
「えっへん♡えっへん♡
本日も特製いちごミルクかき氷なのだぁ♡
美味なのだぁ♡ハイパーうまうまパフェモードなのだぁ♡」
牢内は氷点下。
吐く息は霧となり、天井に霜が降りている。
囚人たちは毛布もない環境で身体を丸め、
わずかな体温を保とうとしている。
そこに現れたのが、かき氷を食べながら歩く雪だるまだった。
「ふぅぅぅ……♡
冷たくて幸せなのだぁ♡
このシャリシャリ感……のだぁ♡」
レイは、
牢一つひとつの前で立ち止まり、
無言でドヤ顔を向けた。
「………………」
囚人A:凍えながらうずくまる。
囚人B:歯がガチガチ鳴っている。
囚人C:目を合わせようとすらしない。
「……えっへん♡」
レイは満足げに鼻をぴくぴくさせた。
そして、冷気の中でさらに追い打ちをかけるようにスプーンをカチリと鳴らし、口元へ。
「ぱくっ……♡
のだぁ~~~~~♡
やはりこのいちごシロップは神なのだぁ♡
吾輩の口の中が祝祭なのだぁ♡」
囚人たちは微動だにしない。
一人だけ、青年の囚人が力なく言った。
「……頭……キーン……ならないのか?」
「吾輩は雪だるまなのだぁ!
頭がキーンになる構造ではないのだぁ!えっへん♡」
囚人たちは静かに顔を背けた。
(……馬鹿だ、この雪だるま)
(というか、なぜ毎日来る)
(というか、なぜこの環境で“かき氷”を……)
レイは無反応の空間を「称賛」と受け取っていた。
「ふふふ……無言の羨望が突き刺さるのだぁ……♡
あぁ~~~~人気があるのは辛いのだぁ~~~~♡♡♡」
カリッ。シャリッ。
レイは音を立てて氷を噛みながら、
次の牢の前へと進む。
「ふむ、この者たちには教育が必要なのだぁ……
吾輩の贅沢ライフを正しく享受するには、美的感性というものが欠けているのだぁ……」
囚人たちは、その言葉すら聞いていない。
寒すぎて意識が薄れかけていた。
レイは最後の一口を頬張った。
「ぺろっ♡
ごちそうさまなのだぁ♡」
そして金の盆を振りかざし、
「特別に許可されたかのような顔」で退場した。
ズリッ、ズリッ、ズリッ……
レイの足音が遠ざかるとともに、
地下牢には再び氷の沈黙が戻った。
⸻
数分後。
雪の女王の執務室。
「……レイ」
「のだぁっ!?な、なんなのだぁ!?」
「また地下牢に行って、囚人たちにかき氷を食べながらマウントをとっていたようですね」
「のだのだのだぁ!
違うのだぁ!あれは!社会貢献なのだぁ!
文化交流なのだぁ!冷たいものに慣れてもらうためのリハビリなのだぁ!!」
「……彼らは全員、風邪をひきました。」
「うわあああああああん!!!
誤解なのだぁあああ!!吾輩の善意がぁあああ!!」
「レイ。明日から地下牢への出入りは一時禁止です」
「のだぁ!?吾輩のドヤ顔ルーティンがぁあああ!!」
⸻
こうして、
世界で最も寒い地下牢において唯一かき氷を食べた者が、
一人も羨ましがられなかった記録がまた一つ刻まれた。
だが、
レイは翌日も言った。
「吾輩は悪くないのだぁ……
かき氷を羨ましがらない方が変なのだぁ……
ママの教育が悪いのだぁ……」
――それは違う。
レイがお馬鹿なのである。




