ママの寝室にうんち撒いて何が悪いのだぁ!?
雪の女王の宮殿に、夜が来た。
夜といっても、そこに差す月明かりも星明かりもすべて白銀。
氷の壁が静かに光を弾き返し、室内は眠りすら凍りつくような静寂に包まれていた。
女王は、静かに寝室に入った。
氷でできたベッド、銀糸のように織られたシーツ。
そのどれもが、完璧な秩序と静寂に守られている――はず、だった。
「………………」
女王は眉一つ動かさぬまま、足元を見下ろした。
そこには、
十数個に分割された雪の小山が
ランダムに点在していた。
「…………また」
その声に、冷気がわずかに震えた。
⸻
一方その頃。
氷の回廊の隅で、問題児雪だるま・レイは超ご機嫌だった。
「のだぁ♡♡♡
完璧に配置したのだぁ!吾輩の芸術的うんち(雪)なのだぁ!」
雪だるまであるレイにとって、「うんち」=「雪の塊」である。
問題は、その発想をママ(雪の女王)の寝室に応用したことであった。
「ふふふ……♡
ちょこん、ぽとっ、ころころころ……♡
あぁ〜〜最高傑作なのだぁ♡」
――その数、18個。
大中小を織り交ぜた多彩なラインナップ。
一部は**「踏んだときにすごくイラッとする位置」**に丁寧に配置されていた。
「えっへん!えっへん!
これぞ芸術なのだぁ!」
だがその瞬間。
「――レイ」
背筋に氷の風が吹いた。
「のだぁっ!?」
振り返れば、そこには静かに怒りのオーラをまとった母・雪の女王。
「……あれは、何?」
「な、なにって何なのだぁ!?
吾輩は悪くないのだぁ!!
芸術的表現なのだぁ!現代雪芸術なのだぁ!!」
「……私の寝室に、“それ”を撒いたのは、あなたですね」
「それとはなんなのだぁ!?
“それ”という言い方は芸術への侮辱なのだぁ!!
うぇえええええん!!」
「レイ。――お尻、出しなさい」
「のだぁあああああ!?!?!?
待つのだぁ!対話の余地があるのだぁああああ!!」
⸻
その夜。
氷の宮殿に、鈍いぺちぺち音が響き渡った。
「うわああああああああん!!!
やめるのだぁあああああ!!!
痛いのだぁ!吾輩の尊厳がぁあああ!!!」
レイは全力で足をばたつかせた。
だが、手足が短いため、ほとんど意味がなかった。
「吾輩は雪だるまなのだぞぉ!?
お尻をぺんぺんされるなど屈辱なのだぁ!
うぇえええん!!うぇえええええん!!」
雪の女王は淡々と叩き続けた。
「……あなたは、うんちを撒いたんです」
「でも雪なのだぁ!結局ただの雪なのだぁ!!
雪の城に雪を撒いて何が悪いのだぁ!?
ママだって雪なのだぁ!?!?」
「場所が問題です」
「うわああああああん!!
理屈攻めなのだぁあああ!!
女王のくせに教育熱心すぎるのだぁああ!!」
「反省しなさい、レイ」
「うぇえええええん!!!
雪だるまなのにお尻真っ赤になったら、
精霊たちに笑われるのだぁあああ!!
……あっ、いや、赤くはならないのだぁ!?
でも!心が赤くなったのだぁああ!!」
「それは良かったですね」
「うわあああああああん!!!
やっぱり酷いのだぁ!酷いのだぁあああ!!」
⸻
罰が終わった後、
レイは氷の廊下に寝転びながら、両目を潤ませた。
「吾輩は芸術家なのだぁ……
それなのに、全然理解されないのだぁ……
ママの寝室、ちょっと味気ないと思っただけなのだぁ……
あれは、愛だったのだぁ……!!」
雪の女王は寝室の掃除を終え、静かに言った。
「……次にやったら、氷風呂です」
「うわあああああああああん!!!」
問題児雪だるまの夜は、今日も泣き声で終わった。
だが、
それでもレイは――
「……でも、芸術点は高かったのだぁ……♡」
反省したとは、到底言えなかった。




