Q:ここは本当に谷の底? A:俺の心を読むな
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アダフの後に続いてテントを出る。驚いた。本当に驚いた
このテントは外の音を消す事ができる消音機能が付いた魔法道具なのか? 出た瞬間に水の流れる音が急に聞こえた。地面は土や砂利、砂の三つしかない。ここは中州なんだ。巨大な中州
一番始めに視界に捕らえたのは、雨による水かさの増加に堪える為の石の壁。魔法で作られた物だな。人の手に寄って五メートルはある堤防を作るのは、材料も立地も最悪だ
テントにそって歩く。堤防は中州の半分を覆っていて、川下の方は何にも覆われていない
何よりこの光はなんだ? 上から見た時は闇そのものをイメージさせる光景だったのに、今上を見上げると光が差している
俺が生きているのも謎。下が水でも高さ的に死ぬと思う。全身打撲で生き残れる物ではないのは確かな事だ
川下の方をもっとしっかりと見る。何人くらいの人間が……ん? 洗濯物を干してる魔族がいるぞ
もしかして川下で水浴びをしているのは獣人? 獣の顔に人みたいな体型。オイオイどこの桃源郷だここは。エルフの視力を持って見渡せる限り、三十人前後の男女がいる
「ここはーー」
〈ここは本当に谷の底?〉
俺の心を読むな!
「驚いただろう? ここには全ての種族が存在する。エルフもいるよ。ほらそこ。今畑にいる人」
アダフの指差す方向を見る。俺の寝てたテントから目と鼻の先にある畑で農作業をしている高齢のエルフだ
全種族がここで共同作業を?
「凄い」
素直な感想だ。本心で言ってる。四つもの種族が争うこと無く平和に過ごしているなんて。文化や肌の色。これほどくだらない理由で戦争を起こしてしまうのが知識のある生き物の定めみたいなもんだ
だからこそ思う。この谷底は最早奇跡
「君は新しいここの住人だ。よかったらあのエルフと済んでもいい。エルフの血が入ってるんだろ?」
「住人ですか? 俺はこの谷底から這い上がりたいんですけど」
アダフが難しそうな顔をした
「這い上がれないんだよ」
「え?」
「今、壁面は凸凹してるけどね。あの光によって見えない部分から先はツルツルなんだ。掴まる物なんて何一つ無い」
そんなこと落ちてきたのだから解ってる。でも問題ない。凸凹の所まで登って、ツルツルは魔法で足場を作ればいいのだ
本当に登る事を考えたら、こんなにも速く解決策が出るものですね。全く
〈主。ご報告が〉
なぜでしょう。全魔眼が俺に話かけるともう嫌な予感しかして来ないのは
〈あの壁面を鑑定してみた結果。魔法を強制解除する事ができる様です〉
魔法の強制解除だと? 俺が触ったら折角作った腕が消えてなくなるってことか?
〈いえ、腕が消える様な事はありません。あの壁、もしくは壁付近で魔法を使おうとすると、壁に魔法を消されると思われます〉
魔法の強制解除。考えた事も無かった。そういえばキメラもビオの魔法を掻き消してたな。そう見えていただけで何かしていたのかもしれないけどさ
どれ、試しにウォーターカッターを壁に打ち込むとしよう。俺の最大威力はビオの二倍はある。中州から川を越えて巨大な壁へと吸い込まれていった
当たったは当たった。でも壁に傷一つ付いていない。異常な硬さだ。ただの石壁じゃない?
「びっくりした。攻撃系の魔法も使えるのか」
あ、いきなり魔法を放つ危険な男というレッテルを貼られる気がしてきた。中州の各地で作業していた人達が俺に視線を向ける。やめてくれ。視線には敏感なんだ
「ああ、すいません。一言声をかければ良かったですね」
「いや、俺も君と同じで、傷つければ登れると思った時期があったよ。まあ、無駄だったんだけどさ」
「そう、みたいですね。この谷を出るのは至難の業です」
「ふむ」
何かを考える様にアダフが顎に手を当てる。考え事をしている内に中州の住人が集まってきた
三十人ほどの大人に加えて、テントから俺位から中学生くらいまでの子供が五人出てくる
中州の面積は野球グラウンド二個分はあるから、もう少し人がいてもいい気はするが。まあ、これくらいだろう
「皆に紹介しよう。キリルだ。皆がみた通り魔法が使える。回復魔法も使える
さあ、自己紹介を。年齢もね」
年も?
「キリルです。年は六歳。よろしくお願いします」
「見た目通りの子供だ。仕事はまだ速いと思う。だから子供と同じ様に遊びが仕事でもいいと思う。怪我をしたら頼むかもしれないがな」
大人達が笑う。面倒ごとを押し付けられる立場じゃないか
〈良かったですね〉
ん? どういう事かね全魔眼さん
〈子供だから遊んでも構わない。なら、壁を登る事に集中できます〉
なるほど、納得。子供で得をするとは。気を使わせてしまったかな?
〈中身は二十三歳ですけどね〉
お前一言多いぞ
短いのは申し訳ない
テスト一週間前に突入したけど、現実逃避のため明日も投稿したいですね
2017年5月9日 誤字脱字修正。一日一つのつもりだったのに……終わってしまったお




