Q:キリル君。若い内からホモはいけませんよ? A:ソアさん。一度アビーのおっぱいとか揉んでみてください
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早いもので副都を出てから二ヶ月が経とうとしていた。本日の天気は曇り、冬場も終わりに向かい。気温はほんのり温かくなってきたと思う
俺は最早馬車の中で筋トレするのが当たり前と化し、逆立ちしたまま腕立てを。かれこれ、……もう覚えてないくらいやったのは確かだ。無の極地である
数なんて気にしていたら精神的にツラいもん
筋肉痛とは既にマブダチと言っても良いと思う。『おはよう』から『おやすみ』まで、全魔眼の嫌み並みに付き合っていたのだからね!
〈嫌みとは失礼ですね。私の小言は、主の事を思っての言葉ですよ? 筋肉痛と同列にされるのは遺憾でなりません〉
俺の事を思った言葉に、馬鹿だの。愚かしいだの。キモいだの。汚らわしいだの。含まれてて良いのでしょうか?
残念でならないのは、お前の俺に対する言葉の選び方だよ。もっと優しく扱って、メンタルの耐久値はもうゼロ
〈は〜い。千五百二十二回〜〉
ぎゃあああああ! やめろ! 現在何回腕立てをやったのかを思いださせるなああ! 急に筋肉が疲労してきた気がする!
急に震えだす両腕に危機感を覚えていると、窓の外を見ていたアンが何かを見つけ声をあげるのが聞こえた
「ど、どうしたアン?」
「なんか見えてきたの」
馬車旅に飽き飽きしていたアンの声に興奮の色が見え隠れする。わかるわかる。ただの移動はつまらないよね。まあ、俺は筋トレという憂鬱なイベントがあるので、その飽きを感じる事はない。要は飽きよりも酷い気持ちになるのです
アンの言葉を聞いて俺は腕立てを止める。ああ、なんだか久々に腕に血が巡る感覚があるよ
「アンの言う通り、フィエが見えてきたな」
カタリナご夫人の言葉に、俺もアンもウィルも外を見る
「アレから何事も無くついちゃったね」
「まあ、ウィルが居れば魔獣もこないだろ」
アホほど強いしな。というかウィルが戦争に参加すれば問題も全部解決すると思うのだけれど。そういえばこの事は聞いてなかったな。聞いてみよう
「そういえばウィルはなんで戦争にでないんだ? 最強の魔王がいれば戦力増大。さすれば敵も逃げよう」
「俺はこの後、第四魔王の仕事を見学しないと行けないんだ」
仕事見学とはなんだかお父さんみたいだな。それにしても第四魔王にはまだ会った事が無いな
「第四魔王ってのはどんなヤツなんだ?」
「ん? スキューノラちゃん? そうだなあ。とってもマイペースな子かな。会議でも一人だけ果物を食べている感じ」
「なんじゃそりゃ。マイペースってレベルじゃないだろ。良くそんなんで街の管理なんてできるな」
ウィルは一瞬不思議そうな顔をして、納得してからもう一度口を開いた
「スキューノラちゃんは街を統治してない。彼女はフィージェンジェイとの外交がメインなんだ。現状領地を持たないたった一人の魔王だよ」
ほう、そんな魔王も居るのか。しかし、そんなマイペースな性格で外交とはますます心配になるな。ペースを崩されずに交渉できるという点ではいいのかもしれない
他に第二魔王や第五魔王の話を聞いて時間を潰す事、数時間。カタリナさんの御車する虎車が止まる
天候の芳しくない空の元に四人全員が降り立つ
わざわざ降り立つと言ったのだ。そうアンも立っている。この二ヶ月頑張って訓練した結果。どうにかこうにか歩けるまでになった
必ずあるとは言わないが、嬉しい事のあとには残念な事もある。今回はその口だ
元々身体能力の高いアン。そのアンの脚力に義足が持たないという事件が起きた。歩けるようになって数日。思い切り踏み込んでは知った瞬間、義足が砕けた時は肝を冷やした。一応高い代償を払って作り上げた合金だったので、正直悲しい気持ちに襲われたね
二歩だけ全力で走れるアンは今の所歩いて車外を楽しんでいる。俺らの後ろには先ほどロイも大きくなったフィエが見え、前には峠道が続く。この道は一度ノアと通った道だ。随分と懐かしい気持ちになるな
〈おや、主。どうやら来たようですよ〉
「お、ホントだ」
ホント? おうむ返しをするウィルを無視して、俺は背後から来る馬車に手を振る。まだまだ遠くにあるが御車台に座っているのは、化け物。じゃないや、ソアさん
あの悪魔。じゃないじゃない。魔族に気を許す事は無いだろう
微かに口が動くのが見え、目よりも良い俺の耳にソアさんの声が聞こえてくる
「バネカー様。アレってキリル君じゃないですか?」
「義弟? 私今忙しいんだけどな。って、おいおい。第一魔王様も居るじゃないか。どんな組み合わせだ」
まあ、確かにこの世界で情報の周りが早いのはウィルと大魔帝王位のものだろう。アン某シリーズ姉妹が居るからな。反応としては間違いではない
しかし、ソアさん。俺を見るなり笑うのは止めて欲しい。ああ、これから一ヶ月もあの魔族と一緒に旅をしなければならないと考えるとちょっと紐無しバンジーしたくなる。先ずは俺よりも立場のあるウィルを見ろ!
ソアさんの事は一旦全部置いて、お義兄さん。アビーの実の兄に対して義弟と呼ばれるのはなんだかむず痒いものだ
〈というかその呼び方で定着しているのですか〉
公認とは如何に素晴らしきものか。あとはアビーを越えるだけ。魔王を越えるのにあと何年かかるのか。全くと言っていいほど解らないが、以外にも俺は不老種になる確率が高いそうなので心配は無かろう
「あ、パパ。誰か来るの」
「アレは第六魔王のバネカー君ですよ。アンちゃん。ここからは俺ではなく彼と一緒に旅をするんです」
アンは旅という言葉に見るからに嫌そうな顔をした。しかし、その顔を見た後。微笑んだ
「大丈夫ですよ。あの馬車に乗っているバネカー君の奥さんはとっても面白い方だから飽きる事の無い旅になるでしょうね」
「面白いってどういう風に? 流石に面白い人でもあの退屈な空間では誰でも黙ると思うよ?」
アンよ。安心すると良い。ソアさんはそんな域のお方ではない。誰も、何者も寄せ付ける事の無い世界に住んでいるのだから
ウィルもそれを解ってか、それ以上何も言わずに笑っている。一度こっちを見た時に「あとの説明はよろしく」的な目配せを貰った。男からの目配せなんてなんの得があるのか解らんもんはいらない
つうか、投げ遣りだね!
待つ事十数分。お義兄さんの乗る馬車がウィルの虎車の隣に止まった。虎みたいな生き物は隣に止まる馬みたいな生き物を見て会釈した。う、うっそだぁ。なんだか知性があるように見えちゃったぜい
「第一魔王様。半年ぶりですね。街の近くまでどうしたのですか?」
「うん。説明はキリルから聞いてください」
え? そこも丸投げ? お義兄さんも珍しい物を見る目でウィルを見ている
「珍しく荒い説明ですね。まあ、第一魔王様が言うのであればそうしますが……」
そう答えつつも、納得いかなさそうな目でアンを見ている。特に手足の辺りを注視して
ガン見ですよガン見。それでもその事に対して聞いて来ないのはお義兄さんらしい。この事も後で話をしないといけないな。実際に四肢欠損くらい魔法で治せたよな? 的な顔をされているからね
ちょっと俺が酷いヤツチックなエルフだと思われている気がする
たしかに守り切れなかった愚か者なんだけどさ
そうだ俺はクズだ
〈ちょっと本気で落ち込むの止めてもらっていいですか?〉
そそくさと車内へ乗りながらウィルは最後に一言
「ヴァーニア様から前線送りされていますので護送よろしくお願いしますね
じゃあ、キリル。アンちゃん。あとは説明よろしく」
良い終えると同時に虎車は駆け出した
「なんか俺が重罪人見たいじゃん! もう少し言葉選んでえええ!」
まるで捨てられた愛情の重い女性が、彼氏に行かないでと泣きながら訴えかける体勢をとる
ようは女の子座りで虎車に手を伸ばしているのです
済んだ事は仕方ない
元々丁寧な物腰のウィルが、あそこまで大雑把に話を切り上げてこの場を去らねばならない理由が存在したのかもしれない
例えば、第四魔王のスキューノラさんとやらの所へ行くのに時間が押していたとか。それが真実だとしたら、永遠の寿命を持つ魔王様が時間に厳しいとは面白い話だ
それとも、早くカタリナさんと二人きりになりたかったのかな? 俺ら子供の前ではイチャイチャするのを避けてたからな。来年には子供の顔が見れるかもしれないね
他にも可能性があるとすれば、やっぱりソアさんかな? 今の所は驚くほどに静か
馬車を止めたあとも直ぐさまお義兄さんが車外へと出る為に、御車台を降り扉を開けた
その後も扉をくぐって降りてきたお義兄さんのあとに続き、ウィルに頭を下げて挨拶もしていたな
あれ? なんだか普通。これがスキルか
ソアさんの突出すべきスキルに、完璧メイドちゃん。なるものがある。今がメイドっぽく見えるのはそのスキルのおかげなんでしょうね
しかし、彼女はスキルが無ければ毒を吐き続ける化け物でしかない。きっとウィルも一度は食らっているのかもしれないな
〈相変わらず、ひねくれた妄想ですね〉
言葉に出さないのであれば、この程度そっとしておいて欲しい。最早趣味の域だ。性格が悪いと思われても仕方が無いが、俺は自分のこの性格は嫌いじゃない
誰だって心の中では他人をぼろくそに言っているものなのだよ
〈その考えがひねくれています〉
全魔眼との話も程々に、九ヶ月ぶりに会う将来のお義兄さんに挨拶をしなくては行けない
手招きをしてアンを隣に立たせて頭を下げる
「お久しぶりですお義兄さん」
「初めまして、アン・オーエンです」
一応挨拶は大切なので教えておいた
しかし、まあ。今更ながら日本式の挨拶という事に気がつく。この世界の目上の者に対する挨拶は片膝をついて頭を垂れるものだ
現在二人並んで腰を九十度屈曲。ウィルの目の前でやっていたのだからこの点を注意してくれてもいいだろうに
でも、この程度の事で起こるお義兄さんではない。挨拶という事が解り、返事をしてくれる
「久しぶりだな。あ〜、一応聞いておくがそっちの、アン? って子は誰だ」
ん? どうしたのだろう聞いた本人は顔が真っ青だ。ああ、久遠人だから? 確かに人が居るってだけでも驚きだろう。奴隷化の首輪も目立つしね
因みに俺の導きだした答えはどうにも違うらしく。遂にこの世界で最も恐ろしい魔族が口を開いた
「主様は、その少女がキリル君のどんな人なのかを気にしているのですよ。アビー君の事もありますしね
でも、私は安心しました。やっぱり若い内に男性同士は良くないと思っていましたから」
このお方の中で俺はどういった見方をされているのだろう
この九ヶ月ちょっとの間に俺は、ホモからノンケへとクラスチェンジを果たした様な言い方である。元々ノンケじゃ
大体アンはそういったものではない。俺がアンに持つ感情は既に家族愛だ。アビーに抱いている劣情ではない
〈いやあ〜! クズい!〉
「えっと、アンは娘として俺が引き取ったんです。決して彼女とかではありませんよ?」
この言葉を鍵にお義兄さんはホッと一息。どこまでも安心したかの様な表情になる
あれか。この俺がアビーを捨て、アンに気が移ったとでも言いたいのか。心外である。俺はロリコンじゃない!
アビーほど素晴らしい腹筋は中々お目に掛かれないぞ!
因みにソアさんは逆に可哀想な物を見る目で俺を見てきた。この人は話を聞かないので説明しても無理であろう
立ち話をいつまでもという訳にもいかない。この馬車の行き先はもう少しで戦場に変わろうと言う街だ
細かい説明等は置いておき、馬車へと乗り込む
しかし、アビーのちょいと豪華な馬車。ウィルの機能性重視の虎車
お義兄さんのは、アビーのに近い。屋根の上にタコ足みたいな尻尾が八本生え、蛇の様な鱗に身を包んだカメレオンみたいな置物がある
しかも人間大。力を入れる場所を間違えているではないか
一話に収めるつもりが思ったよりも長くなりそうだったので別けます
因みに次話でキリル視点は一度中断。遂にラサンでの戦争へシフトします。ただ、アビゲイル目線に成るかは私の実力次第ですね




