Q:すいませんちょっと待ってくれませんか? A:駄目です
守りの誓いを立て一晩。登って間もない太陽の日が眩しい朝にアンの部屋に来ていた。朝食の時間になるよりも速く、誰にも伝えないで彼女の部屋にきたため。三つ隣の俺が借りている部屋にメイドさんが入っていく足音が聞こえる
わざわざ俺の部屋に食事とか持ってきてくれて、記憶にはないが身体も拭いてくれていたらしい。名前は確か、イビエイさんだったかな? そんなメイドさんも俺が部屋から消えたら驚く訳で、今まさに慌てふためいていた
「どうかしたの?」
「ん? ああ、ちょっとね。少し待っててくれ」
ベットの上で上半身を起こすアンに断りを入れ、部屋の扉から顔を出す。丁度同じタイミングでイビエイさんも部屋を出てきた。手を振ってこちらの部屋にいる事を伝える
早足で近くまで来たイビエイさんは少しだけ怒った顔をしていた。……玉って部屋を出たのがそんなにいけない事だっただろうか? いや、昨日までの無気力な俺が消えたのだから一大事か
まずは謝り、次に彼女の話を聞く。朝食が出来上がり、持ってきたら俺がいなかったと
なるほど、ついでなので俺もアンの部屋で取らせてもらおう。さすればメイドさんがアンに食べさせる手間も省けよう
「イビエイお姉さん?」
部屋に戻って直にアンが答えを当ててみせた。正解なので勿論頷く
どうにも一週間の間にアンの交友関係が広がっている。メイドさん、アン某姉妹さん、カタリナさん等々。家の子はなんと逞しい事か
「朝食を持ってきてくれるってさ」
「それは楽しみなの! ……それで、パパの足下にある物は何?」
「よくぞ聞いてくれた! 取り敢えず一晩でアンの為に用意してみたんだ。訓練が必要だけど、アンの運動能力ならば速く仕えると思うよ」
ベットの上に置くのは三つの手足。アンは肘から先、膝から先が残存している。四肢の欠損はどれだけの箇所が残っているかでその後の機能が大きく変化するのだ
人は目で見た物をおおよその感で重い軽い大きい小さいの判断をし、かなり正解に近い形で物体に触れる。触れた後、持った触感で細かい誤差を修正する訳だが、指また手、前腕がない場合。そういった判断ができないため、現代医学でも手指の欠損は殆ど、どうする事もできない
しかし、下肢の欠損は現在大きく進歩している。オリンピックやパラリンピックと言った場で活躍を想像してもらえば解りやすいだろう
上肢は見た目や、左右の体重バランスと言った事がほとんどだ。下肢は、人にもう一度歩く力を与えてくれる
一度無くした手足の代わりとなる義手義足。勿論それらを自在に使うまでには相当な訓練が必要となるが、アンならばそれができる。もう一度彼女に歩いてもらいたい。走ってもらいたい
義手は先端にフックが二つある実用性を求めた物だ。一応手の形をした物も用意してある
義足も二つ用意してあり、短距離走で使う様な足部が湾曲した物と側関節がバネで屈曲するタイプの物を。他にも色々種類があるのだが、知識が少な過ぎて似た様な物しか作れないのだ
短い距離を移動するのに特化した物だとか、長距離を移動するのに特化した物とか
まあ、活動範囲という訳で丸一日歩いていれるというのは無理だと思うが。実は車いすも作ってみた。かなり不格好な物になってしまったけどね
アンへの説明を終え、反応を待つ
「やだ」
「なにい!? 歩けるんだぞ!」
〈まあまあ、主。アンに訳を聞いてもいいじゃないですか〉
ぐぬぬ! 全魔眼の声が聞こえていたアンはその訳を言う
「可愛くない!」
驚きの理由! 確かに殆どが木と鉄で出来たこの手足は可愛くない。そういえば、義肢と身体を会わせる部分であるソケットが花柄な人とかいるな
足りないのは花柄か!
〈あっはっはっは! 確かにこの義足は少々ごついですからね。あと主。花柄とかの問題でもないかと〉
「軽量化か!? 軽量化してくればいいのか!?」
〈あ、そうだ主。思い出した事が一つ〉
ヤバいヤバい!
全魔眼の話を聞いて、余りの焦りにアンを部屋の外に置いてきた木製の車いすに乗せて走る。二人分の朝食を持ってきたイビエイさんの横を通り過ぎウィルの屋敷を駆けた。今の季節は冬で更には空気の入れ替えの為か、窓がほとんど開いているので寒い
そんな廊下を走り抜け、ウィルの仕事部屋に突撃する。飛び蹴りで戸を開けて中に入ると、アンゴレさんとカタリナさんが既に居り。ウィルが山の様な資料に囲まれていた
見方によっては大量の資料を手伝ってもらっている感じだが、虚ろな目のウィルを見る限り。休み無しで働かせているようにしか見えない
友人とはいえ魔王であるウィルの部屋に飛び込む不貞を働いた俺は、いとも容易くカタリナさんに取り押さえられた。アンだけはカタリナさんの怪力から免れる為、左手だけで車いすの車輪を抑える
左手だけなので片方の車輪だけだ。体重移動と車輪の停止でカタリナさんの暴力から逃げた。なんと身軽な事か
巨大な手に押さえ込まれ、説教を受け流しつつ俺はウィルに今最も気がかりな事を口に出す
「今から街を出てもラサンの戦争って間に合うかな!?」
「お、いい所に気がついたな。実を言うと、三日くらい前からアンゴレちゃんを会して連絡が来てるんだよ。勿論君宛だが、泣いてたから話さなかったけど」
終わった。大陸の王様、大魔帝王に目をつけられた。あと俺は泣いてない
〈昨日の夜泣いてたじゃないですか。シャワーなんて浴びた事ありませんが、あんな感じなんですかね〉
うっせ! 黙れ! お前の清潔度合いなんて誰も聞いてないんだよ!
脳内で息を荒げながら全魔眼へのツッコミを終えるとアンゴレさんに異変が起こる。通信状態になり始めていたのだ。髪の毛は逆立ち、目を見開く
「お、ヴァーニア様かな? これはタイミングがいい」
「なあウィル。切腹とか要求されないかな?」
「セップク? よく解らないけど平気だと思うよ。あと、カタリナもそろそろ離してあげてよ」
アンゴレさんの口からはまだ何も発せられていないけど、カタリナさんから開放された俺は何かを言われる前に正座で座る
ホントにどうしようか。俺は王様の物ってことになってるのにも関わらず、最初の命令を破るなんて……
破るつもりはなかったし、今直にでも出発するべきなんだけど。アンの事とかも色々あるから
「『ウィリアム。今平気? というか今この場にいる?』」
アンゴレさんの口から別の声が聞こえた。ノイズが掛かっているが、女性だと解る。前に聞いた大魔帝王の声と同じだ
その声に返事をしたのはウィルだ。ウィルは昨日の話を盗み聞きしていたのか事細か〜く。俺の誓いの話をして、更に今この場に俺がいる事も伝えた
「『そうか。じゃあ、キリル君には伝えなけばならない事があるね』」
死刑宣告だわ
〈諦めが過ぎませんか?〉
「『今回は私に落ち度があった。すまない』」
素っ頓狂な声を出す俺。理解が追いつく前に大魔帝王は語る
健常者である私が何を言っても薄っぺらく聞こえてしまうかもしれませんが、私は義足を使い、杖を使い、車いすを使う方々を尊敬致します
先天、後天、関係なく。自身の足で立つ事を選び、自身の力で進む事を選んだ方々は誰よりもカッコいい。私はそう思います
この作品でアンにツラい思いをさせていますが、彼女には幸せになってもらいたいです
この話はもう少し長くなる予定で書いていたのですが、どうにも今日中に書けなさそうなので一度別けます
頭の処理機能がもたぬ




