Q: A: Part3
3480文字
まるで影から湧き出たかの如く唐突に現れたウィリアムにライラは目が離せなかった。ライラ自身、長く生きていてもウィリアムを見るのは初めてだった
産まれて間もなく魔獣となったライラは悪逆を繰り返し、村を襲い、旅人を襲い。時には海を渡り、人間の国・コースタインにも渡った事もある
様々な経験を繰り返し、相手と相対すれば実力は少なからず解る物だと思っていた。ウィリアムから感じ取れる強さ。それは良くて同格
普通に戦えば自身よりも強いと思い知らされた。それでもライラが逃げないのは理由がある
彼の攻撃は言ってしまえば、一撃で重傷なのだ。長く生きる魔族は簡単な回復魔法を覚える事もある。魔王ともなれば使える者も多かろう
しかし、そんな者であろうが。ライラの一撃を受けてしまえば同じ、回復は通用しない。だからこそ己より強いウィリアムを見ても逃げない
「第一魔王。ウィリアム・ハーシェルとーー」
話しかけるが最後まで聞かず、ウィリアムは問答無用で開いた左手でもう一方の剣を引き抜き、四メートル近い身体を半分にしようと剣を振るう
後方に飛んで漆黒の剣を避ける。そして何事もなかったかのように語りかける
「第一魔王。ウィリアム・ハーシェルとはエラい大物が現れたもんだ」
「やはり魂食獣・ライラですか。俺の友人に、友人の家族に手を出した罪は重いよ」
ウィリアムの持つ剣がライラに向けられる。相手を捕らえ続ける切っ先とは別に、地面スレスレでピタリと動かない剣は倒れるキリル達を隠す
目の前に現れた強者の一言にライラは思わず笑う。魔王の中でも飛び抜け、大魔王と変わらない強さを持つ第一魔王が幼きエルフの少年を友と呼ぶのだから当たり前だろう
「面白い冗談だよ。キリルが友? 七人の英雄王、最後の生き残りである貴方が?」
「ええ、何か問題が?」
「些か歳の離れた友人だと思いましてね。二人には歴史に差がある」
単なる疑問を言い終えた直後、ウィリアムは質問に返答すること無くライラに刃を突きつけた。最も高い所にある顔を狙う突き。速攻の一撃が魂製剣器の刀身を半分以上抉りとり、そのまま金色の鬣を通り抜ける
魂製剣器の上から見える景色と手応えで避けられた事が解り舌打ち。折れかけの刀身を足場にキリル達の手前に飛ぶ
足場にされた刀身はウィリアムの脚力に負け、あっけなく折れた。スペシャル級のスキルによって作り出した自慢の剣がたったの二動作で折られる。新たに剣を作り出しながら嘆く。半年前に全てを壊された盾達の事を
防御力だけしかない盾ならば、二回の動作だけで壊される事はなかったであろう
「なんて言うんですかね。かつての親友と同じことを言うキリルは懐かしく思えるんですよ。それがとても心地いい」
ライラと対峙してからは険しい顔しかしていなかったウィリアムは、微かに表情を緩める。遠い昔、ハーシェルの性もなかった頃。守るべき物がなかった頃の記憶
ほんの少しの時間の後、ウィリアムの顔からゆるみが消え。眼前の敵だけを捉える
「『魂製双剣器』ソウンアロとキリルは違いますよ」
ライラの持つ剣が二本に増え、ウィリアムと同じように構える。その際、投げかけた問いは深く踏み込んで来たウィリアムの一線が終わると聞こえてきた
「知ってる」
地面スレスレを這う踏み込み斬は、一本の剣を完全に切り裂き、四メートルの巨体を軽々と吹き飛ばした。空中で体勢を立て直し、新たな魂製器を作り出すライラは思う
現在、攻撃力最強は第三魔王と言われる。だが、目の前にいる第一魔王の方が圧倒的に高い攻撃力を持つ。そう思わざる得ない一撃だった
そんな思考を見透かしたのか。ライラが地面と接地するタイミングを見計らって切り上げるウィリアムは、際限なく現れる魂製器をことごとく壊しながら答えた
「攻撃力はアビゲイルちゃんの方が高いよ。俺は足りない力を技術で補ってるのです」
剣、大剣、槍、棍、鎌、手甲鈎、モーニングスター。魂製器で作れ、得意とする中近距離武器の全てを『技術』という一言だけで片付けてしまう男が壊す
時間が経てば経つほど自身に不利だと理解したライラは五本の剣を作り出し、それら全てを犠牲にする。後退するにもウィリアムの猛攻を足止めするのに多くの槍を投擲して時間を稼ぐ
壊せど壊せど出てくる魂製器。破壊した武器は既に五十を越える。どれだけ出てくるのか、はこの際どうでもよく。どうにも今一歩攻め切れない事の方が問題だった
多くの武器を犠牲にして自身から遠く離れていくライラは明らかに何かをしようとしている
流石にこのまま企みを成功させるのは面白くない。そう考えたウィリアムは雪のない茶色い地面を叩く。ぬかるむ地面が炸裂し、泥をまき散らす。その泥も叩き付けた剣の威力が大きく。乾き煙になる
悪くなる視界の中で相手を見失ったライラは聞いた。どこかで剣と鞘が合わさる音が鳴ったのだ。音は一回、今ウィリアムは剣を一本だけにしているという事が解る
「どうした第一魔王! なぜ剣を収める!?」
微かな音を頼りにウィリアムを探す。魔族よりも優れた聴覚があるライラには近づいてくれば解ると確信しており、だからこそワザと声を上げた。想像したよりも速く空を切る音がで近づいてくる
背後から聞こえる音と揺らめく風を感じ取り、それらに合わせ剣を振り下ろす。煙りを切り裂き、地面を割る
そこにウィリアムの姿はない。あるのは鞘。ウィリアムの腰につり下げられていた鞘が二つに割れて降りていたのだ
直後に声が聞こえる
「鞘を投げる為」
機嫌の良さそうな声が聞こえた瞬間、二人は同時に動く。一人は回避行動、一人は剣を切り上げた
ライラの右肩から先が宙を舞う。手応えはあった物の狩り切れなかったのを見て、ウィリアムは更に追撃を加えんと逆手で剣を握る
逆手に持った剣の刀身が鞘から顔を覗かせたとき、ウィリアムの視界にニヤけた顔のライラが映る。ニヤけ面の魔獣が左手を握った
剣と槍二本ずつがウィリアムを襲う。前後左右からくる全てを弾き落とし、逆手に持った剣を持ち替える
「第一魔王。動かない事を薦める」
「なぜです?」
「なあに、直に解る」
ライラの言う通り、舞う土ぼこりが収まると理由が解った。ウィリアムとライラの二人を閉じ込めるように、魂製器のありとあらゆる武器がドーム状に並ぶ
「千個くらいですかね?」
「千三百二だ。遠隔操作にするまで少々時間が掛かるのでな。時間をかけている間に右腕がなくなってしまった。わかるな? 少しでも動けば全魂製器を降らせるぞ」
深い溜息を漏らすウィリアムは、両腕を軽く開き剣と剣の先を合わせる
「一閃千騎、屍の山を気付け
活路を作り、勝利をこの手に」
圧倒的不利なこの状況でおまじないのような言葉を口ずさむ事を疑問にもいながらも、言いつけを守らなかったウィリアムに千を越える武器を降らせる
「スペシャル如きで優越感に浸っている君に、神の領域を見せてあげよう」
オーバースキル・剣神
ありとあらゆる剣スキルを統合して出来た。神により齎される以外の数少ないオーバースキル。研鑽の末、天賦の才を持たないウィリアムは到達した
一撃で千の敵を打ち払い。絶対的勝利をもぎ取る。剣神の奥義
『神攻』
ウィリアムが剣を振ったのは二回。一回目の攻撃で千個の魂製器が、二回目で残りの三百二個を破壊した。二回で止めたのには訳がある
「逃げたか」
一回目の剣を振った瞬間に逃げたのが見えたので危機となる武器だけを壊したのだ。申し訳ないように落ちているライラの右手を拾い。遠くで寝ているキリルに視線を向ける
ライラがキリル達の方に逃げたら三回目の攻撃をするつもりでいたが、そんな事にはならずほっと胸を撫で下ろす
壊れた鞘を回収し、剣を収めたウィリアムは、少年少女に近づく。キリルは身体へのダメージが深刻ではあるが、命に別状はない
アンは止血がなされていると言っても一本の毛だけではどんどん血が足りなくなる。あまり得意ではない回復魔法を用い。彼女の手足の傷を塞ぐ
どんな回復魔法でも魂は元に戻せない。自身がもう少し速くこの場に到着していれば、目が覚めたときのキリルがどうなるのか。そればかりを考えていた
「すまない。キリル。俺がもう少し速く来れれば」
ウィリアムはそれ以上何も言わずに二人を抱き上げ早々にその場を後にした
尻尾を巻いて逃げ出したライラは笑う。こうも完膚無きまでに叩きのめされたのは産まれて初めてだったからだ。アンに施したように鬣で止血をし、できるだけ遠くまで走る。目指すのはセーフフィールド外
アンと回復させる為に待機させていた同士のもとへ
本当はもっと会話があったりしたんですが、どうにも上手く纏められずこんな終わりになってしまいました
もう少しシリアスが続きますが、私はシリアスが苦手です。ご了承を
次回は水曜になってしまいますごめんなさい。ちゃうねんどうしても外せない用事がががが




