表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/82

Q:   A:   Part2


 3736文字


 魂製器こんせいきの内の一つ。魂製剣器。禍々しく燃える炎を模した二メートルを超える剣。物の魂をも切断するその剣先には赤い血が滴る

 ライラは自身の右側で、うつ伏せに倒れるキリルを一度見た後、反対側で踞るアンを見た。彼女の右腕、前腕の最も太い部分から先が欠落している


 その右腕の先はライラとアンの間に落ちており、そこからも血が溢れ白い雪を染めた

 同様に辺りを雪を赤く染めるアンはうめき、左手で血が流れる右腕を押さえていた。ライラはゆっくりと彼女に近づき、落ちた腕を拾うと彼女の直ぐ真横に剣を突き刺す

 剣の刺さる衝撃を気にする事もできず、アンは必死に左手を押さえ付け続ける


「久遠人よ。あそこに倒れている彼が作った時間を君は無駄にしたのだぞ?」


 剣を手離し、動かないキリルを指差す。心底呆れた声で語りかけながら、アンの右腕を持つ手で少女を摘み、顔の高さまで持ち上げた。痛みに耐えつつアンは力一杯ライラの身体に蹴りを入れる

 胸部でアンの蹴りを受け切るライラは立て髪の毛を一本抜き、器用に片手だけで傷口付近を縛る


「私は久遠人じゃない! アンって名前がある!」


 ワーウルフから記憶喪失だと聞かされていたライラは首を傾げ、少し考え込む。しかし、直にどうでもいい事だと割り切り。もう一度同じ質問を投げかける。今度は久遠人と呼ばずに、アンと呼んで

 アンは直に答えず、少し考えてからこう言った


「全てをくれたパパがいない世界じゃ。私は生きていけない」

「……酷い回答だ。が! まあ、アンの決意も嫌いではない」


 毛の一本で止血された右腕からは見るからに流れ出る血の量が減った。傷口を見てライラは右手を残し、アンを地面に落とす。落ちた衝撃で傷口に激痛が走ったが、目前にいる魔獣を睨み付けた時。傷口以上の衝撃を受ける


「では、いただきます」


 ライラは彼女の腕を噛み砕いたのだ。口回りは赤く染まり、こぼれる血液が本来持つべき少女の前に落ちてくる。その光景を見て彼女は自分がどうなるのかを理解した

 恐怖で震える彼女とは対照的に、ライラは感動で身を震わせていた


 今まで口にしたどの魂よりも真っ新で、力強い。右腕の先だけにどれだけの魔力が詰まっているのかも言葉で表す事はできない。魂の一部分だけでこの感動。取引したのは四肢だけだが、全てを食らえばどうなるのか?


「はあはあ。はは! フェンリルが欲しがる訳だ」


 どんな意味が込められているのか。ライラは少女を見下ろす。目のあったアンは真っ直ぐ目を見ていった。その身体に震えはない


「私はもういい。だから、だからお願い。パパだけは」


 仰向けに倒れる少女の願いにライラは首を縦に振る。少女の両足を片手で掴み、右腕と同じように、ふくらはぎの一番太い部分を縛る


「アン。君は今ここで死にはしない。君の命そのものを食らうのは別にいる。私は精々手足だけだ。だか、最後の言葉だと思いその願いは受け入れよう

 キリルには一切の手出しをしない。例え私に襲って来ようと、私の方から彼から逃げるとしよう。しつこい様であれば。まあ、気絶くらいは大目に見てくれ」


 縛り終え、開いた方の手で剣を握る。真剣なライラの顔に、アンは満足そうに微笑んだ


 意識は何とか繋ぎ止めていたキリルだが、手も足も全く言う事を利かず。目も耳も正しくは機能していなかった。一体どれだけの時間うつ伏せに倒れているのかも解らず、なにが起きているのかすら理解は出来ていない

 そのような状態が続く中、懸命に声をかけ続ける者がいた。その声は今にも泣きそうで、多くの悲しみを含んでいる。泣く事すらできないその身体で


〈主! 起きてください! 起きてください! 久遠人が死んでしまいます。お願いです!〉


 どれだけ叫ぼうが、どれだけ願おうがキリルにその声は届かない。全魔眼の視界の中で、アンの足がライラの手により切り落とされる光景にその声は更に強くなる

 地に落ち、動く事すらままならないアンを見て、全魔眼は叫ぶ


〈お願いです! キリル様! 久遠人を、アンを見殺しにしたくない!〉


 頭の中に直接語りかけられる全魔眼の声。この場では主であるキリルにしか聞こえない声と、守るべき対象の名前だけがハッキリと届いた

 拳一つを地面へと突き刺し、とうに限界を超えたダメージが蓄積した身体を起こす。上半身と顔を上げるだけでも崩れ落ちそうなキリルは、いままで全魔眼が見ていた物と同じ物を見る


 赤い雪の上に倒れている真っ赤な少女。口へと放り込まれた足が音をたてて崩れる様。キリルにはこの光景が、重なって見えた

 何年も前、村にいた頃の記憶。キメラに襲われたときの光景が


 アンは床に落ちた血溜まりを。足はビオを。赤く染まる視界はあの日の夜を


「……やめろ」


 擦れた声で呟くキリル。その声は余りにも小さく、弱く、足の感動に浸るライラの耳には届かない


「やめろおおおおおおおお!」


 ハッキリと聞こえるキリルの声にライラが振り向く。視界の中で倒れ、叫ぶ力なきキリルの姿が消えた。正確にはライラが目で追えない速度で、瞬く間にその距離を詰めたのだ

 先ほどまでとは比べ物にならない闘志をキリルから感じる。今のキリルに正確な思考回路が存在しているのか解らない


 それでも、ライラにしてみても脅威と言える拳が迫る。ライラは感としか言いようのない不確かな感覚に身を任せ、手に持つ剣で自身の脇腹を守った

 直後に感じる重さ。感は当たり、キリルの渾身の一撃を受け止めた


「ッ!? なんだ?」


 しかし、受け止めたはずの拳は一向にその威力が弱る事はなかった。アンの血で溶けた雪が地をぬかるみに変え、ライラの自重を支えられなくする

 幼きエルフの一撃でライラはバランスを崩す。後ろ足が意志とは関係なく後退し、思わず剣が自分よりも高くなる


 その直後に剣にかかる力が消え、更に身体のバランスがとりづらくなった。軽く上を向くライラの視界の下、身体に隠れた部分で殺気を感じる

 見えていない恐怖と今怒った異常な攻撃力を見せられ、ライラは回避行動に移り大きく飛び退く。キリルが一時離れるライラを追う事はなく。足下のアンを見た


 手足に施された止血は視界に入る事はなく、ただ無惨に切り落とされた右手両足を見ている。キリルは迷うこと無くしゃがむと、まずは明らかに流し過ぎている血液を彼女の身体に作り出す

 次に手足、再建に移ろうとした


「悪いがアンとの約束でな。殺しはしないが眠っててもらうぞ」


 先ほどまで虫の息だったキリルに向かって剣の腹を振るう。それと同時にキリルも振り返り、拳を思い切り地面へと叩き付けた。明らかな奇行にライラは一瞬戸惑い、そして気がつく

 彼の剣はその程度の意識だけでは止まらない。それでも剣はしっかりと受け止められていた。一体いつ現れたのか。植物達によって右腕から剣先までを包み込まれていたのだ


 何かを口にする前に、右腕だけを包んでいた植物が一気に成長を始める

 ライラの全身を巻き込み、大地を押しのけ、空高く伸びる。辺りの森の木を遥かに越えた、青葉生い茂る巨大な樹。五十メートルは成長をする大樹に押され、ライラは身動きが取れない


 瞬時に出現した巨大な樹を彼は見つけた


 大樹の成長が止まった。それはキリルの魔力があらかた尽きた証拠でもある。瞬時に膨大な量の魔力を失ったキリルは、赤く冴え切った視界に、酷い怠慢感と虚脱感に襲われていた

 そんな彼の目の前で、大樹が縦に、真っ二つに切り裂かれたのだ。やってのけたのは、ライラ


 切り裂いた大樹の間をライラは自然落下してくる。残りわずかな魔力を使い、キリルは大樹の断面から断面にかけ蔦で縫合し、魔獣を押しつぶそうと考えた

 しかし、どうやっても断面から蔦を出す事ができなかった。キリルは知らない。魂を切り裂かれた大樹の断面から、新たな命は産まれない事に


 断面からでは無理ならば、大樹の体表から蔦を伸ばし始める。蔦の見えたライラは直に動いた。剣一本で自身の周りにある大樹の全てをバラバラにし始める。蔦を、幹を、青葉にかけてありとあらゆる物を切り裂く

 上空で行われる破壊行為の風圧だけでキリルは吹き飛ばされそうになった


 更にライラが落ちてくれば落ちてくるほど、風は強くなる。破壊行為の根源が地上まで十メートルをきった所で、キリルはアンを抱えた

 残りの十メートルでキリルは風に飛ばされないよう、近くの木にアンを間に挟んでしがみつく。風が弱まり、しがみつく必要がなくなった頃。キリルの力は尽きた


 身体を背に預けるという行為だけで、もう他には何もできない。いまだに赤い視界で空を見て、彼の膝の上で気を失う少女を見る


「まだ意識があるのか。いい加減に眠ってくれ」


 少し疲れた程度のライラの声はキリルに届いてはいない。剣を振りかぶり、腹をキリルの頭を小突いて気を失わせる。ただそれだけ


「すまない。アン、守れなかった」


 キリルの言葉と同時に剣が振り下ろされた

 

 

 

 鳴り響くは金属音。漆黒の刀身を持つ剣を右手で握り、ただただ佇むようにしか見えない彼は、ライラの振り下ろした剣を完全に受け止めていた

 晴れやかな青空の下。大樹により雪が少なくなったこの場所でも、この山脈全体とは似合わない黒い甲冑に身を包む若い男。短い黒髪が風で揺れ、ライラの目と男の目が合う

 キリルの膨大な魔力により生み出した大樹は、彼を呼んだ


 ウィリアム・ハーシェル

 彼は、六人いる魔王と二人いる大魔王。八人の中でも最も古い。最古の魔王である





 かなりシリアス要素が強いため、後書きを自重していたのですが。次回投稿がもしかしたら土曜、または来週の水曜になりそうです


 ごめんなさい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ