Q:今回の主人公は? A:三人の魔王
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今回のお話はキリルが副都を出てからのお話
キリルが副都を出て約三ヶ月後、ラサンの街は緊張と殺伐とした空気に包まれていた
キリルが訪れた十ヶ月前と今とでは街並が大分様変わりしていた。三日月状の入り江には三十メートルを越える巨大な壁が建てられ、壁の上には水平線を監視する為に数多くの魔族が警戒に当たってる
アビゲイルが海へと送り出していた捜索隊により三日前に人間の戦艦十五隻を確認。一隻に二千人強の乗組員がいると予測され、それが十五隻。計三万人の人間がもう間もなくラサンへ踏み込もうとしているのだ
大陸の決まり事、法律として。大陸に足を踏み入れた時点からしか攻撃、または海の上から見える攻撃に関しての反撃が許されている
余りに自国にとって不利なこの法律は、大魔帝王のいこうによる物であり。おおくの魔族、魔王は頭に疑問符を付けていた
ラサンは人間国からの侵略が余りにもおおく人口が大陸の中で最も少ない二十万人。その中でも戦える者を募っても、四分の一。五万人が最大だった。数では倍近く有利
しかし、ここは異世界。従来の戦闘で最も重要とされる数は、この世界には三番目とされる
この世界に置ける戦争で最も重要視されるのは、個人の力。一人の戦闘能力
実際にアビゲイル一人でラサンの戦闘員一万人分にも匹敵すると言われており、街の戦力は数では五万なれど。予想の戦力は倍の十万人とされる
そして二番目に重要視されるのは、その戦闘能力の高い人材を上手く扱える。戦略
アビゲイルの側近である三人の内の一人。ソフィーに至っては、戦力として数えられているアビゲイルよりも戦闘では重要視されている
そんな重要人物となったソフィーを始め、コレット、マール。三人の主であるアビゲイルを含め、街の各所に配備された兵達の隊長格二十数名。プラスα、伝達役として勝手でてくれた配達人約二百が最後の会議にと一つの場所に集まっていた
配達人の中にはノアの姿もあるが、彼女は他の配達人とは少し違って、アビゲイル、またはソフィーの直接的な指示を出す最も重要な職についている。表情は緊張しているのか、していないのか。深く被られたフードで判断はできない
「でだ。ソフィー。捜索隊が見つけたって言うデッカい船は本隊だと思うか?」
やたらとざわつく大きなテントの中で、アビゲイルの一言で会場は静まり返った。配達人達が一言一句話を聞き逃さないように巨大な円卓を囲む隊長達も黙り、視線はアビゲイルかソフィーにだけ注がれる
座っている者に目線の高さが合うよう、かなり足の長い椅子に座り。足を前に伸ばしたり、後ろに追ったりと子供の様な仕草をするソフィーは唸る
「ど〜だろうね〜。私の中では六対四で先遣隊だと思うよ〜」
「ソフィーにしては随分と曖昧な答えだな」
三万人の人間でラサンを落とせるとはアビゲイルは考えていない。それだけに四で本隊というのは驚きを隠せなかった
「それはね〜。現じょ〜、最も厄介な人間がこの戦争に参加してると〜配達人のノアから届いた手紙で解ったんだけど〜」
誰からの言葉を待たずにソフィーは話続けた
「勇者サンゴがね〜」
その人物の名前に会場は凍り付いた。これより二十二時間後、戦争は始まる
しかし、ラサンの街にキリルの姿はなかった。既に到着していて当然なはずなのに
キリルが副都を出て、一週間ほど。日が大地に吸い込まれていく所を見ながら、ノアは自身が思う予定通りにフィエの街に着いた。謎の依頼人による手紙を首都にある大魔帝王の城まで届け、国の重鎮中の重鎮。大魔王の二人に謁見する事も出来た事から、フィエを過ぎてラサンに向かえば必ずアビゲイルに会える
そう。しっかりお金は受け取っている物のアビゲイルに会う為だけに働く。異常とも言えるモチベーションはいまだに続いていた。大魔王よりも、魔王のアビゲイルなのだ
意気揚々と指示された住所の屋敷のドアを叩く。出てきたのは一人のメイドだった。優しそうな目に、うなじ当たりまでの髪は波をうつ。白髪の魔族
優しく用件を聞いてくる姿に安堵しながらノアはとっても大きな鞄から手紙と紙、ペンを取り出す。手紙は渡さずに一言
「バネカー様でございますか? 速達でお届け物です」
「主様はお休み中ですので私が、受け取っても?」
「申し訳ありません。依頼人のご意向により、本人に直接渡せとの事ですので」
ノアの言葉にソアは困ったように首を傾げた。流石に配達人とはいえ、かなりおかしな注文だからだ。困り果てた結果、一応バネカーに話をするためノアを待たせて屋敷の中へ戻る
今起きた事を、夕食を待っていたバネカーに話す。彼は一切疑う様子もなく配達人と会う事を決めた
「私に直接手紙を渡したいそうだね」
バネカーが屋敷から出て来るとノアは屋敷の外側を見てたっていた。何を考えているのか表情からは読み取れなかったが、彼女のお腹から音が聞こえる。ただ単に夕食を何にしようかと考えていたのだ
バネカーにも聞こえるお腹の音を掻き消すようにノアは一度咳払いをしてソアに訪ねた言葉と同じことを言う。問われた魔王は当然の如く頷く
「では、こちらにサインをお願いします」
依頼人のときのように奪われたりしないかを警戒しつつ、サインを紙に書いてもらう。サインを確認し手紙をバネカーに渡す。その時、ノアは一言付け加えた
「そうそう、この場で手紙を読んでください」
「ここで? それも依頼人の注文か?」
「はい。バネカー様にだけその様な注文を頂いております」
茶色い紐で封をされた手紙に書かれている『ヴェネチア』という差出人。既に心当たりしかなく。覚悟を決めるように一度深呼吸をしてから中身を確認する
手紙は大分分厚く、便せんの数以上に手のひらサイズの紙が大量に入っているのがノアからも見えた
手紙を読み終え、手のひらサイズの紙を確認する。バネカーの顔色は見る見るうちに悪くなっていく。黒い肌が褐色に変わっていくのだ。世間一般的な変わり方だが、キリルが見たら間違いなく『解りづら!』と叫んでもおかしくない
「配達人の君。君は、これからラサンに向かうんだったね」
「そうです。次はアビゲイル様に手紙をお届けするよう依頼されています」
「その手紙の内容と、私に届けた手紙の内容は同じかい?」
手紙の内容を知っていて届ける配達人は少ない。気になって中身を確認する者も時々いるが、ノアはそういった手紙の内容に興味はない。首を振って解らないと伝える
「じゃあ、私の手紙をこのままアビーに届けてくれ。君を雇うから」またか。そう思いつつも、それ以前に憧れのアビゲイルを呼び捨てにする目の前の魔族に敵意はむき出しだった
ノアが目の前に魔族をアビゲイルの兄だと知り、『アビゲイル様のお兄様』と長ったらしく呼ぶ事になるのはほんの数分後だ
キリルが副都を出て二日目の朝。ウィリアムは朝食を終え、仕事部屋でカタリナから今日の予定を聞かされていた
午前中の予定は第五魔王の街に騎士団を設置する為の予算と土地の事で、第五魔王の側近を招き大々的な会議。昼食は第五魔王の側近を含めた食事会。午後は基本業務として山の様な資料を捌く事になる
いつもならば午前中は比較的暇で、午後にやるはずの資料をかだづけてしまうのだが。今日に限ってはそれは出来そうにもない
会議用の清掃を持ってくるようカタリナに指示を出し、机にうな垂れる。本日のハードスケジュールに備え分刻みの睡眠を取っていた
第五魔王はスキル系統が氷の癖して、魔王の中では最も暑苦しい。その部下、側近レベルならばその主と変わらない暑苦しさを持っていてもおかしくないからだ
睡眠中、思ったよりも速く部屋の扉が開かれた。ウィリアムは顔だけを扉の方へ向ける
「あれ? アンゴレちゃんどうし……お?」
扉の前に立つのはアンゴレだったが様子がおかしい。既に通話状態になっており、向こうの者がどれだけ慌てているのかが吐息で解った
アンゴレを使ってウィリアムに連絡ができるのは三人。大魔王二人と大魔帝王だけである。誰だか解らないのでアンゴレ越しの言葉を待つ
「『ウィリアム。ヤバい』」
三人の中でウィリアムと呼ぶのは大魔帝王だけ。大魔王はウィリアムの事をハーシェルと呼ぶ。誰だか解った彼は机から身体を起こしアンゴレを食い入るように見つめた
「『お前の所のセーフフィールド圏内に、魔獣が一匹入り込んだ!』」
「なるほど、それでは直にでも討伐隊を編成しましょう」
「『駄目だ! ただの魔獣だと思って当たれば全員が死ぬ。入ってきた気配は五万以上! 言ってる意味解るな?』」
一匹しか入り込んでないのに気配は五万越え。ウィリアムにもその事がどれだけ異常な事か十二分に理解できた。考えられる可能性を口に出す
「魂食獣・ライラが街のセーフフィールドに?」
ライラによる村の壊滅事件は珍しい事ではない。しかし、街ともなれば魔王もいる。なによりも冒険者が多く、例え人型魔物最強種と言えど討伐は免れない
魔獣も長く生きれば知性が強くなりどこが危険か考えられる。ライラはフェンリルと同程度生きている。街に入れば討伐する為に魔王が動く事も解るはず。それだというのに、入ってくる理由
ウィリアムが導きだした答えを、大魔帝王が告げる
「『アンちゃんだ。あの獣、久遠人の魂を食らうつもりだ』」
立ち上がるウィリアムとカタリナが部屋に帰ってくるのは同時だった。部屋に帰ってきたばかりのカタリナに現状を理解する術はない
「主様?」
「カタリナ。今日の予定は全てキャンセルだ。使者にも謝っておいてくれ、仕事も任せていいな?」
理解は出来ていない。しかし、表情の厳しい主を見て、カタリナは断る選択肢は断たれた。ウィリアムは仕事部屋にある自身の甲冑や剣を素早く身に付けると、カタリナの肩を叩いて屋敷を後にした
ウィリアムの言葉が聞こえていた大魔帝王は静かに通話を切る
アンゴレが通話状態からとかれた事に気がついたカタリナは静かに問う
「アンゴレ様。事情をお聞きしても?」
「……友人の為に動くんだよ。……何世紀ぶりだろう」
あまり口数の多くないアンゴレが、懐かしむようにそう答えた。カタリナにそれは理解できない
白に包まれる街を、山を黒い線が通り抜ける
私の作品の中に『人間の大陸』というものがあり、その中の主人公がサンゴ君です。どんなキャラなのかはそれを呼んでも解りませんからご安心を。どの程度の事ができるのかって事は書いてありますけどね
それにしても、本編に出せないと思っていた短いお話を全て纏めて一つの話にするってのは、思ったよりもいい感じになりました
言うても、上二つは書けないと思っていた話で、ウィルのは今日書こうと思っていた物です
次回は主人公視点に戻りますよ。なんだか第三者視点の方が書くの楽しいし、楽。主人公目線で語るのがとても難しい気がする




