Q:キリル・オーエンですか? A:そう名乗りなさい
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今回はいつもよりちょっと早め
ウィルの仕事部屋で待つ事約一時間。先ほどの話通り、ウィルは帰ってきたようだ。玄関の方で音が聞こえた。この部屋に近づいてくる足音は二つ。一つはウィルの物で間違いない。もう一つは小刻みに小さな歩幅で歩いている
イビエイさんに聞いた話ではウィルと二人で行動しているのは、たしかアンゴレさんだったかな? 二つの足音が部屋の前で止まる
俺は席を立ち、部屋唯一の出入り口を見つめた
「待たせたなキリル。一週間で戻ってくるなんて思、っても……」
友人の訪問という事もあってか笑顔のウィルが部屋にやってきた。その格好は、以前見たときとは大きく異なり。黒い甲冑に左右の腰には二振りの剣が見える。アダフさんの剣よりも多少大きい。訓練と言っていたわりにはかなりの重装備
ウィルの後ろにはアンゴラさんによく似た二頭身タイプの魔族がいた。あれがアンゴレさんか。確か、受信距離が広いんだったな
そんな二人の目線は一瞬だけ俺に向いたが、直ぐにアンの方へと注がれる。それが恐かったのか、アンが俺の背中へと隠れてしまった
ウィルはその一連の光景を様々な表情で見る
最初は笑顔、次は久遠人であるアンがいる事の驚きと喜び、最後は隠れる彼女を見て悲しそうな顔をした。ウィルは俺らに背中を見せるとアンゴレさんを部屋の外で待機させ、誰もこの部屋の近くに血が漬け内容に敏次を出す
人払い。やっぱりウィルには付け耳くらいで誤摩化しは効かないか。それなら話は速くだ。ここは先に俺が切り出すべき
「ウィル。頼みがある」
「駄目だ」
話を聞く前に断られた。長い溜め息をつきながら頭を抱えるウィルは、左右の腰にある剣を取り外して俺らの横を通り過ぎる。その姿を俺は目で追う
仕事机に剣を立てかけ、彼自身は机に両手を乗せ腰を下ろす。足が地面からほんの少しだけ浮いた
「話も聞いてくれないのか?」
「聞かなくても解るよ。その娘を見ればね」
言葉尻は笑っていたが、顔は笑っていない。俺らを見てどうした物かと本気で悩んでいる姿だ。そんな表情をしているからこそ思う
「怒ってないのか?」
「キリルには怒ってないさ。こんな結果になってしまった俺の考え方に腹が立つ」
「自分に?」
「ああ、俺の友人から。その子供を取り上げなければならないんだからね」
そういう意味か。真っ直ぐ見つめられたアンは、少しでもウィルの視界に入らないようにと俺の脇腹に顔を押し付ける
まあ、大体は予想通りだ。ウィリアム・ハーシェルは副都という重要な都市を大魔帝王から預かるほどの魔王。出された命令には従い、成功させるんだ。前前から頭の固そうなヤツだとは思っていた
「なら、報酬をもらおう」
だからこそ、アンを差し出さずに済む物を俺自身が出すんだ
右腕でアンを抱き、ウィルに左手を差し出す。彼は俺が力ずくでもアンを守るだろうと考えていたのか。アンから視線を俺に向けた
俺が何を言うか解ったのかウィルは口元を左手で覆い、報酬を口に出して確認する
「報酬は、君の故郷の場所だったね。ヴァーニア様にも連絡しなきゃいけないし少し時間が欲しい。一日待ってもらえるかな」
「その事だが、それ以上に欲しいモノが出来た。故郷は自分で探すから別のモノを要求したい」
「この小生意気な子供は」覆われた手の中で小さく呟くが俺には聞こえている。気になるのはその声が少し嬉しそうである事
「いいのかい? 折角の情報を感情に任せ、失う事になってしまっても」
「構わない。もう半年も探したし、お義兄さんの応援も無駄にはできないしね。それ以前に一時の感情で失うのが恐いのは、今欲しいモノだよ」
ふつふつとウィルの肩が揺れる。完全に笑っていた。左手も机に戻り、天井を仰いでそれはもうおおいに笑う。ひとしきり笑うと静かに言い放った
「やっぱり駄目だ。確かにヴァーニア様も隠しておきたいあの村の場所という秘匿性の高い情報を犠牲にその娘を貰いたいというのは面白い。本当にキリルは頭がいい
しかし、やっぱり若く。経験がない。君のは交渉になっていないと解っていない
こんな物、取引でもなんでもないんだよ。君がその少女を欲した時点で契約は成り立たない。今の時点でキリルは故郷の場所も、少女の所有権の両方を失ったんだ」
っ!? そうか。既に俺とウィルとの間にある契約は『アン自身または居場所の情報と俺の故郷の場所』この交換
その話をたった今俺が壊して『ウィルに渡ったアンと渡したばかりのアン』の交換とした。もう話がまるっきり違う。なんでこんな簡単な事に言われるまで気がつかなかったのか
こうなってしまえば依頼人であるウィルのいうように契約を破棄できる。現状は最悪、探している張本人の屋敷までホイホイと久遠人を連れてきただけ。言い換えればアンは既にウィルの手元にある。そう考えるべき
覚える能はあっても考える能の無さに腹が立つ
だけど三日もこの事だけ考えて帰ってきたんじゃない。カードはまだある。ウィルに差し出した左手を引っ込め、真後ろにある椅子へと置く
俺の魔力に気がついた瞬間、ウィルの右手が剣に伸びた。だが、その手はすぐに動きを止める。俺に一切の敵意はないのが伝わったのだろう
椅子は木製。触っているので代理魔法の使用条件を満たした。椅子を一つの丸い木材の固まりに作り替える。どんどん大きくして天井ギリギリで止めた
次にできる限りアダフさんの剣を地面を埋め尽くすほど作り出す。その光景をウィルは黙って見ている
「他にも魔法は使える。これだけやっておいてなんだが、剣はこの数十倍の量を生産できるし、木は魔力の尽きるまで巨大化させ続ければこの屋敷を軽く潰せるほどになる」
一度言葉を止めるがウィルは口を開かない。話の続きを待っている
「俺はまだ成長期。魔力はどこまで増えるのか解らない。俺自身を売ろう。それでアンを諦めてくれ。大魔帝王を諦めさせてくれ」
「様は付けろ。不敬罪で引っ捕らえるぞ。全く。……取り敢えず、この剣の山と椅子をどうにかしろ」
どこか不機嫌にそういい切るウィル。言われた通りに魔法で出した物全てを消し去った。これで駄目ならば、全魔眼も切る事も視野に入れなければならない
〈最初からでも良かったんですけどね〉鼻で笑う様な物言いにもう少しだけウィルと向き合える事が出来そうだ
「最も面白くないカードを切ってきたーー」
やはり駄目だった。機嫌が悪くなったのは俺自身を交渉材料に使った為だったのか。この時既に全魔眼というカードを切ると心に決めた
しかし、ウィルの言葉を最後まで聞くこと無く。仕事部屋の出入り口が大きく開かれる
「『いいだろう! その話で手を打とう!』」
振り向いてみれば、扉を開けて入ってきたのはアンゴレさんだった。ウィルに誰も通すなと言われた張本人が入ってきたのだ。一体何を考えているのか
そう思ったのもつかの間、アンゴレさんの様子は先ほどチラッと見たときとは変わっていた。アンゴラさんが通信していたときのように髪の毛が逆立っている
正面から見ると目は見開かれ、無表情の中。口だけがハキハキと動き出す
「『キリル君の要望に応え、君自身の所有権を私が貰い。その久遠人の所有権はあげましょう』」
誰かがアンゴレさんを通じて連絡してきたって事か。この世界にある姉妹達の端末は三つ。そのうちの二つがこの屋敷の中にあり。もう一つは大魔帝王の屋敷にある。という事は、アンゴレさんの口から聞こえる声は大魔帝王の物という事だ
直接触れていないのか。少し雑音が混じっており聞き取りにくい。でも多分女の声
しかし急過ぎて追いつけない。自身の主かいるというのに何も話さないウィルの顔を一度見る
「どうしたキリル?」
「いや、お前がどうした。ウィルの主だろ?」
「キリルの住む大陸の王でもあるんだけどな。ヴァーニア様が良いと言うんだ。お礼の一つでも言っておいたらどうだ」
うん? なんだか腑に落ちない気持ちだが、確かにその通り。大魔帝王様にはお礼をしなければ
俺に顔を押し付けて動かないアンを抱えてアンゴレさんの前まで移動する
「大魔帝王様。本当にいいのですか?」
「『いいよ。その代わりに言った事はしっかりと守ってもらうからね』」
要は俺は大魔帝王の所有物となった訳だ。……タイミングの良さからして。俺嵌められた? いや待て、ウィルはあの時確実に不機嫌だった。あれは縁起とは思えない。やっぱり偶然?
「もちろんです。まずは何をしましょうか?」
「『今は特にない。その街で待機です』」
なんだい。随分さっぱりした性格なんだな大魔帝王。結構取っ付きやすそうなイメージだな。だからこそ魔王達はこの王様についていくのかも
特にその先に会話はなく。このまま大魔帝王は通信を切るのかと思われた。そんなおり、ふとある事を口にした
「『そうそう。そこに久遠人はいますか?』」
「アンですか? 目の前にいますよ」
「『アン? お嬢さん。名前を貰ったのですか』」
流石にアンが俺と一緒にいる事を許してくれたお方に返事がないのはイメージが悪い。アンには悪いが一度俺から引っ剝がして説明をする。取り敢えず今の質問の答とお礼を言うだけ言ってもらう
「アン・オーエンって言うの」
「『立派な名前です。よかったですね』」
「パパに貰ったの」
「『ほう。パパとは? 誰のーー』」
ん? なんだこの会話めちゃくちゃおかしいよな? なんで大魔帝王はこの部屋にアンが居るかも解らないのに、性別は解るんだ。というか名前がなかった事も知っている方がおかしいだろ
もう一度ウィルの方を見る。もう既に話も聞かず、剣や甲冑の手入れを始めていた。その顔はどこか不満そう
〈主。これは〉
ああ、ウィルすら知らぬ内に嵌められてたって事だな。やられた。理由は解らないけど、どうにも大魔帝王は俺を欲する。訳がない。考えたくもないが、考えられる事といったら
〈私〉
そんなはずはないと信じたい
「『キリル君。君には二つ言う事が出来ました』」
全魔眼との考察をしている間にアンから大分話を聞いたらしい。どんな内容かを聞いている余裕がなかったから全く解らない
アンはアンゴレさんなら大丈夫だったのか。普通に話せたらし。ウィルをあんなに嫌がったのはなぜだろう?
「『君はアンちゃんにパパと呼ばれているそうだね』」
「え? ああ、はい。そうです」
別に呼ばせている訳じゃない。好きに呼んでも良いと言った結果だ。悪い気はしないけど
「『ならば君も兄ちゃんと同じ。オーエンの性を名乗りなさい。いいですねキリル・オーエン』」
なんだそんな事か。それくらいならお易い御用だ。元々ウィルとの話を済ませたら俺自身もそう名乗るつもりだったからね
頷いても向こうには伝わらないので、返事をする。するとすぐに二つ目のお話に移った
「『では、二つ目です。ラサンの最前線で戦争に参加しなさい』」
「は?」
この街での待機からいきなりどうしてそうなった?
むうぅ、やっぱり私は交渉とか経済とかの話を考えるセンスが欠落している
どうにも上手く書く事ができない。結構時間をかけたんですが、こんな感じになりました。こう言った回では助言を貰えると今後凄く助かるんですけどね
というかまず私に交渉の『こ』の字からおせーてくだせえ
前回は殆どが移動で説明文。今回は交渉という私の中では初めてのチャレンジ。場面が移り変わる事がない
それに、書きたかった部分も掻き消えずに占める事になってしまい
反省と練習をしなければと思わされる回でした




