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Q:最強の魔獣ですか? A:人型魔物最強種です


 時間はアンと呼ばれる事となる少女が逃げ出した直後まで戻る。白い少女が闇にとけ込む前に、ワーウルフの魔獣は笑いながらその姿を目で追っていた

 追いかけないのは、少女に奴隷化の首輪が付けられているからだ。しかし、魔獣は知らない


「ははは! 無駄だ。雑種よ。あのガキには奴隷化の首輪という魔法道具が付けられている。俺様から遠ざかれないよう『行動の制限』をかけさせてもらっているからな!」


 高らかに事情を説明する魔獣。その話を聞き、首輪をぶった切らなければ駄目かとは知っていく少女に目を向けた。目のいいユリアでもくらい森へ走っていく少女を確認する事は難しかったが、聞こえる足音はどこまでも遠ざかっていく


 止まりそうに無い気配にその場の誰もが首を傾げた。この場の誰よりも驚いたのは間違いなく


「あれ!? なんで止まらないのだ?」


 ワーウルフの魔獣だろう。暗闇の中でもその嗅覚で逃げる対象がどんどん離れていくのを感じていた。少しして首輪の昨日が壊れている可能性があると考える

 すぐさま生き残っているワーウルフの魔物に、少女の捜索を支持する。魔物は魔獣の命令を受け獣に近い姿に変身すると、闇へと走り出した


 しかし、その捜索は一瞬の内に終わりを迎えた。少女の背中を追うワーウルフは、頭部にある魔核と顔面を綺麗に輪切りにされて息絶えたのだ。勿論それを簡単に成せるのはこの場でただ一人ユリアーナだけ

 少女が逃げる道を守る様に、身の丈ほどの大剣を地面に突き刺して魔獣の前に立ちふさがる


 道を阻まれた魔獣は、先ほどの魔物と同じ様に獣に近い姿に変身する。ただ先ほどと違うのは、フェンリルの眷属だけが使える青き炎を身に纏っている事だろう


「おい犬。どうして人間の子供なんて檻に入れてたんだ?」


 青い炎を見たユリアーナは半歩だけ後ろに下がって、質問を投げかけた

 魔物より格段に強い魔獣を狩るにあたって、大きなメリットがある。それは、話せるという事。話せるという事は情報を引き出す事が可能となる。話せない魔物からは決して手に入れられない物なのだ


「それを教えるとでも思うか?」

「だよね」


 魔獣と戦うメリットとは関係なく、ユリアーナが下がった事には大きな意味がある。危険だから後ろに下がった。危惧したのは、相性の悪さ


 戦闘に置ける炎の魔法やスキルというのは、一瞬の火力が持ち味なのだ。言うなれば爆発に近い。光源として使えなくも無いが、属性系の中では炎は防御力が無いに等しい、むしろ近場で発動すれば自分も巻き込みかねない


 なお、ユリアーナにこの事も関係はない。ユリアーナが嫌がるのは『青い』炎

 実は青い炎には幻影作用があり、個人差はある物の、その光を見た者に対し視覚からワーウルフの魔獣が増えた様に見せる効果があるのだ


 そう。キリルは全魔眼と言う、ありとあらゆる視覚に関する効果を無条件で弾いてしまう為に。戦闘中にはこの事に気がつかなかったのである

 しかし、ユリアーナの場合は別だ。そんな力はなく、既に魔獣が十人以上に増えて見えていた


 魔獣の炎が森の木々に燃え移り、ユリアーナの全方を青く染め上げていた。熱気とともに五人の魔獣が飛びかかり、残り五人の魔獣が地面スレスレを駆ける

 キリルの知覚強化百倍でも速いと思う速度が十人


「間合いは十分か」


 ユリアーナクラスの冒険者になれば幻影を見分ける訓練を怠らない。しかし、ユリアーナにはそれをしない。しないと言うより、できなかった

 彼女は、極端なまでに愚直で。その性格はのらりくらりと立ち回る幻術タイプの敵にめっぽう弱かったのだ


 魔獣の耳に確かに届いたその言葉の後、十の幻影はユリアーナの剣により切り裂かれた。その光景をユリアーナの背後に回り、時間を稼いでいる間に少女を追おうと考えていた魔獣が見る。素直な感想が口から漏れた


「マジかよ。俺様から見ても化け物だ」


 幻影を全てさばいたユリアーナ。既にこの場にいない魔獣の行き先は、彼女を逃がした反応を考えればすぐに解る。魔獣を追い、焚き火に放り込まれたばかりの薪を手に暗い森へと走り出す

 追う途中、龍族特有の強者を見分ける嗅覚で異常な何かを察知していた。頬を一度ひくつかせて思った事が口に出る


「マジでか。なんだこの感じ、私じゃ勝てないぞ」


 ユリアーナのどこか諦めた様な一言を言い終えた時、青い光が森の奥から見えた。更に走る速度を上げたユリアーナは瞬く間に魔獣に追いついた

 直ぐ後ろに迫る彼女の気配を感じ、魔獣は悪態をついて迎え撃つ体勢をとる。前足で急ブレーキを駆け、身体を反転させて背後を向く


 気配を感じてすぐに振り向いた魔獣はまだ距離があると高をくくっていたが、そんな予想とは裏腹にユリアーナは目前に迫っていた。爆風で自身すら傷つく事を覚悟し、魔獣はユリアーナに向かって一瞬で発動できる最大の火球を放った


 魔獣は爆風で飛んできた木屑により、全人に切り傷を作り、特に左腕や右足、鼻は深く傷つけた。対してユリアーナは


「危ないな。私じゃなかったら死んでたかもしれないぞ」


 シャツの腹部は消え去り胸当ても傷だらけ、ズボンのすそは肩報復飛んでしまっていたが、身体に傷はまるで見られなかった


「雑種、キサマおかしいんじゃないか?」

「これくらい私の両親なら服も傷つかないぞ」


 自信を失くしそうな魔獣はユリアーナの持つ身の丈ほどの大剣を見て覚悟を決める。そんな彼を救う様に、ユリアーナの背後から重い足音が連続して聞こえる

 今まさに魔獣の首を狩ろうとするユリアーナは、その場から大きく身体を翻し、真横に大きく飛んだ


 足音の主は、ユリアーナの横を通り抜けワーウルフの魔獣の頭を鷲掴みにして彼女と対峙した

 四メートルに近い巨体に、体毛は金色。四肢の頭に、ゴリラを彷彿とさせる屈強な身体を持つ二足歩行の魔物。ユリアーナはその見た目に冷や汗を流す


 無理もない。個体の絶対数が少ないにも関わらず、一体でそこいらの魔獣五体とぶつけても食い殺すほど極めて凶悪な魔物。その名も魂食獣こんじきじゅう・ライラ

 この魔物に食われたら最後、回復魔法も作用しない。魂ごと肉体を食らう人型魔物最強種である


「ほう。美味そうなエルフだな」


 そしてこのライラは、魔物ではなく『魔獣』だった

 ユリアーナは後に語る「流石に死んだと思った」と


 既にユリアーナの頭の中ではこの場から逃げる事だけを考えていた。勝てないからだ

 人型最強種の魔獣ともなれば、最強最悪の魔獣・フェンリルに限りなく近い存在と言っても過言ではない。最強の獣人の血が強く流れるユリアーナでも、軽い気持ちで戦えば命はない


 ライラから一切目を離すこと無くユリアーナはゆっくりと後退を始めていた


「なに、逃げる事はないぞエルフ。私の目的は久遠人だけだ。さっきつまみ食いしたからそんなに腹も減ってないしな」


 微笑みながらそう告げる金色の魔獣はワーウルフを持っていない方の手でユリアーナを制止させる。内心、信用できるかと叫ぶユリアーナは後退をやめない


「まあ、だろうねえ」

「おい! ライラ。キサマ、つまみ食いって俺様の部下じゃないだろうな!?」


 口回りをひとなめして視線をそらすライラ。鷲掴みされたままのワーウルフは激しく暴れる


「うるっさいのぉ。お前さんは私が来なければ死んでいたんだぞ? 感謝の印に部下の魂三つくらい多めに見ろ」

「キサマは埋葬すらできないくらい何も残さないだろうが!」

「頭蓋骨、吐こうか?」


 ワーウルフは脇腹を蹴って答える。笑って受けるライラはしばらくすると右を見て左を見る。まるで何かを探しているかの様な動きをした

 ユリアーナは理解した。答えは人間の子供だと。あの子供が本当に久遠人かは彼女に知る術もない


「久遠人はどうしたのだ? お前さんらに協力する変わりに手足くれる約束だろう?」


 その一言でワーウルフは滝と見まがう量の汗を流し始めた。ライラはその反応を見て眉間に皺を寄せる


「もしかして、逃げた?」

「うい」

「なんで?」

「あの雑種に襲われてです」

「追える?」

「鼻を怪我しちゃって無理です」

「お腹減ったんだけど」

「部下じゃ足りませんか?」


 長い溜め息をついたライラは頭を抱えて左右に振る。顔を覆っていた手の隙間から、視線はユリアーナの方へと注がれた

 その瞬間、彼女は持てる全ての力で大剣を地面へと叩き付けた。火のついた薪の火は掻き消え、大小の石つぶてと、大量の砂埃が舞う。ユリアーナは一心不乱に森へと逃げ込み、草むらの中へと隠れた


 目を見た瞬間、死を覚悟するほどの実力差を感じながら、息を整える。自身の心音が直接耳に届くのではないかと思えるほど心拍数は上がっているのにも関わらず、等の本人は気がつかない


「ほお、流石エルフ。隠れるのが上手いな」


 その声はユリアーナの背後から聞こえた。動けないユリアーナに語りかける声は、常人ならばそこで生きる事を諦めていたかもしれない。それほど優しく慈悲のない声色だった


「よしわかった。私に勝てないと踏んだ素早い判断に免じて。後三十秒待ってやろう。もっと上手く隠れろよ」


 四メートルを超える大男がユリアーナを抱え、強制的に立たせる。三十秒でできる事をユリアーナはとにかく考えた。そして五秒を使い終えた時、彼女は走り出した


 十秒を使い。あるポイントまで全力で移動し、ライラとワーウルフがいる方向を向いて大きく息を吸う

 いつまでも、いつまでも、いつまでも、いつまでもとにかく息を吸った。ライラとワーウルフからユリアーナの姿は見えなかったが、泊まることのない吸気は二人の耳に届いている


「なんだこの音は、あの雑種。何をするつもりだ?」


 ワーウルフの疑問にライラはある事に気がつく


「雑種とは? エルフではないのか」

「ん? あ〜、確かにエルフなんだが。どっか獣クサいっていうか。なんと言うか」


 顎に手を当てて考えながら言葉を選ぶワーウルフ。深まる謎を考えながらライラは風が集まる方向を見ていた

 残り五秒、ライラはそこで気がついた。ユリアーナがしようとしている事を


 そこで始めてライラの表情から笑みが消える。エルフとは思えない完全近接型の攻撃力、ワーウルフの言う雑種、とまらない吸い続ける息

 ライラは察してしまった


 龍と対峙して生きている者は数多く存在する

 龍と対峙して咆哮を聞いた者はほとんど存在しない


 全てを吹き飛ばすつんざく鳴き声と共に、全てを薙ぎ払う魔力の弾丸を撃ち出す

 たった一声、然れどその声は龍の中でも最強の一撃。種最強の黒龍。隔世遺伝により、その血を色濃く受け継ぐユリアーナは、撃てた


 多大な魔力を消費して、眼前の敵を討ち滅ぼす


「ヤバいぞ! 龍だ。龍の咆哮だ!」


 ライラはワーウルフを抱え、最強種とは思えない様で逃げ出した。ワーウルフは逃げる途中に自分が乗ってきた馬車を見つけそれも引く様にライラに伝える

 時間は惜しかったが、ワーウルフに聞いた内容物の事を考え。致し方なく馬車も引いて走る


「塵に変えろ。黒咆こくほう!」


 森を染める闇。それと大して変わらない黒く、巨大な魔力の固まりがライラ達を追いかける。ライラの走る速度よりも圧倒的に速く、木を塵へと帰るその殺傷能力を見て彼は笑った


「ライラ。俺様達死んだかな?」

「死にたくないな! 『魂製多盾器こんせいたじゅんき』」


 寸での所までユリアーナの咆哮が迫る最中ライラの声と共に、禍々しく燃える炎を模した、金色の盾が彼らを覆い隠した

 刹那、咆哮は盾ごとライラ達を飲み込んでいった


「う〜ん。彼女、やるなあ。ただ、タイプがアビゲイルと被ってるんだよなあ」


 ライラ達が逃げ出した方向とは逆側。月明かりに照らされる木々の上から、シルクハットを被り燕尾服を身に纏った長い金髪の魔族の少女が呟いた。彼女の両手には白く美しい少女が眠る

 ぶつぶつと何かを考えながら、彼女は東へと身体を向けて木の上から飛び降りた


「相変わらずふざけたスキルだな。ライラ」

「いや、ふざけてるのはあのエルフの咆哮だろ。盾が全部おじゃんだ」


 筋の粒子へと変わり果てた見送りながらライラはうな垂れる

 スペシャルスキル『魂製器こんせいき』ライラの魂ごと肉体を食らうという能力を武具化したスキルである。魂ごと肉体を両断し、再生不可能な傷を作る。回復魔法を無力化する能力だ


「盾はいつも使わないだろ? 別にいいじゃないか」

「馬鹿者。盾が一番魂使うんだぞ? 食った魂百個分だ。耐久値は全武具で最大だぞ」


 魂を狩るのに盾が必要か? ワーウルフはそう思ったが口には出さなかった。更地になった地面に寝転がり、夜空を見上げる


「久遠人はどうする?」

「それなら問題ない。お前はここから北に向かえ、私は南に行く。しらみつぶしに探すんだ」


 ワーウルフは頷き、ライラは話を続ける


「お人好しの魔族の事だ。例え人間でも子供なら保護しているかもしれない。潜入してでも子供をかっさらえ、首輪を使ってもいい

 私はフェンリルの直接的な部下じゃないからな。ゆっくりやらせてもらう」


 何度も頷いてワーウルフは馬車の中から鉄ではないふじ着な素材の首輪を取り出す


「じゃあ、キサマにも少し渡しておく。あの雑種はいいのか?」

「私が逃げ出したんだ。もう一度エルフの前にいくのはダサいだろ」


 「え? そういう問題」既にその場から離れていこうとするライラに向かってその言葉を投げかけたが、返事はなかった

 ワーウルフはもう一度その場に寝転がり、夜空を見上げる


 同じ夜空を見ながらユリアーナは呟く


「あ〜、生き残った」





 まさかの二話連続主人公不在。正確には前回のさわりで出てきていますけどね

 まあ、出番はないのと同じなので二話連続です。次回は通常通り主人公目線に戻りますよ


 ホントはノアの話を入れたかったんですが、どの道後で出てくるからやっぱりいいや。さっさとアンを書きたい

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