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Q:魔王が恐いですね。ねえ、主? A:なんとかするさ。必ず


 5277文字


 本当に子供じゃないか。産まれて間もないとウィルから聞いてはいたものの。十歳前後の子供だとは思わない。だが今はそんな事を気にしている暇はない。最も注視しなければならない場所がある。か細い腕の先、手の平だ

 昨日の時点で既に色に違和感があったが、今は一目見ただけでその危険さが解った。黒く変色した指、通常の倍ほど腫れた手の平。素足も同じ様に黒い部分と大きく腫れた部分に別れる


 凍傷


 彼女の指は腐っている

 そう思った瞬間、俺は走り出していた


〈主! いいのですか? 目的は発見、または捕獲ですが。仮にあの久遠人が主よりも強く、逃げでもしたら〉

「どうでもいい」


 全魔眼のいう事は正しい。でも考えられない。年端もいかぬ子供が、こんな所で何をしようと俺には関係ない。ただ救いたいと思って何が悪い

 俺の見立てでは、この事をウィルに報告してここまで彼女を捕らえにくるまで。どれだけ迅速に事が運んでも最低五日は掛かる。あの子はそれまで持たない。確実に凍死する

 なりふり構わず走り、洞穴の入り口が見えてきた


 〈足音が聞こえたのでしょう。警戒しています〉全魔眼は千里眼により逐一状況を説明してくれる。あの子が俺の足音に警戒するなんて解りきっている事だが、逃げ出すか逃げ出さないかを確認できているというのはありがたい

 洞穴の前に立ち、間をあけずに雪を掻き分けた。中から少女が出てくる気配はない。はねてゴーグルにつく雪は無視。視界はどんどん白くなる


 穴を覆う様に積もった雪を掻き分けていると、接していた雪も次々と崩れ直ぐに中に入れた

 少女は震える両手足の全て使い、立ち上がろうとしていた


「立っちゃ駄目だ! 動かないで」


 忠告も空しく、彼女は身に纏う薄い布を揺らして全力で走り出す。変色した指を剣に見立て、鋭い突きを俺の顔へとめがけてくり出した。全魔眼が知覚強化を発動させる。どれだけの倍率かは解らないが、驚くべきはその身体能力じゃない。いまだにそれだけの力で動けるという事だ


 右足を下げつつ半身で彼女の突きを避け、顔の横を通り過ぎた手を掴んで彼女の手を顔の近くに寄せる。黒くなった指は腫れた手の平とは違い。多くの皺を付け、ほとんどミイラ化していた。身体もやせ細り、ガリガリの身体には肋が浮いている


 なにより最悪なのは俺は凍傷の治療法を知らない。俺の分野とは大きくはなれて、応急処置すらままならない程に解らない


 疲弊している彼女を見て思考を巡らせる

 どうする? 患部を温めれば良いのか? 変色しているという事はもう手遅れ? 腕後と切り落として再生させる? しかし、彼女は見る限り体力の限界を大きく通り越している。もし、腕を切り落としたりなんかしたら。おそらく死ぬ


〈主! 前を!〉


 雪につくゴーグルと、腕を睨んでいた為にもう片方の手から出された手刀の突きに反応が遅れる。首だけを大きく逸らし避けるが、完全には避けきれずにゴーグルを掠め留め具を壊された。顔から落ちるゴーグルが音をたて洞穴に反響する


「同じ、色?」


 小さく絞り出したかの様な声、十歳前後の少女から出た声だと一瞬気がつかなかった。現在俺はニット帽に先ほど付けた口元の布。その間から見えるのはゴーグルが抜け落ちた肌だ

 彼女は俺の肌と目を見て、鋭く睨んでいた目が緩む。そしてそのまま全身から力が向け落ちた


 死んではいない。気を失っただけだ。魔族以外の黒くない肌を見て安心したのだろうか? とにかく都合がいい少女を抱きかかえ、洞穴の奥へと走る。出入り口に土で壁を作り、できるだけ風を遮断。完全に封鎖をしても良かったが、換気や光源のために上四分の一ほどを開けておく


 次に洞穴全体を木の壁で覆い、土に直接寝かせるのではなくベットを作り出しそこへ寝かせる。硬いのは我慢してもらい、早速応急処置だ


 俺の口を覆う布を代理魔法でとにかく大きな布を作り出す、彼女は冬山で鉄ではない不思議な素材の首輪に、肌着一枚という信じられない格好をしている。保温を目的に、患部である四肢を中心に布を巻く。血液の流れが止まらないよう優しく、厚く、温める様に

 最後に彼女の身体に布を被せる


「全魔眼。彼女を見ててくれ」

〈了解致しました。主は何を?〉

「お湯を用意する」


 正直火を焚くのは避けたいが、四の五の言ってられない。出入り口の土を変形させて高さは俺の身長ほどのドーム状に作り直した

 まずは出来るだけ乾いた小枝と薪を作り出す。小枝は竃の中心に集めて置く。その枝の山を囲う様に左右に薪を一つずつ、俺から見て奥に一つ。次は左右の薪を柱替わりに幾つもの薪を並べる。この時、枝の山が見える様にスペースを残す


 リュックから予備オイルを取り出し、枝に少しかけてから火打ち石で素早く火をつける。残したスペースに更に薪をたして焚き火の完成。さらにドームの屋根には煙突を付ける。煙を逃がす為だ。できるだけ乾いた物を用意したが、煙も出るし換気も欠かせない


 八つの足と網目状の板を繋げた鉄製の簡易的な台を焚き火の大きさに合わせて設置。底の深い鍋と大量の水を用意してその台に乗せる。鍋は自分の身長と変わらない高さに設定したので、軽く捻るだけで水の出る簡単な蛇口を付けた


「こんなもんかな」

〈お疲れさまです。あの久遠人は大人しく寝てますよ〉


 事務的な会話を終え、俺は少女の寝るベットの隣に机と椅子を作り出して腰を下ろす。ふと、出入り口の上から見える空が赤くなってきているのが見えた。机の上にオイルランプを出し、灯をともす

 二つの光源で洞穴が随分と明るくなった。焚き火のおかげで温かくなってきたので、ニット帽と防寒具の上着を脱ぎ少女にかける。すると全魔眼はどこか諦めたかの様な、情けない様な声を出した


〈それで? どうするんですか〉

「質問の意味が分からないな」


 夜は都合がいい、焚き火の煙が見えづらくなる。洞穴から見える空がどんどん色を変えていくのを眺めながら全魔眼の話に耳を傾けた


〈引き渡せるんですか。魔王にこの久遠人を

 主はやると決めたらその目的を達する為に努力を惜しみません。友人のときと同じです。わたくしにも読めない心の底でどうお考えで?〉


 全魔眼でも読めない心の底って何だろう。俺はいつでも素直に生きているだけなんだけどな。深層心理ってヤツかな

 でも確かに、助けると決めて動いてしまった手前、ウィルに引き渡すのもあまりいい気はしない。あいつは国のトップクラスの魔族。仕事はしっかりとこなすだろう。そうなると、考える限り良い方へ転ぶ事は少ない


 だからといって、子供の俺が出来る事なんてたかが知れている。力や権力は欲しいとは思わないが、悩むくらいなら持っておきたくもなる


「ん、んん」


 全魔眼への答えを導きだす前に少女がうっすらと目を開けた。腰を浮かせて顔を上からのぞいてみる


「大丈夫か?」


 俺の顔を見て驚いたがすぐあとに、微笑み右腕を上げようとした。こんな状態で動いてもらっても困るので左手でそれを止め、首を左右に振る


「あんまり動かしちゃいけないよ。えっと、君の名前を教えてもらっても?」

「名前は無いの」


 質問をするなり直ぐに答えが返ってくる。帰ってくるのはいいが、名前が無いというのはどういう事だ? 全魔眼。鑑定眼で名前って出てくるか?


〈一応は見れますよ。偽装や遮断で見れない場合は別ですが〉


 なるほど、なら鑑定をしておいてくれ

 全魔眼への指示を出し、俺は少女に別の話を持ちかける。なぜだか彼女の警戒も溶けているようだし、畳み掛ける様に食の話を切り出す


「じゃあ、他の話をしよう。お腹とか減ってない? 今の君には消化のいい物が良さそうだけど、食べる?」

「食べる」


 少女は大きく頷く。しっかりと意思の疎通が出来るようで安心した。一度頷いて何か作るとしますか。まずは焚き火から火を移して、もう一つ料理用の場を作らなきゃな。リュックの中の野菜が役に立ちそうだ

 洞窟の入り口に建てた土を更に変形させていると全魔眼が鑑定を終えて話かけてくる。返事はせず、結果だけを聞く


〈正直理解不能です。所属は当然の如く久遠人。名前はunknownと表記され、スキルは無しときました

 更に面白いのは首についているあの首輪、名前は『奴隷化の首輪』半分壊れてる欠陥品でしたがね〉


 奴隷化の首輪? なんだそりゃ。あ、どっかで聞いた事ある様な気がする。いつだっけな。……おもいだせないから、やっぱりいいや。半分壊れているってのは何だ?

 お湯用とは別の鍋に野菜を放り込みかき混ぜる。ゆでている間にお湯で彼女の患部も温めておくか


 四つの桶を作り出し蛇口を捻ってお湯を貯める。これに布ごと温めるつもりだが、あっているのだろうか? どの道できる限り体力が回復したら手は切断するつもりだが、今は伝えない方がいいだろう


〈首輪の効力は大きく四つ

 指示の強制化、嘘をつく事をできなくする、行動の制限、現在地の特定機能

 この内、行動の制限と現在地の確認が故障しています〉

「というと、どっかから逃げてきたのか」


 ついつい口に出してしまった。手足をお湯につけて痛そうな顔をしていた少女が首を傾げる


「なにかいった?」

「なんも」


 十分に元気だ。信じられない生命力。少し安心できる。それもそうか。そうでなくてはこの山で生きていく事は困難だろうし、これが久遠人って事なのかな

 まあいい。そろそろ野菜もいい具合になってきただろう。食事にしよう。……それにしても名前が無いってのは可哀想だな。名付けでもしてみるか

 〈情が移りますよ〉そんな惨い一言に逆に考えたくなった


 彼女の上半身を起こし座らせた。温めたり身体を起こしたりと忙しいが、嫌な顔はしないで受け入れてくれる。確かに、もう既に情が移ってるって事だな

 手は動かさない方がいいので、俺が直接スープを口には今で食べさせる。俺が聞く前に感想が口から漏れだした


「あったかい」


 ……なんだろう。この気持ちは


〈戻れませんよ〉

「構わない。なあ君」


 全魔眼への返答の後、彼女へ名前を与える事にした。この子は俺が守ろう。頭を優しく撫でる


「君の名前はアン。アン・オーエンだ。そう名乗るといい」


 安直な考えで申し訳ないが、unknownから頂いた。俺に名前と付けるのセンスは無いが、許して欲しい

 さて、どうするか考えなければならないな。ウィルにどう説明するかとか。逃げるという選択肢は無い。どんな力を使っていたかは知らないが、この山脈にいると解っていた。俺に残されているアンを守る方法は一つだけだ


「私の名前?」


 名前が気に入らなかったのか、まるで反応のなかったアンがようやく呟く。今にも泣き出しそうな震えた声


「気に入らなかったか?」

「ううん。とってもいい名前。じゃあ、私の名付け親?」


 意思疎通をしっかりとこなせるアンは俺を指差して更に潤ませた。もう、泣く一歩手前。名前は気に入っているようだし、理由は解らないが名付け親である事は変わらないので頷いておく

 そして涙を流しながらの衝撃の一言


「じゃあ。私のパパ?」


 十歳前後ってこんなに可愛いのか!? 父よ。パパと呼んでやれなくて本当に済まなかった! これが親の気持ちなのか。今ならアンの為になんでも出来そうだ

 涙を流すアンの頭を撫で落ち着かせる。自分が誰かも解らない。そんな状況で与えられた名前は、彼女にとって、自分自身を見る事のできる特別な物だったのかもしれない


 だとしたら俺の安直な考えでつけたなんていえないな。少し困る


「す、好きな様に呼んでくれ」

〈前途多難ですね〉

「どうとでも言うといい」


「誰と話してるの?」


 ついつい当たり前の様に全魔眼と話してしまった。涙を拭うアンが首を傾げる

 ふむ、どうにかお前の声をアンにも聞かせる方法って無いのか? アンに秘密はなしといこう


〈無くは無いですが。まあ、一回やってみますか。……どうです。聞こえますか?〉


 何をしたのかしらないが、全魔眼の声が聞こえたのか。アンが急に首を左右に降り始めた。誰かを探す様に、少しばかり鋭い目に皺を寄せて。最終的には理解できなかったのか俺の顔を覗いてくる。可愛い


「何か聞こえるの」


 声の正体を教え、全魔眼本人に説明を加えさせる。彼女の異常な回復力のおかげで明日の朝には治療を行えそうだ


〈ですから、私の魔眼の一つ。共有眼のみで繋げて声を届けている訳です〉

「凄いんだね。じゃあ、名前はなんて言うの?」


 久々に聞いた気がする。全魔眼が素っ頓狂な声をだした。確かに、一時期名前をつけようかと思っていた。すっかり忘れてたね。結局全魔眼は、〈私は全魔眼です〉なんて答える。なんだよ。欲しいと言えば幾らでも考えるのに


 食事を終え、お湯でアンの長い髪を洗い。身体も拭く。患部の状態を確認したりもしたが、流石に回復力が高いとはいえ治る事はなかった。腐ったりミイラ化したりしているのだから当然だ

 明日の朝、話をして腕を切らせてもらおう。すぐに回復させる


 そのあと、副都に戻ってウィルと話をしなければならない。この子を生かす為に


「アン。もう遅いから寝るといい」

「うん。お、おやすみなさい」


 始めていったのか。恥ずかしそうに顔を伏せた


「おやすみなさい」〈おやすみなさい〉


 後悔はない。ある訳がない





 ヒロインだよ! え、アビー? イケメン枠でしょ?

 アビーだって主人公の中じゃあヒロイン枠ですよ。私の中ではアンが一番ですがね。実は、アンは谷底に落ちる前から考えていたキャラなんです

 もっと後になるかと思っていたのですが、前に一度ストーリーで詰まった時! ここで入れる事を思いつきました。仲間にするタイミングに悩んでいたんですが、ベストだったのではないかと思いますね!


 話は変わりますが、他の投稿者さんのいう通り。コメントというのは元気を貰えますね。毎回いきなりくるんでドキッとしますけど。その感覚は堪りません


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