Q:本当に久遠人だってのか? A:この山であの格好はそう思っても良いかと
3747文字→3782文字
街を出て三日。あれから街には戻っていない。六日分の食料しか買っていないのでそろそろ戻るか。それとも可能性の低い仮に出るか迷う所だ。もっと買ってよかったのだが、この地方の、この時期では保存がとてもしやすく。ついつい生ものを多く買ってしまったのだ。野菜だ、キノコだ、生肉だ。魔物以外の肉をリュックに入れているのは新鮮だ。新鮮な物だけに
〈……ハッ!〉
乾いた蔑みの笑いを無視して作り出した双眼鏡を覗く。凹凸レンズの仕組みがよく解らなかったので多少無理はしたが、ガラスは何とか作れるので及第点だと思う事にする。因みに落第点はどちらも解らない場合
初日から山脈の中でも高い山に登り、双眼鏡と千里眼で辺りを探してみてはいるものの。手がかりは無しだ。今俺は茶色い地面と雪の地面の間に立っている。登るのだって楽じゃない
茶色い地面に突き刺した先が数センチだけ曲がったベニヤ板に背中を預ける。高い所から探すにあたり、手始めは『久遠人が水の魔法を使えない』というのを仮定して探してみた。水の魔法が使えないとなると水分の補給に川の近く三十分以内の場所にいると思う
火を使って雪を溶かすにしても、火の明かりや煙で大きく痕跡を残すため、俺が出る間もなく発見されているだろう。もしも雪を直接食べているのだとしたら、もう死んでるかもしれない
仮定だからこれで見つかるとは思っていなのだけどね。もう飽きる程見回した白化粧の山々、動く動物なんてほとんどいない。ちっちゃな兎が時々見えるくらいのものだ
まあ、一ヶ月も山脈中を回れば、俺らなら何かしらは発見できるはず。諦めるのにはまだ早すぎる
「前方、異常な〜し」
〈全方も異常ありません〉
俺と全魔眼の捜索範囲の担当。俺は正面を、全魔眼はそれ以外をみている。期待していた回答もなく、俺は双眼鏡を無造作に地面に置かれたリュックにしまう。少し強くなってきた雪が目に入る前に、額にズラしていたゴーグルを降ろし、背もたれにしていたベニヤ板を引き向いて地面に置く
そう、これはただの背もたれではない。雪国での移動がツラくて思いついた解決方法
その名はスノボー
いちいちありもしない道を自分で作る上下運動から俺を救ってくれた自転車の変わりちゃん。前世では乗った事がなかったので、移動中何度も気にぶつかったり転んだりをして骨折をした事は誰にもいえない秘密
現代風の転んだら外れる式には出来ず、がっちり固定なのが骨折の理由だろう。一昔前はそう簡単に板が外れないので、スキーは怪我と隣り合わせだったらしい
現代の力で俺の仕事がまた一つ減った
〈だから働いてないでしょうが〉
「最近、眼球がどうやって凍っていくのかに興味があるんだ。個人的考えでは滑膜から凍っていくと思うんだ。滑液よりも先にーー」
〈おや、主。あっちの方で何か動いた気がします〉
腰を下ろしてボードと足の固定が完了した直後だった。全魔眼から不確定な情報がもたらされる。大体いつも不確定だが、今回はなんでも聞くつもりだ
〈北側、隣の山の中腹、大きな杉の木が目印です〉
さっきの脅しのおかげか相当的確な位置情報に感動を覚える。千里眼をリンクさせる指示を出し、バランスをとりながら立つ
熟練度によって俺の千里眼は相当成長した。現在はどのくらいか解らないが、今回は乱用しているので更に伸びるだろう
切り替わる視界。流石に遠すぎる為、大きな杉の木を中心に広範囲の白い森をほとんど真上から見下ろす。一瞬、ほんの一瞬だけ薄い赤色の手が見えた。紫色に見えなくもない
「ん?」
〈どうしましたか〉
全魔眼に問われたが思い違いかもしれないので「なんでもない」それだけ伝えて千里眼を閉じた
身体は東を向いていたので軽いジャンプを数回繰り返し、東へと下り雪が深くなってきた辺りで大きく方向転換する。雪を切るボードで視界が一時的にホワイトアウト
「あ」
〈右に逸れる事をお勧めします〉
忠告も空しくリュックが木に引っかかりバランスを崩して無様に転ぶ。足から何かが折れる音が聞こえた
大きく息を吸って、大きく息を吐く。両足がどんどん熱くなっていくのを感じる
「めっちゃ痛い」
一度山を下りるのに半日、再び山を登るのに丸一日を費やしてしまった。その間にも雪はほとんど止まなかったから、一瞬見えた手とか、手のあとか残っていないだろう
目的の杉までまだ距離はあるが、中腰でゆっくりと移動している。かなりの急な斜面が続く。木々を足場にしなければ登れない様な場所まであり、周りには水場は一切ない
水魔法を使えると仮定し直して、食料問題はどうなる。川の近くなら飲み水確保の動物を狙うと思っていた。その線は完全に消える。猿の様に木の皮でもカジって生きてきたってのか? あり得ないだろ
〈主。何度みても目的地付近に人影はありません〉
「わかった。見つかってバレたら堪んないからしっかりみててくれな」
普通にいけば十分もかからない距離を一時間近くをかけて移動した。大きな杉の足場も酷い傾斜で、太い幹に足をつけて休憩を取る。山の上を見ても足跡一つなく、下をみれば俺自身の足跡だけ
その上、手がかりらしい物はどこにも見当たらない。雪をいうのは厄介だ。普通の地面ならば足跡の一つでも残るというのに、綺麗に消し去ってくれる
足場の悪さで他の木に捕まった場合、幹に傷がついていないかを確認させても発見は出来なかった
〈ふむ、千里眼の最大範囲で探してみても見つかりませんね。移動が速過ぎやしませんかね〉
「ん? どういう意味だ?」
〈主は半日で山を下りてます。ほとんど休みもせず、滑ってですよ?〉
そうか確かに、全魔眼の言う通り。例え久遠人とやらがどれだけ速く移動したとしても、隠れている身では限りがある。俺とその人の距離が遠退く訳がないのだ。かなり高い確率でこの山にいると見ていいだろう
だが魔眼の中でも、とりわけ使い勝手の良い千里眼で見つからない。そんな場所はどこか?
千里眼の視界は二通りの見方があり
見たい対象の位置が解り、なおかつ範囲内だった場合。その人を正面から見れ
対象がなく、広範囲を見たい場合。範囲内のポイントを決めて、その点を中心に視界が開ける。というものだ
勿論後者を使って捜している。どこにいるのかも解らない相手を、前者で捜す事は出来ない
後者の広範囲で見つからないとなると、真っ先に思いつくのは見る角度によって姿を隠す洞窟。それと壁際に作られたカマクラかそれににた雪の壁の二つ
この雪と山や森、これだけの条件ならこの二つは可能性は大だと思う。しかし、それを発見するというのが困難を極める。更にかまくらの方であれば既に通り過ぎているという可能性もあるな。さて、どうするか
「目を増やすのはどうだ? 効率も上がるぞ」
〈なるほど、共有眼と千里眼でさらに範囲内を隈無く見渡すのですね。しかし、主。私にもっといい案があります〉
もし全魔眼に顔があったのなら絶対ゲス顔をしていた。そんな声色
〈主の命を感じ取る力を使えば良いのです〉
ろくな提案ではなかった。この力は地中にいる虫の幼虫から熊などの大型動物分け隔たりなく感知でき、使える感知系で最も範囲が広く捜索できる力だ。勿論リスク有り
余りに命の気配を感じ過ぎてすぐに気持ち悪くなる。しかし、やる価値はありそうだ。感知範囲の広さでここら一帯を感知する。見つけたらラッキー。見つからなかったらアンラッキー
「ま、折角の提案だしな。手詰まり感も否めない。やるだけやってみるか」
〈パチパチ〉と口で拍手する全魔眼の声を聞きながら目を閉じ、拍手が黙ると俺も息を止めた。すると自分の心音が聞こえる。まずはここまで来た道のり、南の感じられる範囲全てを
大小はない。一つ一つの気配、何百万という命の気配を感じ取れた。どんな命がどの方向にあるのかまで解る。来た道の中にそれらしき気配はない
次は東、さらに北、最後の西で
「見つけた」
見つけた瞬間、止めていた息を再開。ほんの数十秒しか息を止めてないはずなのに、余韻が残っているのか。押し寄せる吐き気を我慢しつつ西を指差す
「ほとんど真西に少しだけ勝手の違う気配を感じた。多分土の中だ」
〈お疲れさまです。次は私の番です。しばしお休みください〉
いつもこれくらい素直なら可愛いもんなんだけどなあ
頭とか腹部にグルグルと何かが掻き回る感触を覚える。立ているのもしんどいので大きな杉に全ての体重を任せて腰を下ろす。まずは息を整える所から始めよう
冷たすぎる空気を吸うのが嫌で、リュックから昔の服を取り出し。口回りを覆う。深呼吸を十回こなし、揺れる頭に良いか解らないが、とっくに真上を通り過ぎた青い空を眺める。下腹部の違和感は深呼吸中にいち早く引いた。回る頭が大分収まってきた所で全魔眼がついに見つける
〈いました。主に繋げますか?〉
一度頷くと早々と視界が移り変わる。小さな洞穴がみえた。入り口は多くの雪がつもり、俺がやっと通れそうな程度の出入り口がある。これは手当り次第に探していたら見つからない
ゆっくりと前進する視界に探し人である久遠人が映る
全身を覆う。どこまでも汚れのない、雪よりも白い髪。肌の色は褐色や黒と称される魔族や、橙色のエルフとは打って変わり、白
この時期、この雪山では考えられない素足を折り畳み。足を抱えるか細い腕の上から、出入り口を睨む小さな目
空から落ちる雪よりも美しい少女がいた
ききききききききききき、きました!
初コメント! グへへ、ゲへ。返しちゃうぞ。この話を書き終えたから、倍の文字数でコメント返信しちゃうぞお。ウヒヒヒ
さて、冗談はこのくらいにして起きましょう。初めてのコメントいただき、舞い上がるあまり電車内で叫びそうになったのもつかの間。どこまで読んでいただけているか解りませんが、かなり私のためになる様なコメントを頂きました
まあ、この続きはコメントで返すので読んでいただければ光栄です
今私がしたいのはその事ではありません!
コメントをくださったお方の、なんて言うんです? 自己紹介欄? みたいな所に書いてあった言葉。確かに私はへりくだって作品の事を今まで『駄文』と称してきました
その言葉をみて、考えを改めました
私が可哀想でなくとも、私の作品が可哀想です
これからは駄文ではなく。……えっと、主人公が男なので『息子』と呼びましょう
以上、私の考え方を新たに表する後書きでした




