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Q:隊長。彼が確保対象で間違いないですよね? A:肌が人間みたいだし間違えないでしょ


 真っ白

 一言でこの辺りの景色を説明するならこれに限る。樹木生い茂る山の中は、ねずみ色の雲から降り注ぐ雪によって白い装飾が施されていた。誰にも踏まれていない新雪。一歩一歩が楽しかったのは最初だけ、今はもう寒いし、歩く度足が重いでツラいだけだ


 言わずとも解ろう。フィエの街を出て半年、季節は移り。冬となった。大陸最大の山脈で故郷探しをしている

 アビーに貰ったへそ出しスタイルの服装でこの環境は厳しい。なので服を新調

 クリーム色を基本とした防寒具を上下買った。襟や袖の先、裾野先にも白くて柔らかいファーがつく。外側と内側の生地の間には、これでもかという程の綿が詰まっており十分に体温を維持してくれている


 靴も買い。鉄の返しがついたブーツだ。雪で滑らないし、革製で溶けでた水も弾く。防寒着の色に合わせてニット帽も買った。紙も耳も全部帽子に詰め込んでいる。いちいち人に見られるのが面倒で髪を切ったのだが、現状それが解る状態ではない


 汗をかかない程度にゆっくりと歩いているのだが、時折目に入る雪が鬱陶しくてたまらないのでゴーグルも装着。ここまで完璧だと口元も隠したくなるが、長時間の移動を可能にするため防寒具の上着のボタンを開けたり、ズボンのチャックを開けたりと工夫している

 そのため口を隠すと体温調節が面倒になるからやらない。白い防寒具があればやってたかもしれないな。カモフラ率高そう


 現在フィエから東にある山を片っ端から登っている。どうにもこの近くには、アビーやお義兄さん以外の魔王が治める街があるらしい

 らしいというのは、道を大きく外れ似た様な道を歩き続けているから。まあ、なんていうの。あれだ


〈遭難?〉


 ……まあ、当たらずとも遠からず。どちらかと言えば当たりだ。俺は今、この美しい雪景色の中で迷子になっている

 水は平気だとして食料問題は危険極まりない。どういう訳かこの山脈、入った辺りから魔物が一切出て来ないのだ。すでにセーフフィールドの中に入ったという事なのかな。だとしたらデカ過ぎだろ。普通の道を歩いててもゴブリンが中腰の頭丸出しで待機していると言うのに


「平和だ〜」〈平和ですね〜〉


 まあ、そんなのんきな事言ってる余裕とか実はないんだけどね。食料は明日の朝分までしか残っていないからここらで兎の一匹でも見つけたい所


〈言って置いますが、わたくしだって探しているんですよ? さぼってませんからね?〉

「誰もそんな事は言ってない。俺だってなんの気配も感じないんだから」


 最悪。明日の朝になったら生命の気配を感じる技を使おう。虫とか沢山取れるはず。食虫の経験はないが、一度やってみたかったんだ

 バッタにサソリ、なんかの幼虫。テレビとかで見てた時は現実離れしていたが、実際に遭難すると役に立つ事この上ないな。テントとか買えばよかった。テントの前に焚き火とか作って暖をとりたい

 夢が広がるね


〈広がった所で一軒家建てて寝ちゃうじゃないですか〉

「夢と現実は別けて考えるべきだぞ。遭難中にやる事ではない」

〈遭難中に考えるべき事でもないですよ〉


「正論ですね。あ〜あ、明日の昼食は何かな」

〈もう虫でも食ってろ〉

「お?」「おや?」


 俺の危機感知と全魔眼の視界が同時に反応する。危機感知と来たか。そこそこの速度でこちらに向かってくる。まあ、食べられれば何でもいいや。熊とか冬眠してそうだからな。なんだろ


〈虎ですね〉


 全魔眼の言う回答直後に雪によって白く染まる木と木の間から、これまた白い虎が三匹飛び出してくる。かなりデカい。三メートルとまではいかないが、それに準ずるくらいの大きさだ。基本白い体毛に、所々にある黒い体毛。二つの色だけでカッチョいい

 体型は置いといて


「虎って、食えるのか?」

〈さあ?〉

「ま、この際なんでもいいか」


 ゆっくりと俺の周りを回る虎達を見ながらアダフさんの剣を作り出す。三匹狩っても全部食える訳じゃないし、取り敢えず一匹仕留めよう。さすれば向こうも逃げるであろう。ていうか何? なんで俺の周りをぐるぐると回っているの?

 もっとこう、ガバッと襲いかかるイメージだったんだけどな


〈戦いになると直ぐに剣を投げつける主よりは頭がいいですね〉

「やかましい」


 そう言いつつもやっぱり剣を投げる。遠距離攻撃最高。最近は指と指の間に挟んだナイフを投げる練習をしているためか、投擲の正確性が増してきた。関係ないな


 特に何の気なしに投げつけた剣だが、普通に避けられた。う〜ん。猪の魔物はこれで倒せたんだがな。この虎、魔物じゃないの?


〈ただの動物ですよ。見た所魔核もありませんし〉


 この世界の肉食獣は少なくともゴブリンよりは強い。これ確定

 あっさりと剣を避けられ、丸腰になった俺に左右から虎が襲いかかってくる。ふっ、丸腰になってから襲いかかるとはやるじゃないか


〈見事に弄ばれてますね〉

「反論できない事が悔しい」


 迫る虎達に合わせて俺は真上に飛ぶ。知覚のアシストはまだされていないので、身体機能もセーブ。それほどの高さはない。そこから右手にもう一本剣を作り出し、逆手で持つ。体を捻り左側からくる虎の脳天に剣を突き刺すと、そこを軸に反対側の虎へとケリをかます


 ただのケリで死にはしないが、大きく仰け反る虎を確認。その後は死んでいない一匹の確認だ。特に動きはない。ただ俺をジッと見ている

 すげえ、野生とは思えない。あれ絶対飼い馴らされてるよ。やっちまったな。足下で倒れている虎ちゃんも誰かに飼われているもんだとしたら。なんて謝ろう


〈むしろ襲われた事を責めればいいのでは?〉

「まあ、そうなんだけどさ。なんか可哀想じゃん」


 会話をしている最中、見ているだけだった虎が出てきた草むらと同じ場所に逃げていく。その動きに一切の迷いはない

 ここで俺が逃げてもいいが、思い過ごしだった場合。食料を流石に血を垂らす死体を持って逃げる訳にもいかない。そのうえ、この場に残る一匹は俺に襲いかかってくる気配はないがどこまでも追ってきそうな顔してみてくる


〈虎の表情が解るのですか〉

「そんな気配がするじゃん。……チッ!」


 思ったよりも早く誰か来たっぽい。それくらいなら舌打ちする事はないが、一人じゃないのが嫌な感じだ。気配から察するに、十人いる。非常にめんどくさい

 手遅れの様な気がするが一応、最初に投げた剣を消しておく。手の内を見せない為だ。スキル『動物の言語理解』的な物があったら筒抜けだけどね。全魔眼との会話はどうしよう。ひとり言で誤摩化せるかな


 ほどなく、十人の騎士が現れた


 魔族と言わなかったのは、見た目に黒い肌が全く露出していなかったためだ

 全身を真っ白な甲冑で覆う騎士達。シンプルとまではいかない装飾は程々に、気品を感じさせるたたずまい。白いマントのが揺れれば、腰にショートソードとスモースバックラーが見えた

 フルフェイスの兜、側頭部からは羽を模した装飾がなされ、さながら天使のようだ


 そしてなにより一番嫌なのが、この中の三人程。かなりの圧力プレッシャーを出している事だ。騎士達全員を番号付けするなら、一から三に番号を振る

 四番以降の誰かが俺に向かってではなく口を開いた


「隊長」


 短い言葉に三番に番号付けした騎士が頷く。頷いた後に左手を上げると騎士達全員が腰についているショートソードとバックラーで武装

 って、うぉい! いきなりそんな感じ!? 俺の中での魔族のいい奴設定が崩れたぞ!


「ちょ、虎を殺めた事は謝りーー」


 話を最後まで聞かずに二番の騎士が剣を振るう。途中から全魔眼の近くアシストが入り、ギリギリで剣が俺の頭上を通り過ぎる


〈百倍です〉


 聞かずとも答えてくれた知覚アシストの倍率。この半年で百倍の世界を使い続けた結果、百倍の世界になれる事が出来た。流石は成長期の男児、身長伸びたな〜、とか思ってたけど。筋肉とか多くなってたんだな

 百倍の世界で通常で動けるからといって前の様に二十倍上乗せ、百二十倍の世界で動けるという訳ではない。精々百十倍が限界だ。ここまで高めるの大変だったのに、まだまだ筋肉痛になれと?


 アレやコレやと考えているうちに三番以降の四名も二番の援護に入る。流石に合計五本もの剣を虎を打ち取った剣だけでは足りない。もう四本左手にも作り出して応戦

 二番の騎士の強さは脅威だが、それ以外はたいしたこと無い。直線的だし、軽く見切れる。申し訳ないが剣を振ってくるコースに投げつけた


 カウンターの投擲を躱せるとは思えない。簡単な感想だが、三番は隊長と呼ばれてたし、一番と二番の騎士も恐らく隊長とさして変わらない強さ

 他の番外どもは、その半分の力もない。一番弱くて、アビーの故郷で俺と一緒に子供達の救出を行った魔族と、とんとん。といった所だ


 手首を狙った投擲はダーツみたいに一直線で飛んでいく。軸の回転も加えているので安定しているな。普通に投げたら手をちょん切ってしまう。落ちた自分の手なんて見たくないだろう? 俺はあるけど

 当たると確信した瞬間、金属音が響く。アダフさんの剣が当たる直前ではるか上方に弾かれたのだ。なんと一番の騎士に

 はや! 二番よりも少し早いかもしれない。


 左手の四本全てを一番に投げつけ、背後に回る二番にはウォーターカッターを六発かましておく。噴出の勢いと鋭さ、環境の寒さが相まって一瞬で凍り付く。氷の刃となり二番の騎士を襲った

 二人がそれらをさばいている間に俺は全力で上に飛ぶ。水鉄砲式空中浮遊。谷底以来の使用だが、問題なく使えた


 命一杯のウォーターカッターと代理魔法による作業用ナイフの大量生成。それらを全て騎士達に降らせる。五十を越える素早い氷の刃と五百を越えるナイフの雨

 この騎士達は強すぎだ。面倒なので範囲攻撃。急所はなんとかして逸らすだろう。そしたら縛って治療する


 左手を上げるというアクションしかしなかった三番が動いた。同時に一番と二番も動き出す。三人は周りの騎士を回収して一カ所に集まる

 悪くない。一カ所に固まり、出来るだけ多くの飛来物をたたき落とす作戦だろう。または落ちてくる物をバックラーを傘にして防御

 どっちをやられても困るので追撃しよう。騎士達を分断させる為にデッカい水でも落とそうか


 俺の思考よりも早く騎士は動いた。そして正解は両方だった。四番から十番までが防御、一番と二番がたたき落とす


 それだけに留まらず、三番は防御を踏み台に俺と同じ高さまで飛んでくる。これで追撃の選択肢はたたれた。非常に面倒

 三番の鋭い斬撃が右腕を狙う。先ほど一番の騎士に打ち上げられた剣がタイミングよく落ちてきたので手に取り、長い金属音を出しながら下降する

 正直に言いましょう。訳も解りませんが、俺は殺されそうです


〈主! 下です!〉


 全魔眼の声通り視線を向ける。目に飛び込んできたのは二本のショートソード。専売特許の投擲をされるとは思わなかった。両腕を狙ってきた二振りを体を捻って無理に避ける。完璧には躱しきれずに左腕は三分の一程切り裂かれた


 舌打ち一つでもしてやりたかったが、気がつけば目の前にいる騎士の拳が左の視界に映る

 流石に避けきれない。解る事は、この後俺は殴られ地面に叩き付けられるという事。意識はそこで飛んだ





 ホントはもう少し騎士達と戦わせたかったです。この騎士達魔法とか使うんですよ


 剣と魔法の体現者達ですね。内の主人公に剣技は求めていません。言うて投げる事しか出来ませんしね。魔法厨です。回復厨です

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