Q:本当に届けても大丈夫なんですよね? テロ容疑で監獄おくりになったりしませんよね? A:平気だから
季節は秋。赤色や黄色、オレンジ色に染まる木々。茶色くなった落ち葉の大地が広がり、青い空に薄い雲が浮ぶ。高い山々が繋がり並び、どの山の頂上付近は茶色い大地がそのままむき出しとなっている
ここはカルタリンゴーンの中心に位置する首都。から丁度真北へと馬車でひと月の場所に位置し、多くの山に囲まれた街。魔王の一人が治める山脈丸ごとをセーフフィールドが覆う。大陸最大の安全地帯
国民は口を揃えてこの街の事を『副都』と呼ぶ
その副都の山の一つにノアはいた
レインコートの様に頭から足をすっぽりと覆う服は彼女の身体を綺麗に隠す。深いフードと高い襟によって顔は完全に陰に隠れている。肩にかける鞄は身体の大きさとは不釣り合いな程大きい。しかし、その鞄の中に入れられた手紙や荷物を届ける事が彼女の仕事
今回はフィエの街から出された速達の手紙を届ける為に、担当地域から外の地域まで出張ってきた
大陸の端にあるフィエから通常の手紙では早くても三ヶ月、遅ければそれこそ四、五ヶ月は掛かる。最悪は届かない。そんな道のりをノアは二ヶ月で到達した
元々自然に囲まれた場所で生きている獣人に取って、秋の山は食料問題、天候による悪路。どれもが障害になり得ないのだ
スキルを持ってすれば、
食料となる動物達も接近に気がつかず
悪路に至っては気にも止めない
これだけ見れば、配達人はノアにとって天職に近い。少なくとも彼女の同僚はそう思っている
山脈の一つ。山頂のほんの少しだけしか山肌が見えない山の中腹。紅葉の森に囲まれた緑色の屋根を持つ一軒家。周りには他の家はない。それどころかノアはこの一週間魔族の影すら見ていなかった
実は手紙に書かれている住所が間違って、無駄足になるのではないかと、どこかしらで思っていたノア。目の前に家が現れてほっと胸を撫で下ろす
そんな安心もつかの間、今度は別の不安に苛まれる
「今は住んでませんとかないよな?」
誰が返してくれる訳でもない問いを目の前の家を睨みながら呟く
鞄をかけ直し、中から皮の布に包まれた手紙を取り出す。皮には油が塗られており、雨を弾く様にしてある。そのため手紙はノアに手渡された時と変わらぬ姿のまま目的地へと到着した
手紙の他に、もう一枚紙とペンも取り出しておく
玄関先に立ち、木の扉を二度ノックする。扉の木が返事する。中身がしっかりとしていることがよく解った。そしてそれ以外の音は何もしないため、家の中に誰もいないという可能性が強くなる
「勘弁してくれ」心の底から思った事を呟いて更に二度、扉を叩く。今度はノックでなく、力強く叩いたのだ
扉が丈夫でなければ壊れていたかもしれない音を出す。嫌な汗を流すノアはその調子で扉を叩いた
三回、四回、五回……十回
十一回目の拳が音を出す前に、扉は素早く勢い良く開かれた。景気よく開かれた扉は焦るノアには全く反応できず、顔面へと吸い込まれていく
「ウゴッ!?」
女の子らしくない声を上げて、後ろに仰け反るノアはそのまま地面に尻餅をつく。その後に影の中にある鼻を撫でて血が出ていない事を確認する
ちなみに手紙は倒れる寸での所で、素早く、優しく胸へと押し付けた。綺麗な手紙を届けるという職人魂である
そんな気持ちも知らずに、家から出てきた腰まで届く程の金髪と、どちらも綺麗に光る金の瞳を持つ魔族が怒鳴る
「うるさーい! 私は今寝てるんだぞ! 大体、この家はこの場所にあると思っていなければこれないんだ! 君は一体誰だああああ!」
見た目は十代中場頃、見る者によってはキリルよりも多少若く見えるかもしれない。そんな魔族の、酷くぼさぼさになっている金髪は真っ直ぐと天井に伸びる物もあれば、何回転もして地面と平行になっている物もある。兎柄の高そうなパジャマに身を包み、可愛い熊のスリッパを履いていた
ファンシーな物に身を包む彼女が重たそうな瞼を必死に開け、ノアを指差して叫ぶ
よくもまあ、そんな状況で冷静に僕を見れる。思わず口に出しそうになった言葉を飲み込み、ノアは素早く立ち上がった。手紙を持っていない方の手でお尻の土を叩くと玄関で仁王立ちをする魔族に向き直る
「も、申し訳ありません。ヴェネチア様でございますか? 速達でお届け物です」
丁寧に入ったものの、やはり短い対応をする。こういったクレーマーみたいな客は速攻で離れた方がいいと知っている
言い終わるとノアの目の前にいたはずの魔族が姿を消した。次の瞬間には未だに胸に押し付けていた手紙をとられ、ていたのだ。目を離した記憶は一切ないのでノアはとにかく混乱する
訳の解らないノアを無視してヴェネチアと呼ばれた魔族は茶色い紐で巻かれた手紙の中身を取り出す。やけに太い封筒から十枚はありそうな便せんの束が出てきた
魔族の彼女は一枚目を手早く流し読みする
「あ、あの。受け取りのサインを頂いてないのですが」
混乱しててもやる事だけはやろうとノアが口を開く。手紙だけを見ていた視線がノアの方へと注がれる。魔族の目から眠気は既に感じられない
「それはごめん。どこにサインを書けばいいかな?」
「この用紙にお願いします」
魔族の対応の変わりようを見て首を傾げたノアだったが、深くは考えずに鞄と一緒に取り出したもう一枚の紙とペンを渡す
「ああ、なんでこうも面倒ごとって言うのは重なるのかな?」
「はい?」
受け取り、膝を折ってその上で記入するヴェネチアからそんな言葉がもれ出た。ノアは思わず聞き返す様に声が出てしまった
「おっと、ごめんね。獣人のお嬢ちゃん。気にしないでくれ」
「僕が獣人だとよく解りましたね。それに女である事も」
「同性なら解るでしょ」
「……ヴェネチア様は獣人はお嫌いですか?」
「ぷっ! もしかしてその質問。獣人だと気がついたヤツ全員に聞いてる?」
ヴェネチアは頭から空へと伸びる髪を揺らしながら質問を質問で返す。見事に当たっているその切り返しに、フードの中ではムスッとした表情を作る
記入の終わった紙をノアに返しながらヴェネチアは笑った
「私はこの大陸に住む獣人が大好きさ。それに獣人嫌いな魔族はそんな事聞く前に殴ってくるよ
君たちを迫害する魔族が減る事を祈ってる」
「は、はあ。ありがとうございます」
思った以上に熱く語るヴェネチアにどう返せばいいのか解らなくなったノアはどもる。やるべき事は全て終わり、ノアが言えから離れていこうとした時だった
「あ、お嬢ちゃん。少し待ってくれる?」
「む、なんですか?」
「フィエからここまでどのくらい掛かった?」
「え、ああ〜。二ヶ月くらいですかね」
「それはすごい!」
通常では考えられない時間を答えるノアに、ヴェネチアは満面の笑みで賞賛をおくる
「その早さを見込んで、私も手紙を送りたいんだ」
「返事ですか? それだったら、集会場まで手紙を持っていかないといけない規則なんです」
「いやいや、君を雇うから」
配達人が手紙を届ける為には、一度集会場で正式な手続きをしてからでないといけない
しかし、それを手続きなしで手紙を送る方法が一つある。配達人を直接雇い。手紙を届けるのだ
雇うと言ってもノルマが存在する正式な配達人が、集会場の支援なしと契約を捨ててまで個人に雇われる事はまずない
契約と支援以前に、最大の理由がある。配達人という職は、命の危険と隣り合わせな代償として、かなりの給料が払われのだ。そのため、訳ありが比較的多い
この世界に置ける手紙の常識として、一度におくる手紙は少なくとも三つが基本。主な理由としてあげられるのは、魔物の襲撃
これは一つしかない手紙が魔物の襲撃や、何らかのアクションで紛失してしまった場合、届かなくなってしまう為。だから最低でも三つの手紙を別々のルートを使って届ける
常識というだけでもちろん一つしか手紙を出さない場合もある。このノアが届けた速達の手紙は一通だけ出された重要性の高い手紙なのだ
因みに届けた投の本人にはその事は伝えられていない
これらをふまえても、正規の配達人が個人に雇われたくない理由も存在する
言わなくても解るだろうが、配達の件数の少なさと給料の少なさ。この二つだろう。危険を冒してでも手紙を届け、大金を手に入れようとする配達人が給料の減る個人契約をする訳がない
「残念ですが、僕は個人での契約はやっていないんです」
「手紙三つの配達で、六枚出そう」
「ろ、六枚?」
「ああ、大金貨六枚」
配達人が大金貨一枚を稼ぐには、村や街を十カ所巡って配達するか。速達で十回配達する必要がある
それを、たった三回配達するだけで。速達の手紙六十回分。怪しすぎる。しかし、とても割のいい仕事
「怪しく思うのも仕方がない。信用の為に半分を先払いにしてもいい」
「と、届け先まで話を聞かせてもらえれば気が変わるかもしれません」
「一つは首都まで
一つはもう一度フィエの街まで
一つは最北端の街、ラサンまで
順番通りとどけて欲しい。宛て先はその街の王達だ」
「テロでもするんですか?」
「アホか。手紙さえ差し出せば全員と謁見できるぞ」
普通なら危険と感じ、やめたかもしれない。だが
「アビゲイル様にもう一度会えるなら行きます」
アビゲイルの熱狂的なファンであるノアは三つ目の手紙の魅力に負けた
正直構成は微妙な所ですが、この話に問題はありません
キリル視点というのが問題あり。まだまだぼんやりって感じです
思った以上に学校も忙しいですし、投稿頻度がヤバ目です。ここ最近は毎日投稿(昨日? ちょっと解らない)できていましたが、どうやら投稿頻度は落ちそうです
最近このネタにしたのがもう回収してしまうとは……申し訳ないばかりです。文字数は増え、ますかね?




