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Q:魔王会議って何する所なんですか? A:最終的にはお茶会だ


 着替えを済まし、アビゲイルの馬車で移動する事三十分。会場についた時、バネカーは見知らぬ馬車が幾つも会場のある屋敷に止まっている事に気がつく。一滴の汗が額から地面へと落ちる

 バネカーの後に降りたアビゲイルが馬車を見て一言


「あり? 皆もう着てんのかな」


 バネカーは走った。妹であろうと客人であるアビゲイルを置いて脇目も振らず屋敷の中に入っていく。玄関の正面に見える大きな階段を上り、長い廊下を走って会議室に向かう

 会議室の大きな扉の前に彼女はうつ伏せに倒れていた。アビゲイルの側近であるコレットと似た様なメイド服に身を包んだ長い白髪の人型魔族。その倒れた姿を見たバネカーは震えながら彼女を優しく抱える


「ソア? 嘘だろ。なんで、どうしてだソアアアアア!」

「バネカー様、私別に死んでる訳じゃないんですが」


 ソエは彼女自身の事になると周りが見えなくなる駄目な主を撫でながら身体を起こす。バネカーは混乱したかの様に頭を抱えて泣きながら地面を見ていた。流石に疲れ気味のソアはふらつくがアビゲイルに寄って身体を支えられる


 アビゲイルはソアを支えたまま自身の兄を見る。自室で話した知的な兄はここにはいない。溺愛する妻が過労で倒れた事で錯乱してしまった間抜けな男が一人落ちているだけだった


「義姉さん。また扱き使われてるのか?」

「ああ、アビー君。お久しぶりです。そんな確かに今日はとても忙しいですが、いつも楽しく過ごさせてもらってますよ」

「嫌になったらウチに来ても良いんだぞ?」


「そんないけません! 私なんかの為に兄弟で争わないで!」

「義姉さん。ボクは女だって何時まで言い続ければいいのかな」

「ソア。私のソアが、ううう」


 アビゲイルの後ろで崩れ落ちるバネカー、おかしな妄想を始めるソア、自分の性別を説明するアビゲイル。カオスな現状を見ていたコレットとマールは声を合わせて一言


「またこれですか」「またこれか」

「レティ。ソアの手伝いをしてやってくれ」

「承知致しました」


 妄想にふけるソアの脇腹を軽く小突くコレット。短い唸り声とともに正常な思考へと戻る。アビゲイルは落ちているぽんこつの首根っこを掴み、片手で持ち上げると、開いた方の手でビンタを始めた。廊下に喧しい張り手の音が響き渡る


「あ、師匠。お久しぶりです」

「ええ、久しぶりですね。ソア、早速ですが従者の待合室はどこでしょうか?」

「おおい。兄貴、目を覚ませ」


 どんどんよりカオスな状況に堪えれず、マールは一歩引いてその光景を眺めていた。これだけ五月蝿い状況に会議室内の魔王達が気がつかない訳もなく

 第五魔王のアウグストが声を上げた


「部屋の外が騒がしいな!」

「筋肉娘でも来たのではないか?」

「そんな事どうでもいいけど、果物なくなっちゃった」

「はあ、俺が見てきます」


 アウグストに続き、第二魔王のトレミーが正解を予測。騒がしさには一切興味を持てなかった第四魔王のスキューノラは空になった器を物足りなそうに見つめる

 自分が行くしかないと解った第一魔王のウィリアムは席を立ち会議室ので入り口でもある三メートルはある重い扉を少し開けた。少しだけ開かれた扉の隙間から等間隔で放たれるビンタの音が増し、光の抜けた虚ろな目で叩かれるバネカーと目が合った


「どうしてそうなった?」


 思わず漏れた声にバネカーの目に光が戻り、熱い怒りの炎が灯る


「貴様ら! ソアに何をしたああああ!」

「うわ、叩き過ぎたか?」

「んな事言ってる場合じゃないですよアビゲイルちゃん」


 既にその場から離れていたコレット、マール、ソアの三人は、怒り狂ったバネカーの声だけが聞こえた

 怒りに震えるバネカーから手を離したアビゲイルは、直後ウィリアムに手を引かれ重い扉の中へと連れ込まれる。アビゲイルを引き入れたウィリアムは扉から離れた。離れて直ぐ、扉は急にバラバラになり崩れ落ちる


 その光景に会議室内の魔王が立ち上がった。真っ先に口を開いたのは、やはりアウグスト


「おい誰だ! バネカーをキレさせたヤツ! コイツ普通に強いんだぞ!?」

「この筋肉娘、妹なんだから喧嘩はよろしくなくてよ!」

「いや、ボクの所為じゃないだろ!? どちらかと言うならお前ら爺婆がソアに無茶させるからだ」

「そいえば廊下が騒がしいと思った」

「アビゲイルちゃん。言っときますが俺はソアちゃんにあれこれとお願いしてませんからね」


 五人が並び言いたい事を言いたいだけ言い合う。その前方では肩は脱力し、ふらふらと歩く黒いオーラを纏ったバネカー。さながらゾンビの様な動きをして、魔王達に手をのばす。五人がバネカーの手を見て回避体勢に移る


「バネカー様。よかった目が覚められたのですね」


 五人の誰かが動くよりも速く、バネカーに取っての女神の声が聞こえた。彼の纏っていたオーラは晴れ、笑顔でソアに抱きつく。声が聞こえてから抱きつくまでの動きは洗礼されており、尚且つソアでも受け止められる様な力にセーブされていた


 あまりの速さに目で追うのがやっとだった五人は各々が素直な感想を口にする


「俺はアレを避けれんな!」

「旦那もアレ位私に構ってくれてもいいのに」

「ボクより強い男が旦那になるなら、アリか?」

「妾の前でイチャイチャしやがって!」

「ホントになんで戦いが嫌いなのか解らん。流石天才は違うなあ」


 第五魔王から順番に出た感想をいい終えると、ソアはこれから料理の下準備をすると言って会議室から出て行った。まともな思考に戻ったバネカーは一回咳払いをするとバラバラになった扉に手をのばす。扉の一つ一つのパーツが宙に浮かび、一つにまとまっていく。最終的には元の重たい大きな扉に戻り、何事もなかったかの様に元の位置に収まった


 口元で拳を作りもう一度咳払いをするバネカーの顔は赤い。営業スマイルを作って一言


「皆さん随分と速いんですね。座りながら話しましょう」

「はは、兄貴。それで押し通せると思ってるのか?」

「ワッハッハッハ! 全く持ってその通りだなバネカー!」


 魔王の中でも暑苦しい二人に突っ込まれて、軽く頭に来たバネカーは二人が座る予定の椅子に話せない様に口を縛り付け、椅子に身体を固定。してやろうかと本気で思っていた


 彼は二人にからかわれながら全員が着席するのを静かに待つ。最初に動いたのはスキューノラ。次にトレミー、早々にからかうのを切り上げたアビゲイルの女性陣。女性陣が全員座るのを確認したウィリアムもそれに続く

 笑顔を崩さないバネカーはただただ待っていた。暑苦し格好をした二頭身の魔族が椅子に座るのを。アウグストは一向に座る気配はなく、バネカーの肩を叩いたり、ゾンビの様な動きの真似をしたりと長い事からかっている


「アウグスト君。そろそろ座ろうよ。折角早めに会議が出来そうなのに」

「黙ってろ第一魔王! 俺は忙しいんだ。ワッハッハッハ!」


 言葉では止まらないアウグストに、ウィリアムは苦笑いで溜め息をついた。アビゲイルは何を思っているのか兄の方を見続け、スキューノラは未だに名残惜しそうに果物の乗っていた器を見ている

 椅子に座る魔王の中で唯一。トレミーだけが本格的にアウグストを止めに入った。小さな舌打ちをし、二頭身の魔王を睨み付ける


 アウグストが振り返った瞬間。彼は既に椅子に縛られ、話せない様に口も拘束されていたのだ。急な事に驚いたアウグストは全員が座る室内を見回した後、トレミーを睨み付ける

 睨まれた本人は知らんぷりをして髪を三つ編みにしたりと手遊びをしていた


「ちょっと、トレミーちゃん。やるならなんか言ってくださいよ。危ないじゃないですか」

「何を言ってますの? ハーシェル。どんな不意撃ちも貴方なら防げるでしょう」


 俺じゃなくてさ。そう言ったウィリアムの話を打ち切る様にバネカーが話す


「第二魔王様。私を使いましたね?」

「男児なら何か言い返すくらいしなさいな。耳障りなので妾が先に手を出してしまったではないか」

「そんなんだからいつまで経っても結婚できないんだよ」

「その言葉はそっくりお返ししますわ筋肉娘!」


 ドヤ顔でバネカーの問いに答えた時、小さく呟く程のツッコミをしたアビゲイルの言葉は。しっかりとトレミーの耳にも届いたようで、机を何度も叩きながら、怒鳴りながら言い返した

 勝ち誇った様な顔のアビゲイルが口を開く


「ふふん。いつまでもボクが独り身だと思うなよ」


 騒がしかったはずの会議場が静まり返る。アビゲイル以外の全員が震えを抑えられなかった。基本的にノリのいい性格に、趣味は筋トレ、好きな食べ物は揚げ物など。男よりも男らしいが完全に定着しているアビゲイル

 まさかそんな女からそんな事を聞かされて、百年以上の付き合いがある魔王達は動揺を隠しきれずにはいられない


 暑苦しい魔王は縛られても反応は暑苦しく暴れて椅子から転げ落ちたり、冷静に物事を見ていた特徴のない魔王も驚きのあまり大きな口を開けて固まる

 マイペースを貫いていた魔王も器から目を離し、アビゲイルを見つめ、実の兄である魔王も今日の議題をまとめた資料を机の下まで落とした


 その中で、最も大きなリアクションをあげたのはトレミーだった


「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 屋敷ごと壊すのではないかと思われる長い悲鳴。黒いドレスに身を包んだ魔王は六人の魔王の中でも二番目に古い。古参の魔王。因みに独身


「き、筋肉娘えええ! どどど、どんな手を使ったんだあ!」

「どんなって、向こうから言ってきたんだよ。まあ、ボクより弱いから断ったけど」


 その返答にトレミーは落ち着きを取り戻し、他の魔王達も汗を拭って一息入れる


「馬鹿かお前は! 最初で最後の結婚チャンスだったかもしれないんだぞ? もったいなさ過ぎるだろ!」

「いやでもな兄貴。俺より強くないと駄目って言ったらそいつも乗り気で強くなるって言ってたし、それに中々有望そうな若者だったんだぞ?」

「まだ諦めてない上、年下なんてイヤアアアアアアアアア」


「申し訳ない魔王様方。今日の議題は急遽、私の妹でもあるアビゲイルの相手の事にしたいと思います。意義は?」


 折角作った資料をビリビリに破いたバネカーがその場の全員の顔を見る

 喋れないアウグストを含め、誰も異議を唱える者はいなかった


 魔王が集まってお茶を飲みながら最近会った事を話す会議。略して魔王会議はいつも通り、予定とは関係ない話になっていった

 話題にもなっている本人をおいて白熱する会議を聞き流しながら、窓の外を眺めるアビゲイルはいつの間にか考えている事を口に出していた


「ドラコート様とルルエル様遅いな〜。あ、フェンリルの眷属の群の話も、後で兄貴かウィリアムさんに言っとかなきゃ」





 後書き〜キリルの旅〜


 喉が渇いたら? 魔法で水を作ります

 夜寝るとき雲行きが怪しかったら? 魔法で木で家を建てます

 寒くて仕方がないとき? 魔法で防寒具を作ります


 旅の必需品。一家に一台、キリルを持とう!



 前回の続きで誰の目線でもありません。あれ? おかしいな。苦手な誰の目線でもない方がブックマークしてくれてる人が多い?


 お気をつけてください。基本は誰かの目線でやるつもりなので……


 ブックマーク五十行くとは、ありがたい限りです。だから今回は下げにきてます

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