Q:旅は何日目ですか? A:正直そんな事どうでもいい。俺は大魔帝王が強すぎる件について話したい
旅も六日目に突入した。太陽が珊珊としている。雲もなく。風もそこまで強くない。夏の暑さも程よく抑えられた今日この頃、陽気な一日になるはず
『だった』
いい陽気だというのに今現在、馬車は壊れてしまうのではないかという程揺れている
マールさんが屋根の上からナイフを投げ、コレットさんが御車台で叫ぶ、アビゲイルさんは、何が楽しいのかニヤニヤと笑いながら静かに座っていた
前方の緑が広がる地平線とは裏腹に、後方は青く燃え上がる。どこまでも禍々しく、触れたら確実に燃え移った対象を飲み込まんとする。青い炎
蒼炎を纏ったオオカミが群をなしてこの馬車を襲撃しているのだ
何故こうなったんだっけ?
この日の昼までは、これまでとかわらず暇な時間だった
「さあ! 領主様。今日もチェスで勝負です」
「ああ、構わないが、どうした少年。そんなに厚着にして。ボクがあげた服に、前に着てたボロボロの服まで」
「キリル様。そんな子狡い手を使ったって、一勝もしてないじゃないですか」
コレットさんの小言を聞きながら、俺は思った
俺は、欲求に忠実なんだ。と! 背筋が見てみたいんだ。と!
〈単なる性欲じゃないですか〉
全魔眼にはそんな事も言われた気がする
ゆったりとした時間の中、一時間をかけて俺は負けまくった。ボロボロの服は、シャツ、ジャケット、パンツにブーツ。計五戦して、一戦十二分という。とても短い試合内容だった。
愚直すぎるといわれたが、正直性格なのだから仕方ないと思うの
六戦目に入った時、俺の服装はアビゲイルさんに貰った物だけになってしまった。明日はコレットさんのつけてるカチューシャを貸してもらおう。あと小物も
なんでもアビゲイルさんのチェスの腕前は相当な物らしく。コレットさんがやる時は五戦に一回しか勝てないのだとか
知将だったとは知らなかった
六戦目の佳境。不敵な笑みを浮べたアビゲイルさんが、ビショップを持ち上げた。俺は知っていた。アビゲイルさんが笑ったとき、大体三手後には負ける事を
その時だった。ずっと見ていたアビゲイルさんの手が止まったのだ。今までは一度持ち上げればスムーズに一手をうつ手が動きを止める。その事を不思議に思い彼女の顔を見た
この旅で一番真面目な表情をしていた。軽く顔を後ろに向け、目線は完全に後方へと注がれていた
マールさんが声を上げるのと同時に、俺の危機感知もメーターを振り切ってみせた
なによりもヤバいのは、数である。百、二百とどんどん増えていく。一体一体の脅威も然ることながら、この数はヤバい
アビゲイルさんはチェスの駒を置くと馬車の戸を開け、後方を見つめた
「わぁお、随分と刺激的な光景だ」
「主様! んな事言ってる場合じゃないだろ!? フェンリルの眷属共だ」
フェンリル。青い体毛に包まれた巨大なオオカミの魔物。前にも言った事がある。オオカミタイプの魔物は、青くなければ、大体が下の上に位置する
では、青かったら? 上の下から、上の上。いわゆる。化け物の類いである
俺も、アビゲイルさんが外を見ている所から顔を出してみた
緑の草原に、青い体毛を持つ獣で埋め尽くされていたのだ。眷属って言ってたけど、こんなにもいるもんなんだね。すんごい数じゃ
体毛だけでなく、身体が青い炎に包まれているタイプもいる。このタイプは、危機感知がよく反応する。あの群れの中じゃ強い方だ
「主様、キリル様。扉をお閉めください。速度を上げます」
コレットさんの言葉に従い。アビゲイルさんは俺の頭を引っ込めると、扉を閉めた
どこか楽しそうに笑うアビゲイルさんに対し、マールさんが声を上げる
「姉さん! 向こうの方が足が速い。追いつかれちまうぞ!」
「問題ありません。寧ろ止まって交戦する方が、危険です。今はキリル様もいますし。なにより交戦したら税金で作られたこの馬車が壊されてしまいます」
「全くだな!」
豪快に笑いながら、アビゲイルさんがコレットさんに賛成した
「マール。犬どもとの距離はどのくらいで埋まりそうだ?」
「……速い奴で七分。遅いのは十五分」
「ふむ、ちょっと足りないか?」
「そうですね。二十分は欲しい所です」
む、俺とマールさんだけこの会話についていけてないと見た。俺は扉についている窓から後ろを眺める。流石にツラいだろうな。あの群とは戦いたくない
〈主だけだったら三十匹以内に食されますね〉
どんどん増えていく魔物は既に三百を越えた。という事は俺はアレの一割りでアウトか。弱すぎ俺ちゃん
前世の知識と全魔眼持ちとは思えない弱さだ
〈主は数の暴力されると、強さを十分に発揮できませんもんね〉
ええ、人間大のコウモリくらいなら何体でも来い! って言えるんだけどなあ
あ〜あ、なんで魔物なのかな? 少なくとも、会話の通じる相手なら天鏡眼を使えるばどうにかなるのだが……魔物は駄目だろ
〈魔力の消費も馬鹿になりませんもんね〉
「レティ。ナイフ何本出せる?」
アビゲイルさんが忙しなくむちを振るうコレットさんに声をかけた。何本出せるって、魔法か?
「十三本です。私は壊れた時の補充として使うので、投げて使うとなると本数足りませんよ?」
「マジか。僕は魔法あんまり得意じゃないからな」
あ、やろうとしてる事解った。俺の分野だ
「コレットさん。ナイフ見せてもらっても?」
「非常時ですので、あとにしてもらっても?」
ですよね〜。今はムリですよね
そう思っているとアビゲイルさんが口を開いた
「レティ。見せてみなよ」
ため息を吐きながら、コレットさんが一本のナイフを手の中に作り出した。そのナイフの柄を俺に向けて渡す
凄いな。俺ならナイフ一本丸々作るのは骨が折れる。構成物質も然ることながら、作り方の、つの字も解らない
「刃は何で出来ているので? 鉄、じゃないですね? 多分」
「銀です。魔力伝導が高いのです」
魔力伝導なんて単語は知らんが、銀で出来ているのか。Agで出来ているのか〜
構造は解らないが、最も重要な部分の構成物質に、元に出来る物があれば。知識と代理魔法でかなりの魔力を節約できる
机のチェスをどかし、ナイフを作り出す。取り敢えず、群れの数の分だけ作れば問題あるまい。と思ったが、机に乗り切らないので百で抑えておこう
大量の銀のナイフが机を埋め尽くした。結構銀は重いな。魔力を食う食う。まあ、ちょん切れた腕治すより全然安いんだけどさ
「なんですかそれ!?」
「へえ」
チラッと後ろを見たコレットさんが驚きの声を上げ、アビゲイルさんは感心した様な声を出す
あれ? 常識はずれだった? 今後はやらない方がいいかな
「少年魔力は平気か? 大分使っただろう」
「そうですね。結構疲れました」
これくらいが無難かな? あと三千本くらい作れるんだけど
「そうか。よし! マール。足の速い奴だけこれ投げて追い払え」
「了解。って姉さんこんな出して大丈夫なの!?」
マールさんが扉の窓から顔を覗かせて驚く。説明は面倒だから誰もしない
確かこんな感じだった気がする。現在はマールさんがナイフを八十本程投げ投げた所だ。追加しようかな
というかそろそろ二十分経つんでなかろうか?
「結構避けんなあ」
「無限にある訳じゃないんだからしっかり狙いなさい!」
その気になれば殆ど使い切れないくらい出せます
やりたい事はすぐに察せる事が出来た。しかし、なんでまたこんな時間稼ぎみたいな事を? 投擲のナイフくらいじゃ魔物なんて死なない。脳天ぶち抜いたって動くもん。倒せるのもいるだろうけど、時間が掛かる
因みに全魔眼の鑑定眼だと魔核は腹部にある。まあ、投擲では狙っても当たる場所じゃないですね
大体だ。馬車を壊したくないという理由なら、マールさんがもう意味を消しちゃってるんだよなあ
「不思議そうだな。少年」
「ええ、まあ。正直な話」
「ふふん。セーフフィールドって魔物が入って来なくなる訳じゃないんだ」
セーフフィールド。ああ、そこに逃げ込むのか
ちょっと待って。昨日の説明と違う
「それってどういう意味ですか?」
「そのままの意味さ。単なる魔物避けじゃないんだよ」
「主様。フィールド内に入ります!」
コレットさんの言葉を聞いて、アビゲイルさんが席を立つ
「さあ、少年。見ててご覧」
手をこまねかれたので扉を開いて後ろを見た。群れとの距離は百メートルまで迫っている。近!
どこからどこまでがセーフフィールドなのかが、よう解らん。コレットさんの宣言から一分が過ぎた頃だ。ぶつぶつとぼやきながらナイフを投げるマールさんの手が止まった
「やっとか。肩痛い」
マールさんの言葉とともに、重い何かが動く音が、地響きとなって耳に届く
キメラを越え、吐き気を覚える程、危機感知が反応した
見ていた光景は知覚百倍の世界の様に遅く見える。乗っている馬車の真後ろから地面が盛り上がっていく。群れの中心がへこみ、左右の地面が上がっていく。V状の大地が群れを挟み込み、赤く世界を染め上げた
まさに一瞬の出来事。走行中の馬車、その真後ろで地面が競り上がり、群のみを押しつぶした。魔核がどうとか関係ない。何もかもが潰れてしまったのだ。三百を越える命が赤い雨を降らせる
車内だというのに鼻につく生臭さ。これがセーフフィールド? どこにいるのかも解らない大魔帝王とやらがやったというのか?
キツい冗談だ。全魔眼というチートを持つ俺よりもチートじゃないか
「これがボク達の王。大魔帝王様の力だ」
ドヤ顔でアビゲイルさんがそういった
今回の後書き!
そこそこ書き直しました




