ゲオンダ!!ロールアウト!!
大統領府から数分。足を踏み入れた地下工廠は、巨大な生き物の胎内を思わせた。高天井を巡るキャットウォークをエンジニアたちが慌ただしく行き交い、排気口からは油煙と冷却ガスの混ざり合った独特の熱気が吐き出されている。
薄暗い空間を照らすのは、激しい火花を撒き散らす溶接アークの眩い閃光と、壁面に走る緑色のシステムモニターの群れ。頭上からは重機が走行する重厚な金属音が響き、大型油圧シリンダーの駆動音と圧空バスターの排気音が、重低音のノイズとなって床を揺らしていた。
空気中に漂うのは、焼き付いた油脂と研削された金属粉の鉄くさい匂い。無機質なコンクリートの床には、幾筋もの太い動力ケーブルが蛇のようにのたうち、奥へと伸びている。その最奥、薄暗がりの中で圧倒的な存在感を放つ巨躯こそが、出撃の時を待つ機動兵士ゲオンダであった。
「いよいよ、自分の番だ」
と椎名小豆太郎は心の中で呟いた。戦況は完全に理解している。就任式の途中であるが、オムロン少年のガルダンを倒さなくてはいけないのだ。彼は工廠まで歩く。大統領府の隣の隣にあったのだ。
「フッ。もし、この戦いで死んでしまったら、大統領なんて飛んだ道化だな……」
「死にませんよ」
新型機動兵士ゲオンダを準備していた整備員は声をかけてくる。普段なら、聞いていないふりをするだろうが、今回は場合が場合である。
「ほう。死なない理由でもあるのかな」
「死んじゃならない人だからです。この国を、世界を救ってください」
「私にそれほどの力があるかな……」
「ありますよ。このゲオンダならやれますから」
「そうか」
目の前のゲオンダは、両肩にレーザーキャノンを抱えた鎧武者のような外観なのであるが、おかしいのは両腕がないことであった。椎名は目をすがめる。整備員は、頭を掻く。
「こいつには腕は必要ないんです。乗ったら、わかります」
「そうか」
「安心してください。100%の実力を出せますよ。大統領なら」
「気やすめか……だが、その言葉に甘えておくよ……」
と返事をすると、椎名はハッチを開けてシートに座る。このゲオンダという機体がまさに腕がないことによって、いかに強くなるのかということがすぐにわかった。両腕がビームアームになっているのである。自在に両腕を触手のように動かすことにより、接近戦で優位に立てる新型の起動歩兵なのであった。




