大統領就任演説
椎名小豆太郎大統領は、演台に立った。目の前は、円卓になっていて新しく決まった大臣達が並んでいた。現在は午前11時であり、休日であったから多くの人たちがテレビで見ることになる。彼が何を言うかは国民の注目するところであった。
「諸君。私は、これから大統領になろう者である。チャーリー・パイナップルという。戦闘歩兵乗りであり、先の大戦では、艦船を五隻葬って、『赤い獅子座流星群』と言われたほどの人間であるが、つまり英雄と言っても良かろう。
しかし、このJ国においては、英雄という存在ほど忌避される者はいないのである。英雄はいつも酷い目に遭う。たとえば、源義経。足利尊氏。織田信長。英雄とわかった途端にフルブッコされる宿命を持っている。
足利尊氏はこの日本史の法則を知っていたので、できるだけ自分が前に出ないようにした。すると、後醍醐天皇が「英雄」の役割を受け持ち、皆からフルブッコされることで、彼は生き延びた。
関ヶ原の徳川家康なんかもそうであり、彼は、関ヶ原の戦いよりかなり前に、有力武将たちによって、石田三成が殺されそうになったのをわざと逃したのは、家康が「結局、目立った英雄は殺される」ということを知り尽くしていたからである。
このJ国においては、英雄を気取る人間は、皆、不幸になるのだ。だから、牛乳瓶の底のような眼鏡をかけて、わざと歯を出して、猫背でニタニタしながら、「さいざんすか」というようなそんな典型的な間抜けな日本人になってください。そうしたら、栄達の道は約束されます。
って言いたいくらいだが、でも、そんなタイプとは真逆の私が天下を取り、大統領になってしまった。本当にこのままだと、殺されると思う。マジで。日本史の法則によるとそーゆーもん。
歌舞伎界のプリンス、市川海老蔵も何で皆が口を揃えて「あいつはひでえ」と言われているのかという話である。これは勿論、当人が酷いからと言う側面もあるだろうけど、嫉妬ということで見ても良いだろう。多くの人たちは嫉妬というどす黒い本能を持っている。それでいて、一億総評論家である。
この日本では、何かを論じると、必ずその論を封じて「はい、俺の方が上」と言い出す阿呆が出てくる。しかも、そいつは上に立つだけの言説しかしないから、せっかく社会を変動させるための新しい試みがぶち壊しになってしまう。市川海老蔵だって、これから新しい世界を切り開くかも知れないのに、心ない人間によって封じられてしまうのだ。
聖徳太子なんかもそうであろう。晩年は、法隆寺に幽閉されたという話を聞く。英雄は、みんなそうである。しかし、これは外国もそうで「プルターク英雄伝」なんかを読むと、みんな酷い目にあっている。ギリシア神話で有名なテセウスでさえ、酷い目にあっている。となると、これは日本の法則というよりも、正負の法則なのかも知れない。
正負の法則とは、結局、人生プラマイゼロ。という法則であり、たとえば私は大統領になった。きっと悪い目に遭うだろう。韓国の大統領が大統領をやめると酷い目に遭いがちなのも、そーゆーことかも知れない。うん。だから、僕もこういう小説は書かない方がいい。ジャンルの奥に埋もれるべきだ」




