退却戦
白いガルダンが物凄い勢いで近づいてくるではないか。ガルダンの脚部は、地面との摩擦係数を瞬時に計算し、最適なトラクションで小ジャンプを刻んでいる。だからあの極限状態のスピードでも姿勢がブレないのだ。少年の天才と、新型の超機能が見事に噛み合っている。私のザーゴを視認するとすぐにビームライフルを放ってきた。
「シュピーン」
私はザゴをジャンプさせてそれを回避する。そして、インカムで少年に語りかける。
「少年よ」
「何だよ」
「君は何のために戦っているのかね」
「知らないよ。でも、犯罪者は倒す。これが当たり前の感覚でしょう」
「しかし、それがキャリア・アズドラバスタだとしたら、どうかね?」
「ひょっとして、あの仮面の人が」
「ああそうだ。私たちは、人類革新のための世直しをしている。そのためには、ガルダンが必要なのだよ」
多分、こう言うことなのだろう。私は、適当に理由をでっち上げた。人は、切羽詰まると、こんな雄弁なことを語れるのかと、我ながら驚いている。
「でも、あいつは俺が倒した。もし、本当に強い力があると言うのなら、それを見せてみろ!」
というと、オムロン少年は、高くジャンプしてビームライフルを放ってくる。私は、さっとかわすと岩陰に隠れる。
「武器になりそうなものは」
と見回すが、ここは岩場なので、大したものはない。
「隠れてばっかりいないで、戦えよ。おじさん」
とオムロン少年が叫んでいる。どこか舐めているような感じもする。これは、ギャフンと言わさないといけない。
「ええい。イチかバチかだっ!」
私はそう言うと、ジャンプして岩場を越える。作業用ロボの脚部に組み込まれた高出力アクチュエータが、作業用とは思えない瞬発力を生み出し、十メートルくらいなら飛べるのだ。
「そこだっ」
オムロンはビームライフルを放つが、動いているので当てられない。不整地での三次元空間認識能力と足裏の接地センサーの追従性は、旧式の作業機ながら一級品だった。岩場を網羅するその俊敏なステップが、少年の照準を狂わせる。
ザーゴは、俊敏な動きで、その場にあった大きな岩を持ち上げると、構造材の動的定格荷重を完全にオーバーしている『警告アラート』を無視し、剛腕は目の前の巨岩を力任せに引き剥がした。
「グオン!」
ガルダンに放り投げたのだった。しかし、次の瞬間、ガルダンの前で、岩が真っ二つになる。単に斬られたのではない。赤熱のビームソードの超高温が触れた瞬間、岩の内部に猛烈な熱応力が発生し、自壊するように真っ二つに弾け飛んだのだ。
「これで、お前も真っ二つだ!」
尋常ではないスピードでガルダンが迫ってくる。




