たぶん、特別。④
翌朝、レヴシオンはレティの大きな声で目を覚ました。
「またですか!?客室にお通ししてください!」
レティは普段声を荒げるようなことはない。聞こえてくる内容から察するに、よっぽど混乱しているのだろう。
軽く身支度を整え、廊下に顔を出す。
バタバタと使用人たちが忙しく行き来している。そのうちの一人に声をかける。
「ねえ、朝からどうしたの?」
「朝から……。そうです……朝から、カリナ様への来客が続いているんです。」
いつもは爽やかな笑顔の使用人が、苦笑いになっていた。
その元凶が集まるという客室を、興味本位で覗きに向かう。
なんの前触れもなく、公爵邸に朝から来訪する人間は一体どんな人物なのか。
ひょこっと覗き、レヴシオンは驚愕する。
一、二、三……。隙間から覗いただけで三人も見える。机の向かい側にも人が座っている上に、廊下の先からはレティの「客室へ!」という声が聞こえてくる。どうやらまだ来客は増えるようだ。
「何さこれ……。」
異様な光景にレヴシオンも困惑する。
そして新しく現れた人物を二度見して、声をかけた。
「え、団長さんじゃん。ねえちょっと、朝からどうしたの?」
ガシャガシャと甲冑の音を立てながら、ルイスが客室へ向かってきていた。
「ああ、これはレヴシオン殿。いい朝ですね。今日はどうしてもカリナ様に会わなくてはならないのです。」
ルイスは答えになっていない返答をし、客室へ入って行く。
その後ろをついてこっそり部屋を見回すと、ルイスを含め六人の男が席についていた。
サラサラの白髪、癖毛の橙髪、長毛の金髪、短毛の緑髪、髪を結っている赤髪、そしてルイスの青髪。
なぜか目につきやすいはっきりした髪色の人物が被り色もなく集まっている。
なんだか面白そうだな、とレヴシオンもさりげなく席に着く。もし黒髪の被りが入ってきたら席を譲ろう。
「私はカリーナ嬢に会う約束がありますが、皆さんは?」
よそ行きの顔でレヴシオンが席に着く男たちに質問を投げかけると、皆口調は違えど同じように答えた。
「いえ、約束はありません。しかし本日、なるべく早くカリーナ嬢に会わなければいけないのです。」
そうですか、と作り笑いで返すと同時に席を立つと、レヴシオンはカリナの部屋へ向かった。
異様すぎる。今カリナは無事だろうか。
昨晩ギクシャクしていたことも忘れ、ノックもせずにいつものように部屋の扉を開ける。
「カリナ、だいじょ……ぶっ。」
「レヴ様?毎度申しておりますが、ノックくらいなさってください。」
部屋に入ろうとするとレティに押し出された。
いつもはなんだかんだ中に入れてくれるので、今日は着替えているとか、何かしら取り込み中だったらしい。
こんな異様な状況で、カリナは不安になっていないだろうか。
「レティ。カリナは?なんともない?無事?」
レティは少し呆れた顔をした後、困った顔で答えた。
「……今朝いつもと様子が違っていらしたので、お医者様をお呼びして、診ていただいているところです。」
「どういうこと?僕も中に入れて。」
制止するレティを払いのけ、強行突破する。
中に入ると、ベッドで身体を起こしているカリナの横で、薄紫色の髪を垂らした白衣姿が腰をかけているのが目についた。
その白衣姿はカリナに向けて手をかざし、何か魔法陣を展開している。医者の身体に隠れてはっきりとは見えないが、どうやらあれがあの医者の診察方法らしい。
診察の邪魔をしないよう、魔法陣が消えるのを待ち、声をかける。
「カリナ、大丈夫?」
カリナからの返事がない代わりに、医者がこちらを向いて口を開く。
「診察が終わりました。……失礼ですが、レティちゃんを呼んでいただけますか?」
医者の対応に少しムッとしつつ扉を開き、扉の前で待機していたレティに声をかける。
レティはすぐさまカリナに駆け寄った。
「ルーク様。カリナ様は……。」
「身体に異常はないようです。ですが……。」
「良くもなっていないのですね。」
「はい、ずっと同じ返事しかいただけません。」
一人だけ蚊帳の外のレヴシオンは、大人しく黙って話を聞いていたが、さすがに我慢できずに口を開いた。
「どういうこと?カリナの話?」
レティが伏せ目がちに答える。
「……はい。朝からボーッとされていて、お返事いただけたと思うと同じことを繰り返し仰るんです。『ええ、そうよ。私がカリーナ・カタブレア。何のご用でいらしたのかしら?突然訪ねてくるなんて、とても紳士の行いとは思えないけれど。』……と。」
朝から同じ返事を……?カリナは来客があるのを知っていた……?
「え、朝から……って、さすがに来客があってからだよね?」
混乱しながら口に出すと、レティが俯きながら首を横に振った。
まあそうだよね、とポツリと呟く。
レティの答えは聞くまでもなかった。なぜなら、この部屋にいるのは来客者ではなく、レティが呼んだ医者だったのだから。




