たぶん、特別。⑤
明らかにおかしな状況の中で、一つだけ分かることがあった。聖女なら何か分かるかもしれない、ということだ。
ゲームなのだというのであれば、このおかしな状況を説明してほしい。
「レティ、カリナのことよろしくね。あまりあの医者せんせーに近づけないでよね。」
レヴシオンは自室へ戻ると、ドラゴンの姿に戻り、「ステルス」と呟いた。
最近は人間の姿のままで過ごしていたが、聖女の住む街までは、飛んで行くのが一番早い。
ドラゴンの姿用に開くようになっている小さな穴から廊下に出ると、シャフィがカリナの姿で突っ立っていた。
「私も行きたいな。」
「何してるの?今ふざけてる余裕ないんだけど。」
カリナもカリーナも絶対にしない、ずいぶんとかわいこぶったポーズで話しかけてきたシャフィを睨みつける。
姿の見えないレヴシオンから返事があり、シャフィは満足そうに微笑んでみせた。
「レヴちゃん、これ、妖精の仕業よ。」
「ふざけるのはその格好だけにしてほしいんだけど。確証はあるの?」
「証拠はないけど確信はあるわ。」
「今から聖女のところに行こうと思ってたんだけど。このまま君の話を聞くのと、最速で向かうのと、どっちが有意義?」
「間違いなくまず私の話を聞く方がいいわ。貴方の部屋に招待してくださる?」
レヴシオンは少し考えた後、はぁ、と小さくため息をして部屋に戻り、ステルスを解除した。そして人間の姿で扉を開けた。
「その格好を使用人たちに見られたら話がややこしくなるから、さっさと入って。」
シャフィは「おじゃましまーす!」とにこやかに部屋に入ると、扉が閉まるなり話し始めた。
「早速本題だけど、レヴちゃんって妖精が別の生き物……例えば猫とか人間とかに擬態していても感知できないみたいね。」
「そうだね。長く生きているけど、今まで妖精に会ったことはないと思ってた。だから猫だと思ってたシャフィが妖精って知った時は驚いたよ。分からなかったから。きっと今までも気づかないだけで会ってたことはあるんだろうね。」
「ええ。目の前にいたわよ。話もしていたわね。」
何気なく会話を進めていたレヴシオンは、シャフィの言葉に面食らった。
「え、いつの話?」
「つい先ほどね。」
「つい先ほど……って、もしかしてあの医者せんせー?」
全く気づかなかった。人間の姿で過ごしている妖精もいるのか。
「妖精って一体なんなのさ。」
妖精について知るための時間は今までいくらでもあったのに、興味を持たなかったことを少し反省する。
「私たちは何からも解放されて、自由なのよ。」
カリナの姿をしたシャフィが思い切り満面の笑みで、楽しそうに言う。
「その格好も?今更だけどなんでそんな格好してるわけ?」
「これは貴方の気を引いて話を聞いてもらうため。それから、聖女ちゃんのところにカリナも行くべきだからよ。」
「シャフィがカリナのフリをするってこと?」
「ええ。私の勘が正しければ、カリナは今ここにいない方がいいのよ。」
「連れ出す……のは無理か。カリナ、あんな状態だもんね。」
「そう、だから外にいる事実を確実なものとして認識させる。」
「どうやって?」
「団長さんも来てたわよね。団長さんの警護対象は……。」
「聖女。……聖女から団長さんに、団長さんからあの来客者たちに、伝聞させるってこと?」
「そう。聖女ちゃんには常に騎士団員がついているらしいわ。だからカリナが聖女ちゃんに接触すれば、通信アイテムですぐに連絡が入るはずよ。団長が会いに行った相手はここにいますよってね。」
「わかった。いいよ。じゃあ一緒に行こう。それで、なんであの妖精はこんなことしてるわけ?」
「理由なんて本人に聞かないと分からないわ。でもよっぽどの思い入れがないと人間への擬態は難しいわよ。」
「どういうこと?」
「知らない人間には擬態できないのよ。そして、擬態できる対象は生きている人間よ。」
「ふうん。あの医者せんせーは別で実在してるんだね。……ちょっと待って。じゃあ今カリナと引き離したほうがいいじゃん。あいつが犯人なんでしょ?」
「そうは言ってないわ。」
「でも妖精が犯人なんでしょ?まだ他にいるわけ?」
「あの子にはこの規模のいたずらはできないわよ。私と同じか、もっと強い妖精が関わってるわね。とにかく、聖女ちゃんのところに向かいましょ。」
ここにきて妖精に振り回されるのか。
長く生きてきて初めての体験に、他の策を提示できるわけもなく、レヴシオンは大人しくシャフィの言うことを聞くことにした。




