たぶん、分岐点③
「お待たせいたしましたわ。ユイ様、そしてルイス団長。今夕食の支度をさせていますから、ゆっくり談話でもしながら過ごしましょう。」
ガチャっと扉を開け、強気の笑みで客間に足を踏み入れる。
レヴシオンはユイから敵意は感じないと言っていたが、ユイが転生者……しかも原作を知っている可能性がある以上、カリーナの中身がカリナであることが吉と出るか凶と出るか、しっかり見極めなければいけない。
「か、カリーナ様!え、早い!ラソザ村、もう攻略したんですか!?」
「これはカリナ様。突然の訪問申し訳ありません。」
各々立ち上がり、一斉に話し始める。
カリナは優雅に席につき、抱き抱えていたシャフィを膝の上に乗せて頭を撫でながら微笑む。
「私が不在の間にレヴシオンと随分仲良くされていたようですけれど、私のことも混ぜてくださる?」
気持ち的にはふんぞり返り、相手を見下す勢いだ。自分が不在の間に下々のものが私のレヴィと楽しんでいるなんて解せない、そんな感じで気持ちを作る。
「もちろんです!カリーナ様!やっとお話できて幸せです!」
「あら、羨望を集めている聖女様にそんな風に言ってもらえるなんて、他の方から刺されないか心配だわ。」
「わああ……。あの!……いやでもまだ親密度上がってないし無理かな……でも、カリーナ様、口調とか無理なさらなくていいですよ。わざとそんな態度とってるんですよね?嫌われ役を買おうとしなくていいんですよ!私、カリーナ様がとてもお優しくて聖母のような方であること、知ってますから。」
急に何を言っているのか、この娘は。
作り笑いを保ちながら、声が上擦らないように慎重に口にする。
「ええ、私はとても優しくて慈悲深いの。私が嫌われ役、なんて風に聞こえたけれど、貴女の今の発言は聞かなかったことにしてあげるわ。」
まいった。いきなりこんな言葉を投げかけてくるやつがあるか。ユイさん、初めての会話で飛ばし過ぎです。
無言で、そして真顔で、ルイスに目をやる。
ルイスは驚き、慌て始めた。
「ユイ様、あまり変なことを言ってカリナ様を惑わさないでください。」
そうそう。貴方が聖女の手綱を握っていて頂戴。なんのためにここにいるの!
「ルイス団長、大丈夫ですよ。カリーナ様はこれくらいじゃ怒らないですし、気にされていません。普段は強気で傲慢に振る舞っておられますが、それは見せかけだけで、本当はお優しい方なんですから。」
カリーナちゃん、なんで悪役令嬢の振る舞いしてたのかな〜。
もうなんかすでに面倒くさいな……。
ため息をし、視線を落とす。
膝の上でニャアと鳴くシャフィは、どこか楽しそうだ。
カリーナの視線を追い、シャフィを見たユイが青ざめた顔で急に立ち上がった。
「カッ、カリーナ様!?なんで!?」
大きく叫んだ後、ブツブツ独り言を続ける。
「あれラソザ村の魔獣にそっくりなんだけど…そんなことある?ステータスも桁違い……。ただの猫ではないってことはそういうこと?私がイベントに行けなかった件もレヴシオン様の件もあるしイレギュラー続きだな……。」
かろうじて聞き取れるのは単語だけで、何を言っているのかまではっきりと聞き取ることはできない。
ゲーム知識と何かを比較しているのだろう。
……シャフィのことかな?
やっぱりヒロインの猫だった?返してあげたらいいかな?
「急に大きなお声を聞かせていただけたかと思えば、お次は随分小さなお声でお話しされるのね。」
「あっ、ごめんなさい、少し動揺してしまって……。」
「何に動揺したのかしら?お聞かせ願える?」
「……カリーナ様の撫でられているその猫ちゃん、もしかしてラソザ村から連れてきたんですか……?」
「ラソザ村といえば隣の領の小さな村だったかしら。何を仰っているのかは分からないけれど、この子のことが気に入ったのなら、貴女にお譲りしてもいいわよ。」
言った瞬間、シャフィが驚いた顔をする。
本人の意思確認は必要だったね。ごめんごめん。けれど本来の飼い主はたぶんあの子なのよ。
そしてユイも驚いた顔をしていた。
「え?いや、譲るって言うか、もしかして飼うつもりなんですか?……やっぱりカリーナ様はなんでもできちゃうんですね。あの魔獣が生きてるなんてことあるんだ……。知らないルートがあるってことは少し……いや、ちょっとややこしいな……。」
少し悩んで、考えることを諦めたのか、ユイが言う。
「すみません、単刀直入に言います。カリーナ様、私に聖女の稽古をつけてください。そして、貴女の死亡フラグを私に回収させてください。」




