たぶん、分岐点①
日はまだ落ちておらず、夜ご飯の時間には間に合ったようだった。
願えば叶う、このチートすぎる魔法能力の高さに慣れつつある。人として良くない気はしている。
何はともあれ、無事に自室に着いたし、シャフィとお風呂に入る前に、まずはレヴィに会いに行こう。それでチョコスコーンを一口、いや三口くらいいただいてから汚れを落としに行こう。
「貴女、今何をしたの?」
少し怯えた顔でシャフィがカリナを見る。
どうやら怖がらせてしまったみたいだ。ワープみたいな移動用の魔法はあまり多くの人には使われていないのかもしれない。
「えーっと……詳しく話すと少し長くなるのよね。私、人より魔力が多くて魔法の自由が効くのよ。追々説明するけど、とりあえず見なかったことにしてくれる?他の人に知られるとまずいのよね。」
「あんな異常な回復魔法を使った後で移動魔法が使えるなんて……。いいわ、助けてもらった命だもの。貴女の邪魔にならないようにするわ。」
そうか、魔法も適正とかあるんだっけ。カリーナちゃんってチートすぎるよね。
シャフィを抱き抱えたまま、話しながら部屋を出ようとすると、扉が急に開いた。
「カリナ様!!!!!」
目の前には心配そうにこちらを見つめる愛らしい茶色の瞳。
薄い金髪のツインテールが、妙に安心感をくれた。
「レティちゃん、ただいま。その様子だとレヴィから何か聞いてる?」
心配してくれる人を目の前にすると、少し後ろめたさが出る。黙って勝手な行動をとってしまってごめんなさい。
「……ノックもせず失礼いたしました。はい、お話は聞いております。……ですが、何よりまず湯浴みにいたしましょう。カリナ様も、そちらの猫さんも、スッキリした方がご飯を美味しく召し上がっていただけますから。レヴ様には私の方からお伝えしておきます。」
「ありがとう。じゃあ、先にお風呂にしようかな。」
自室に帰ってきたことをどうやってレティちゃんが嗅ぎつけたのか疑問に思いつつ、できるメイドだなと感心する。
「シャフィ、一緒に入る?メイドさんに洗ってもらう?」
「あら、お気遣いありがとう。貴女もゆっくりしたいでしょうから、手の空いているメイドちゃんにお願いできるかしら?」
「ということで、レティちゃん、よろしくね。」
かしこまりました、と言ってレティがテキパキと指示を出す。
貴族というのは良くも悪くもお風呂が自動で終わる。手動の人間洗濯機だ。
本当は自分でゆっくり洗って入りたいけれど、一度興味本位で洗ってもらってからというもの、彼女らの仕事を奪うわけにもいかず、一人で云々とは言い出せないでいる。
ドライヤーの代わりに風魔法と熱魔法で温風を浴びる。この複合魔法が使えるメイドは価値が高く、食いっぱぐれが少ないらしい。
隣でシャフィも乾かされている。いい気持ちね、なんて言いそうなものだが、レティちゃん以外の前では一言も発さず、一般的な猫のふりをしてくれているみたいだ。空気の読める上位妖精でとても助かる。
もう少しで髪が乾くなと、心地よく身を委ねていると、バタバタと自室の前が騒がしくなってきた。
「カリナ!?帰ったの!?」
ノックをせずレヴシオンが勢いよく扉を開ける。
「レヴ様、お気持ちは分かりますが、カリナ様がお着替えをされていることもあります。急にドアは開けないでくださいませ。」
「あ、うん、ごめん。」
まだ身支度が整っていないカリナを見て、少し反省したのか、それとも戸惑ったのか、とにかくレヴシオンの口からは謝罪の言葉が出た。
そして隣で乾かされているシャフィに気付き、大きな声をあげる。
「この猫なんなの?浮気?カリナ、カリナには僕だけで十分でしょ?」
いつも余裕のあるレヴシオンを見慣れているだけに、バタバタと騒がしい様子を見て、カリナは少し面白がっていた。
「レヴィ、どうしたの。そんな様子初めて見たよ。」
クスクスと笑うカリナに、レヴシオンは眉間に皺を寄せ近づく。
「ねえ、すごく失礼だよ。僕に何か言うことあるでしょ。」
そうだった、と口を閉じ、少し目を泳がせる。心配をかけた相手に取る態度ではなかった。反省。
「レヴィ、心配かけてごめんね。全部解決したしもう何も問題ないから。」
「大丈夫なのは分かってたけどさ。ちゃんと何があったかちゃんと話してよね。」
はーい、と少し背を丸めて返事をしたあと、チラッとレヴシオンの顔を見ると、なにやら様子がおかしい。
よほど心配をかけたのか、怒っているのか。
「レヴィ、何か言いたいことがあるなら言って……?レヴィとケンカしたくない。」
「あ、うん。僕も。僕もケンカはしたくないんだけど……少し言いづらい話があって……。」




