たぶん、庇護欲⑥
無事レヴシオンに連絡がつき、安心する。
さっさと片付けてお家に帰ろう。
それにしても、自分以外の誰かと一緒にいるレヴィというのはなかなか想像がつかない。
帰ったら誰とどんな話をしていたのか、またゆっくり教えてもらおう。
「おーい!この村には近づいたらダメだ!」
不意に外から声がする。
「ああ、知ってるさ!だからわざわざ来たんだ!」
御者が答える。その声は少し震えていた。
馬車が止まり、遠くで話し声が聞こえる。断片的に、流行病、手遅れ、引き返せ、などと、時折声を荒げて聞こえてくる。
そんな中で、聖女という単語も聞こえてきた。
なるほど、聖女ちゃんを連れてこようと思ったら悪役令嬢を連れてきてしまったのね。
ただ彼らはミスの中でも運のいいミスをした。私も回復魔法が使えるのだから。
どうやら主人公向けのイベントに巻き込まれた様子。村の人も困っているし、聖女のフリをして解決してから帰ろうかな。
片方しかない靴を握りしめ、裸足のまま荷車から降りる。
助けてもらおうと思っている相手の扱いが雑すぎるが、彼らもよっぽど切羽詰まっていたのだろう。仕方なし、聖女としてこれくらいのことは寛大な心で許してやろう。
念のためもう一度ヴェールをかける。身元が割れては困る。
「そのお話、私にも聞かせていただけませんか?」
「め、目を覚ましていたのか!」
話し込んでいる三人の前に姿を現すと、御者台に座っていたのであろう二人の男が膝を折り許しを乞い始めた。
「誠に申し訳ない。君に無断でこんなところまで連れてきてしまった。とんでもないことを言っているのは分かっている、それでもどうか力を貸してくれないだろうか。」
「お、おい!無断ってどういうことだ!?攫ってきたのか!?そんなことをして助けてもらえるわけがないだろう!なんてことをしてくれたんだ!」
「しかし急がなければ本当に手遅れになってしまう。必要な手順なんて踏んでいたら母さんは……。」
「それでもやっていいことと悪いことがあるだろう!」
実行した二人組は故郷を心配して勝手な行動をとった、という風に捉えてよさそうだ。
聖女相手でよかったね。寛大な心を持っているからね。力になってあげるわよ。
「目が覚めたら荷台に乗せられていてびっくりしましたが、私で力になれることがあるのであれば、詳細を教えてください。その後、誘拐ともとれる貴方達の行動を、見直させてください。」
「せ、聖女様……。」
三人は肩を震わせて涙を流した。
そうだろう、そうだろう。
聖女ってのはとっても優しくって崇めたくなるような存在感なんだぞ。もっと私に感謝してくれていいんだからね。
詳しく話を聞くと、先ほど断片的に聞こえてきた通り、流行病で多くの村人が瀕死状態、絶望的な状況らしい。
それでも完治させる自信はある。
……が、ピアスを外さずに対処できるものなのか、それが分からない。それに、聖女の代わりとして来ているのだから、あまり派手にやるのも目立って良くないかもしれない。
まずは一人に試せたらいいんだけど……。
瀕死の人間を移動させることは難しいだろうし、おそらく患者は全員一ヶ所にまとめているはずだ。
こうなったら奥の手だ。
「危機的状況であることは理解しました。ですので、持てる力を解放します。ただ、私の力は私だけのものではありません。ここで力を使ったと分かれば、今回のあなた達の行動も明らかにされてしまうでしょう。どうか、他言されませんように、村の皆さんに全員にお願いできますか?」
誘拐事件が表沙汰になったら困るはず。聖女にはルイス団長が付いていたわけだし、おそらく聖女の力を使うには国を通して何かしら手続きがいるのだろう。
「わ、わかった。もちろんだ。箝口令を敷かせるよ。」
「よろしくお願いします。では、集中したいので皆さんは荷台の後ろまで下がってくれますか。」
ピアスを外すところを見られるわけにはいかない。できるだけ彼らには距離をとってもらい、自分は村へ近づく。
さて、これだけ離れれば……角度的にもいけるだろう。
ピアスをさりげなく外し、口にする。
「ヒール」
門の時のように、エリアヒールを意識する。
でも今回は怪我ではなく病気を治したいわけで。浄化されるようなイメージで祈る。
身体の不調や悪いものが取り除かれますように。苦しみから解放されて明るい気持ちになれますように。
一面に水色の魔法陣が広がり、キラキラと白と黄色の光が瞬く。
お、黄色く光った。
おそらく効果が違うのだろう。きっとこれでみんな良くなる。解決だ。
心地の良いあたたかな風を浴び、幻想的な光景を目にした男三人は、駆け足で村へ入っていく。
村の方からは戸惑う声や泣き声が聞こえてきた。
ピアスを直し、物陰に隠れながら村の様子を確認する。
……うん、たぶん良い感じになってる。
本当は近くまで行って完治していることを見届けたいが、なるべく目撃者は少ない方がいい。
解決したしさっさと帰ろうかな、と後ろを振り返ると大きな山猫がこちらを見下ろすように座っていた。




