たぶん、比護欲④
「あのさあ、勝手に紹介しないでくれる?君だってついさっき僕の名前知ったところでしょ。」
小さな苛立ちが積み重なり、余裕がなくなる。
「さっきから本当に迷惑。僕が適当にあしらってるのが分からないの?空気読めないって言われない?今この瞬間カリナは君のために行動してるかもしれないのに。警護されてる自覚あるわけ?一人でこんなところにいるから狙われるんでしょ。」
捲し立てるように話すレヴシオンに、ユイは血の気の引いた顔をし、ルイスは驚いた顔をした。
先に口を開いたのはルイスだった。
「カリナ様が、どうされたんですか?」
不機嫌な顔でレヴシオンはカリナの靴を見せる。
「本当に迷惑だよ。君がちゃんと警護してないからこんなことになってるんだよ。そこの聖女さん、このベンチがお気に入りらしいけど、こんな出入り口の近くじゃ一人の時ならいつでも攫い放題だよね。」
「わ…たし、私のせいでカリーナ様が……?」
「カリナは公爵の娘だから狙われる可能性はゼロではないけど、今回のは君と勘違いされて攫われたんだろうね。」
顔を真っ白にしたユイが座り込み、何かぶつぶつと言っている横で、少し思案していたルイスが頭を下げる。
「まずは、申し訳ありません。少しだけで構いません、レヴシオン殿と二人きりで話すことは可能でしょうか。」
「そんな時間あるように見える?」
「こんな時だからこそ、適切な連携が必要かと。大切な話はやはり人前ではできかねますので。」
立場や振る舞いからして、このルイスという男はカリナの能力を知っている人間なのだろう。
ため息をつき、イヤイヤながらにレヴシオンは答える。
「そうだね、カリナのことを助けるために力を貸してもらえるかな。」
「ご傾聴ありがとうございます。……ユイ様はこの者と学園内で少しお待ちください。」
ルイスは控えていた団員にユイを任せる。
そしてレヴシオンを騎士団の馬車へ案内しようと歩き出したその時、大きな声でユイが二人を引き留めた。
「待ってください!私も、私にもお話を聞かせてください!きっとお役に立てますから!」
呆れ返るレヴシオンの横で、ルイスが答える。
「ユイ様。たった今、公爵家のご令嬢が大変な事態に巻き込まれている可能性があります。もしかすると命に関わるほど、急を要するのです。ユイ様のお気持ちはよく分かりますが、解決した後で、そのお力をお貸しいただけませんでしょうか。」
うまいこと言いくるめようとしているルイスに感心しながら、流石にもういいだろうと歩き始めるレヴシオンは耳を疑う。
「いいえ、ルイス団長。カリーナ様はまだ死にません。ありえません。私、カリーナ様のこと、よく知っているんです。でも大切な話になるので、大きな声ではなにも言えません。お二人のお話に、私のことも混ぜてください。」
真剣な目でルイスに話しかけるユイは、それに、と付け加える。
「私、多分分かりますよ。カリーナ様がどこへ行かれているのか。」
大きく目を見開いて驚くルイスを押し退けて、レヴシオンはユイの肩を掴む。
「ねえ、さっきから何適当なこと言ってるの?君はカリナの何を知っているわけ?関わったこともないのに。それに行き先の見当がつくだなんて嘘も大概にしてよね。」
気迫のあるレヴシオンに迫られているにも関わらず、ユイは堂々と繰り返す。
「カリーナ様はまだ死にません。イレギュラーもあって確信はありませんが、行き先の検討はつくんです。だって、カリーナ様は私の推しだから。」
「……本当に何を言っているのか分からないんだけど。」
「じゃあ例えばこれでどうですか?カリーナ様のお気に入りのメイドはレティちゃん。ツインテールでうさぎみたいに愛らしいメイドさんです。そしてカタブレア公爵家には植物園がありますが、あの立派な植物園を建てられたのはご当主ではなくカリーナ様です。それから……。」
「君、なんなの?なんでそんなに詳しく知っているの?ストーカーなの?団長さんこの子捕まえた方がいいんじゃないの?」
声をかけるも、ポカンとして現状把握が追いつかないルイスは役に立ちそうもなかった。
「ふふ、違いますよ。ストーカーではありません。私はカリーナ様のファンなんです。大好きなんです。だから力になりたいんです。」




